第五十三話 最短を望む男 ①
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やる気がない王子、モラヴィアの第三王子であるドラホスラフは恋をした。
新緑の髪に琥珀色の瞳を持つ、妖精のような可憐な容姿をしていながらも強い意志を秘めた瞳を持つ少女。侯爵家の立場を少しでも良くするために、隣国の第三王子にまずは目を付けることにした狡猾とも言える女。
太陽のように輝く王太子の婚約者カサンドラの隣で、楚々とした様子で佇みながらその琥珀色の瞳を常に光らせている現実主義の女は、眩い光のようにドラホスラフには映ったのだった。
幸いにもカロリーネとの結婚は侯王も王妃も許してくれた為、ドラホスラフは普段から全く関わりがない両親に対して、その時ばかりは感謝をした。そうしてカロリーネがモラヴィアで安心して暮らすには今まで通りではまずいのだと判断し、ドラホスラフは自分の顔を隠すのをやめた。
自分ではそれ程似ているとも思えないのだが、建国の王に似ているドラホスラフのことを侯王ヴァーツラフと第一王子であるブジュチスラフがあからさまに嫌うようになったのだ。ドラホスラフが軍部の掌握に明け暮れている間に、亡くなったパヴェルの婚約者をドラホスラフに押し付けようとして、世論を煽るようなことを行なった。
父王はオルシャンスカ伯爵が娘の幸せを願って勝手にやったことだろうと言っていたが、父王自身も動いていたのに違いない。完全にドラホスラフを自分の支配下に置く為には、好きな女などと結婚させずに、子飼いの伯爵の娘を当てがえば良い。
ドラホスラフが火龍砲の購入権を勝ち取って帰国をすれば、その功績をブジュチスラフのものとするし、ドラホスラフが短期間でパヴェル王子がまとめ上げた軍部を掌握すれば、それに危機感を感じて『海賊退治』という名目をつけてドラホスラフを海へと追いやろうとする。
「我が国に大きな被害をもたらす海賊団の根城となる島を見つけることと相成った。ドラホスラフよ、その海賊団を壊滅させた暁には、其方とカロリーネ嬢を即座に夫婦として認めてやろう!」
侯王の言うことは嘘ばかり。後からその根城となった島を探らせてみたところ、島には海賊などいやしない。架空の海賊団を追い求めて海に第三王子を追い出そうとするやり方は、辺境に自分の弟となるヤロスラフを追い出したやり口と似たものを感じる。
それでもカロリーネとの結婚のために、とりあえず船に乗ろうというところでハイデマリーがやって来た。ハイデマリーが従兄のイーライと共にドラホスラフの元へ訪れるまでは、侯王に従順に従っていれば、いずれはカロリーネと結婚出来るだろうとドラホスラフは考えていたのだ。
カロリーネが襲撃を受け、侯王の姉であるカテリーナ・バーロヴァの邸宅に移動をしたという話を聞いた時に、普通であれば愛する人を心配してバーロヴァ邸へと向かうことになるのだろうが、ドラホスラフはそれをしなかった。
それは何故かと言うのなら、彼女の安全を図るにはまずは結婚をして自分の伴侶とするべきであろうし、最短で結婚するにはどうすれば良いのかと考えれば、自ずと方法は見えてくる。
ドラホスラフが帰国後、一年以上もの間、モラヴィア侯国の軍部を掌握するために動き続けていたのだ。モラヴィアにも軍閥というものが存在し、これをまとめ上げるのに苦心することとなるのだが、愛するカロリーネを迎え入れる為にはそれも必要なことだと考えた。オルシャンスカ伯爵が財力を後ろ盾とするのなら、隣国の侯爵令嬢であるカロリーネには侯国軍を後ろ盾としよう。
そうこうする間に、宰相ウラジミールが謀反人であるとされ、討伐するための軍が編成されることとなった。この時にはドラホスラフの頭の中に、ここまで到着する道筋がしっかりと出来あがってはいたのだが・・
モラヴィアの侯都は内陸に位置するのだが、スニェシュカ山から流れるヴルタヴァ川を見下ろす形で城塞が広がっている。過去には何度もトウラン王国の兵士を退けてきた宮殿は美しいというよりも堅牢な造りをしており、兵士たちが宮殿に上がるためには幾つもの門を越えなければならない。
その全ての門が開放されていた為、何の苦もなくドラホスラフは国王夫妻が待ち構える玉座の間に到着することが出来たのだが、宮殿に勤める官吏たちは緊張した面持ちでその様子を眺めていたのだった。
玉座に座り待ち構えていたモラヴィアの侯王は、扉が開いて第三王子であるドラホスラフが現れると、
「ドラホスラフは反逆者となった!今すぐ捕まえて牢屋へと入れろ!」
と言って居丈高に命令をした。
この時までモラヴィアの侯王ヴァーツラフは自分の状況に気が付いても居なかったということだろう。侯王とは建国の時から特別な存在であり、誰もが侯王に対しては従順に従いお支えしなければならない。
だからこそ、血塗れの息子ドラホスラフも、父王への謝罪のために慌てて玉座の間にやって来たのだろうと考えたのだ。
侯王の言葉に答えるようにして、謁見の間の守護にあたった兵士たちは剣を引き抜いたが、その剣先を玉座に座る侯王に向けて構えた。
王妃ダグマールの侍女たちは恐怖のあまり尻餅をついたようだが、果敢にも王妃ダグマールは立ち上がり、息子に対して叱りつけるようにして怒鳴り声を上げる。
「ドラホスラフ!やめなさい!貴方は自分が何をしているのか分かっているの!」
この時のドラホスラフは、侯都の郊外に広がるカミール平原での戦闘からそのままの姿で宮殿の玉座の間へと到着しているため、血まみれの悪鬼のような様相を呈していたのは間違いない。
そのドラホスラフの後ろには王弟ヤロスラフが控えるように立っていた為、
「ヤロスラフ!貴様!やはりお前は玉座を狙っていたのだな!」
王弟の叛逆行為に怒りの声を上げて玉座から降りようとすると、侯王の胸に深々とナイフが突き刺さったのだ。
そのナイフを投げ打ったのは間違いなくドラホスラフであり、
「キャーーーーッ!陛下!陛下!嫌―――――っ!」
王妃が絶叫しながら倒れ込む侯王に縋り付くと、あっという間に二人の元へと辿り着いたドラホスラフは、自分の母の髪の毛を鷲掴みにして、涙に濡れる王妃の顔を見下ろした。
「ドラホスラフ!やめなさい!母に対して何をするつもりなの!」
「あなたが私の母として何かをしてくれたことなどありましたか?」
そう言うなり、ドラホスラフは腰に差した短刀を引き抜いて、王妃の喉を斬り割った。そうして、血塗れとなって息絶えた王妃の体を投げ捨てたため、侯王の弟であるヤロスラフが、
「いやいやいやいや、そんなにあっさりと殺しちゃって良かったの?君の両親だよね?」
と、問いかけずには居られなかったのだ。
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