第五十二話 建国王のお導き
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モラヴィア侯国は、今は滅びたトウラン王国の圧政と迫害に痺れを切らして独立した国であり、トウラン王国からは辺境の田舎侯爵が独立したところでまともに国としての運営など出来ないだろうと言われるほど、山と森しかないような土地だった。
海洋に面しているといっても海岸線は崖が連なるような形となり、港があると言っても小さな漁村が点在している程度のものだった。建国の王と言われるヴォイチェスラフは苛烈な性格の男で、トウランからの独立を果たすと遥か東の地から地質学者を招聘し、唯一、港に適しているだろうと言われたクリヴナの海岸線に大規模工事を行った。
当時は今よりも数倍貴重で高値がついた火薬を国庫が空になるのも構わずに買い占め、モラヴィアに他国でも類を見ないほど整備された港湾を作り出したのだ。
大型船の開発に成功をした各国が新天地を求めて大航海を始めた時代、船の建造の為に多くの木材を必要とした各国は、大型の港を整備したモラヴィアの木材に目を付けることになったのだ。
建国の王ヴォイチェスラフは猪突盲信型というか、一度決めたことは最短距離でやり遂げる力を持った男だった。集中すると一直線にしか物が見えなくなる王を支えるために、多くの優秀な人間が彼を支え続けることになったという。
特別に優秀な王の血族であっても、三代を過ぎる頃になると驕りと慢心が顕著となってくるのは何処の国でも同じことだろう。そのうちに、侯王を支えるのは臣下の役目、侯王とはただ自分の思うままに突き進めば良いものなのだという誤った考えが定着してしまったのだ。
建国の王、ヴォイチェスラフはトウランの王から民を救うために立ち上がり、自国を豊かにする為にただただ邁進した男なのだが、いつの時代でも君主の思う通りに思想は捻じ曲げられることになるのだ。
侯王ヴァーツラフの弟ヤロスラフは、その優秀さを兄に疎まれ、辺境に飛ばされた不運の王子とも言われている。だからこそ、頭の中では、かつての建国の王のようにモラヴィア北部だけでも貴族同士でまとまり、兄からの独立を宣言してやろうかと考え続けていたのだ。
モラヴィア侯国は優秀な第一子が王位を継ぐべきだと宣言するヤロスラフの父もまた、愚鈍な王としても有名で、周りの助けなしでは何も出来ないような王だったのだ。
モラヴィアでは王は好きなことをやり周りがそれを助けるのが当たり前などと、そんな考えで国が継続できるわけもない。何の災害も起きないような平和な世の中であれば、モラヴィアも木材を輸出することで豊かな国であり続けただろうが、無計画な伐採は遂に神の怒りに触れることとなったのだろう。
「中央貴族のやりたい放題には嫌気がさす!」
「ヤロスラフ様!我々はもう我慢が出来ません!」
南大陸の人間が侯国に入り込み、やりたい放題の状態となっていても気が付きもしない。いずれは国が堕ちることとなるだろうから、その前に逃げ切る形で独立した方が良いだろう。そう決意を固めようとしていたところ、侯家の人間は誰も訪れたことがないホムトフ領へ、ドラホスラフ第三王子が現れたのだった。
「叔父上、私は父と母、そして兄を討つつもりでおります。そうしなければ私は愛する女とまともに結婚も出来ないのだと、ようやく、理解するに至ったのです」
侯王ヴァーツラフは苦言を呈さず王の意志を汲み取って先回りするように動くオルシャンスカ伯爵を気に入っており、第二王子が亡くなって結婚相手が空白状態となったマグダレーナ嬢に第三王子であるドラホスラフを当てがおうと考えている。隣国の侯爵令嬢と結婚させようとは考えていないことを、ようやく第三王子は理解したのだろう。
「最短で殺すには叔父上の協力は必須、侯王亡き後の継承は叔父上が担う形でも構わない」
隣国の侯爵令嬢と結婚するのに両親が邪魔だし、自分としては早く結婚したいから、両親は殺す。家業は叔父さんに任しても良いから、お願いだから手伝って欲しいということになるのだろう。
今まで絵姿でしか知らなかったモラヴィアの第三王子は髪の毛がもしゃもしゃと広がっていて顔立ちがあんまり良く分からない描かれ方をしていたのだが、目の前の甥は前髪を撫で付けるようにして上げて、猛禽類のような瞳を炯々と光らせながら王弟ヤロスラフを見つめる。
