第五十四話 最短を望む男 ②
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侯王ヴァーツラフが甘やかされた男であり、自分と同じように第一王子となるブジュチスラフを甘やかして育てているということをヤロスラフは知っていた。
王弟ヤロスラフとドラホスラフが同じような境遇であったのは間違いない。モラヴィアでは第一王子こそが全てであり、第二王子以下は何かあった時のスペアとしても大事にしないというのがモラヴィアのやり方になっていた。
能力不足である自分と比較されたくないという第一王子の思いこそ大事にされて、第二王子や第三王子を気にもしないというのは実は最近になってからのことで、建国の王と言われるヴォイチェスラフの時代やその子、その孫の時代には第一王子至上主義という訳ではなかったという。
あっけなく倒された侯王ヴァーツラフとダグマール王妃の亡骸を見るに、やはり建国の王はこのまま侯国を滅ぼすようなことなど望みやしなかったということだろうか。血糊を拭き取ってドラホスラフが短剣を鞘へと収めると、近衛が封鎖した出口とは別の奥の扉から上位の官吏の者たちが現れる。
中央貴族たちは宰相を討ち果たすために王都を離れているような状態の為、今、玉座の間にはその能力を使って侯国を支え続けて来た実力派の人間が集まって来たということになる。
最後に奥の扉から宰相ウラジミール・シュバンクマイエルが現れた為、思わずヤロスラフは生唾を飲み込んだ。謀反人となった宰相が王宮に上がっているということは秘密の道を使ってのことだろうが、彼がドラホスラフを信じてここまでやって来たことに驚かずにはいられなかったのだ。
「ここに居る皆の者に告ぐ」
着替えなどしているわけでは無いので、相変わらず血まみれ状態のままのドラホスラフが皆を見回しながら言い出した。
「ブジュチスラフ第一王子およびオルシャンスカ伯爵令嬢マグダレーナは、南大陸へ自国の売却を進めようとしたところをファナ妃に気付かれ殺害をし、そのことをヴァーツラフ王とダグマール王妃に問われた為に、侯王と王妃を殺害した。我らは第一王子の手から救い出すために玉座まで急行したものの、すでに侯王と王妃は二人によって殺害された後だった」
という話にしようということだろう。悪いのはブジュチスラフ第一王子とオルシャンスカ伯爵の娘マグダレーナであり、侯王と王妃は二人によって殺された。悪の象徴である二人を正式に処分をしてドラホスラフが己の正義を掲げるという筋書きなのだろう。
「私はファナを殺していない!殺してなんかいないぞ!」
そこで顔を上げたブジュチスラフは涙を流しながら言い出した。
「ファナは何処に居る?ファナ!ファナ!私の元へ今すぐ会いに来ておくれ!ファナ!」
近衛たちは呆れ果てた表情を浮かべていたのだが、そんなことにも気が付かない様子でブジュチスラフ王子は泣き続けている。すると、後ろ手に腕を掴まれたままのマグダレーナが叫び出した。
「殿下!ドラホスラフ殿下!助けて!私はブジュチスラフ殿下に騙されただけなのです!唯一愛しているのは貴方!ドラホスラフ殿下!貴方なの!」
マグダレーナの声など完全に無視をした形でドラホスラフは前を向くと、
「侯王と王妃の殺害、モラヴィア侯国を南大陸に売却し、自分たちだけは外国に逃げ出して悠々自適な日々を送ろうとした二人を許すわけにはいかない!二人を牢屋に入れ、後に公開にて処刑処分とする!」
と、言い出した。
「早い、早い、早い、やることが早すぎるって」
ヤロスラフは思わず声を上げていた。
モラヴィアには一応、法律もあるし、裁判をする組織も存在する。その全てをすっ飛ばして公開処刑を宣言するのはアリなのかナシなのか。危急の状態でもあるし、これはアリなのか?
侯王の弟であり、ドラホスラフの叔父であるヤロスラフとしては、もっとこう、断罪するにしても色々とやり取りみたいなものがあるかと思ったのだ、その全てはすっ飛ばしてことが運んでいくことになったのだ。
あの兄なら、
「侯王とは全ての意志を尊重されるべき存在なのである!有象無象の周りはただただ!私の言うことを聞いておけば良いのだ!」
くらいのことは言い出して、周りに集まった人々を激怒させるくらいのことはしただろう。だというのに、何の話も聞かずにナイフでグサリ。しかもその全てを第一王子に押し付ける。そんなやり方で良いのか?それで良いんだろうか?時間が経つほど不安になってくるのは何故だろう。
「殿下!大変です!殿下!」
窓から飛び込んで来た男が何やらドラホスラフに報告をしているようだが、ファナ妃の手先となっている梟の人間なのだろう。
「カロリーネ様が誘拐されました!」
「は?」
「ダーナ様と共に、二人だけ姿が見えなくなってしまったのです。恐らくイヤルハヴォ商会の会頭、アクラム・イヤルハヴォが誘拐したのではないかと思われます」
「ダーナまでもが!そんな!」
今まで黙って跪いていた宰相ウラジミールが驚慌てて立ち上がった頃には、玉座の間をドラホスラフ第三王子は飛び出して行ってしまったのだった。
「ああ〜!殿下!そんな!殿下―〜!」
その背中を追いかけられずに足踏みをしていたインジフ・ソーチェフはこちらの方を振り返ると、
「ウラジミール様、ヤロスラフ殿下!ドラホスラフ様はカロリーネ様を助けたら帰ってくるかと思いますので、それまでの間、我々で出来ることはしておきましょう!」
と、言い出した。
「だから私がこんな時に王宮に呼ばれたのか」
と、ウラジミールは頭を抱え、
「え?これを機会に私が侯王の座を奪ったらどうするつもりなんだろう?」
と、王弟ヤロスラフは言い出した。
すると、首を横に振ったインジフ・ソーチェフが諦め切った様子で言い出した。
「ドラホスラフ殿下は恐ろしいほど建国の王に似ていると思いませんか?」
「似ている」
「似ていると思う」
ヤロスラフとウラジミールが答えると、ソーチェフはため息を吐き出しながら言い出した。
「そうです、建国の王は猪突猛進で一度走り出したら止まらない。そういったところがお顔だけでなく中身までドラホスラフ殿下は似ているのです。だからこそ、ヤロスラフ殿下は侯王の座を自分のものにしようなどとは思わないでしょう」
「確かに・・元々侯王の座など欲してはいないのだが・・」
建国の王ヴォイチェスラフは乱世の時代に侯国をまとめ上げたことでも有名で、その猪突猛進な王を多くの人間が支え続けていたという。
「我々でやれることをやるか・・」
「殿下はいったいつ帰ってくるのだろうか・・」
例えドラホスラフ王子が今はこの場に居なくても、やらなければならないことは山のようにあることは知っている。
「まずはブジュチスラフ王子と悪女マグダレーナを牢屋に入れるか」
宰相ウラジミールがため息まじりにそう言うと、周りの人間は速やかに自分たちがやるべきことをやるために動き出したのだった。
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