建国の王ヴォイチェスラフそっくりの顔を見つめたヤロスラフは、思わずその場で笑いい出してしまったのだ。
建国の王は何より民を大事にする王だったのだ。港建設の為に大量の火薬を購入した時にはカビたパンと具のないスープで一年間を凌いだというのは有名な話で、民に幸福を与える為には自分の食べるものすら犠牲にするという人だった。
その建国の王に良く似た甥が、じっとヤロスラフを見つめて、侯王と王妃、第一王子を殺すのに手を貸せと言っている。
まるで、モラヴィアの民を見捨てるのを許さない、他所者に蹂躙されるのを見過ごすことは決して許さないと建国の王に言われているようで・・
「そうか・・であるのなら、血の繋がった叔父としてお前を手伝ってやらなければならないな」
と、王弟ヤロスラフは答え、あっという間に近隣の領主をまとめ上げて挙兵したのだった。
今はドラホスラフの側近となるインジフ・ソーチェフが優秀な男だということはヤロスラフも知ってはいたのだが、
「クラルヴァイン王国のアルノルト王太子がドラホスラフ様と朋輩の仲であり、王権を奪取するために挙兵をすると言うのなら支援をすることを約束されています」
と言って、火龍砲と呼ばれる野砲三十門をホムトフ領へ運んで来た。
「権力を握る中央貴族たちはオルシャンスカ伯爵の配下となり、謀反人となったシュバンクマイエルを討つ為に、順次、侯都を出発しているところです。オルシャンスカは南大陸の人間に手玉に取られているような状況であり、内戦が激化し、モラヴィアの国土が衰退したところで南大陸の海賊による略奪を開始する予定でいるのです」
北に引っ込んでいたヤロスラフなりに情報を集めているつもりではあったが、そこまで国が食い物にされていたとは思いもしない。
「オルシャンスカ軍は最大で四万近く揃い、それを一万二千の宰相の軍が迎え撃つという形になりますが、確実に宰相が勝利します」
「何故、そう言い切れる?」
「宰相の領地にはすでにアルノルト殿下旗下の兵士隊が集結しているからです」
隣国クラルヴァインはモラヴィアとは違って、代々、王太子となった人間は戦の前線に出て戦うことをする。今のクラルヴァインの王が東に隣接するマクベイ王国との戦いで勝利を収めたのは有名な話であるし、アルノルト王子がアルマ公国の港湾都市をたった半日で落としたのは大陸を揺るがすような出来事だったのだ。
「それに、カサンドラ王太子妃もモラヴィアに入国しているのです」
「は?」
カサンドラ王太子妃といえば、アルノルト王子の妻ではないか。
「カサンドラ妃はクラルヴァインに新聞社を持っており、その支社がモラヴィアにもあるのです。宰相の御令嬢ダーナ様は中央貴族が自国を裏切った決定的な証拠を持っているということなので、こちらが手に入れられましたら、これを号外としてばら撒くと言っております。これで宰相を討ち果たすために集まった貴族たちを逆賊として討つことが出来ることとなるでしょう」
「えーっと」
「先ほど情報が入ったのですが、ファナ妃がブジュチスラフ王子と決別する方向で働きかけをしています。ファナ妃が我が方に付くこととなりましたら梟が我が方を勝利に導くために暗躍を始めます、民心の誘導は容易く行えることでしょう」
「インジフ・ソーチェフ、ちょっと待ってくれ、頭の中が混乱して来たのだが」
「私は待つことが出来ますが、殿下は待つことが出来ないでしょう」
「はああ?」
確かに、ドラホスラフはちっとも待ってはくれなかった。
北方貴族をまとめ上げていざ挙兵となったら、
「カロリーネのところに行ってくる」
と言って姿を消すし。戻って来たと思ったら前線に出て血まみれになりながらどんどん軍を進めていくし、勝手すぎる甥に振り回されながら侯都に入れば、民が歓声を上げて出迎えてくれたのだが・・
「ああ・・これが建国の王ヴォイチェスラフ様のお導き・・」
ヤロスラフが感無量となって目から涙を溢れさせている間にも、ドラホスラフは軍を率いて宮殿に向かって走って行ってしまったのだ。
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