第五十一話 ドラホスラフの焦り ②
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ドラホスラフ王子の側近であるインジフ・ソーチェフは元々、パヴェル第二王子の補佐官をやっていたのだ。つまりはどういうことかというと、長年軍部に勤めている叩き上げの人間であるし、王子の補佐官や側近を任されるだけあって広い人脈を持っていると言えるだろう。
モラヴィアは先王の代から第一子である王子を溺愛し、真綿に包むように育てて王位を継がせ、国の運営には優秀な側近に補佐を任せるというやり方を取ってきた。これが侯王ヴァーツラフを経てブジュチスラフ王子の代になると、ただただ無能な男が我儘放題に出来るという仕組み作りが出来あがってしまったのだ。
ブジュチスラフ王子は自分の好きなことだけしかやらずに済んできた為、軍部になど興味があるわけもない。自分が関わらなくても今までは第二王子のパヴェルが面倒を見ていたし、パヴェルの後には第三王子のドラホスラフが見るだろう。
泥臭いことが大嫌いな王子は軍部の訓練すら見ようともしない。愚鈍で哀れな王子を傀儡にしようと企む貴族はそれこそ山のように居て、その有象無象を退けて居たのが宰相ウラジミール・シュバンクマイエルであり、ファナ妃だったのだ。
娘を第二王子の婚約者としてから急激に勢力を拡大したオルシャンスカ伯爵は、宮殿内の人事に手を出すことによってファナ妃の孤立化を図ることにした。元々が忘れられた妃と呼ばれるような人だったのだが、マグダレーナがブジュチスラフの妃のような扱われ方をするようになってしばらくすると、ファナ妃は行方不明となってしまったのだ。
身の回りの物など全てを置いたまま、その身一つだけが泡となって消えたのだ。その後、ブジュチスラフ王子から命令が下り、ファナ妃の大々的な捜索が行われることになったのだが、ファナ妃が見つかることはなかった。
「今更、ファナ様を探したところでどうしようと言うんだ?」
「オルシャンスカの娘でも抱いていれば良いだろうに」
「侍女もいるだろう?抱く女に欠かないんだからそれで良いだろうに」
マグダレーナ・オルシャンスカの妄言をブジュチスラフ王子が信じた為に、長年モラヴィアを支え続けてきた宰相ウラジミールは謀反の疑いをかけられた。謀反人ウラジミールを討つための軍がオルシャンスカ伯爵の呼び声の元集結をしているし、侯国軍もまた、ウラジミール討伐の為に兵を動かすことになる。
王家を守るために存在する近衛までもが動くことはなかったものの、皆が激しい怒りを感じていたのは言うまでも無い。元々、侯王ヴァーツラフが軍部を軽視していたため、自分たちが贅沢をするために、軍部の予算の縮小を簡単に言い出すところでもあったのだ。
近衛の不満が溜まる一方の中で、侯都リトミシェルに号外が配られることになったのだ。その号外に載った記事によると、オルシャンスカ伯爵子飼いの貴族たちが、土砂崩れによる災害の復興の為に商人から借り受けた資金を横領し、その金で大量の麻薬を商人から購入して居たという。
その麻薬を更に高値で貴族たちに売り渡し、伯爵と子飼いの貴族たちは大いに金を儲けることになったのだ。麻薬の売買に関わるイヤルハヴォ商会は南大陸から渡ってきた商人が立ち上げた商会であり、彼らは善意で災害復興資金を無利子の状態で貸し出した上で、その金で自分たちが販売する麻薬を購入させるようなことをした。
イヤルハヴォ商会が目指すのはモラヴィア侯国の国力の衰退であり、今現在、オルシャンスカ伯爵が宰相ウラジミールへ兵を向けているのも、内戦を引き起こすことによって、南大陸にある某国にモラヴィアを売り渡す下準備をしているからだと報じた。
その号外には帳簿に記された重要な情報までもが載っていた為、平民だけでなく貴族たちまでもが大騒ぎをした。
そのうちに人々の間で、南大陸に自国を売り渡そうとしているのはブジュチスラフ第一王子であり、そのことに気がついたファナ妃が抵抗をしようとしたところ、ブジュチスラフ王子とマグダレーナ・オルシャンスカがファナ妃を殺したのだという話が広がり出す。
「さあ!時は来たのだ!今こそ我ら力を合わせてモラヴィアを正常な道に戻そうではないか!」
オルシャンスカ伯爵の部隊に合流するために一万六千の兵を動かしていた中央貴族による混成軍を打ち倒すと、真っ赤な旗を掲げた第三王子率いる軍は一直線に侯都を目指して動き出す。軍部はすでに第三王子の支配下となっており、城門は開かれ、宮殿までの道を多くの民が歓声を上げて出迎えた。
民の間でも、侯都に南大陸の人間が多く入り込んでいることが問題となっていたし、南大陸の人間が麻薬を広めるのは衆知の事実となっていたのだ。この南大陸の人間がモラヴィアの植民地化を狙っているとは思いもしない。
近隣諸国に狙われるという話だけでもゾッとするというのに、信じる神も違えば肌の色も違う。使う言語も文化もまるっきり違う人間に占領され、植民地化されると聞いて怯えない人間はいないだろう。
祖父の代には蛮族とも呼ばれた人々に自分たちが支配されれば、モラヴィアの民は奴隷として南大陸に連れて行かれるかもしれない。異民族により祖国が蹂躙されることを望むのがオルシャンスカ伯爵率いる多くの貴族たちであり、それを阻止しようとして動いているのはドラホスラフ第三王子。
ブジュチスラフ第一王子に殺されたパヴェル王子とファナ妃の意志を継いで、彼はモラヴィアの為に立ち上がったのだ。
「「「「「「ウワーーーーッ!ドラホスラフ王子!!バンザーーーイ!」」」」」」
今は亡きトウラン王国の姫であるファナ妃をブジュチスラフ王子は唯一の妃として大事にするべきだったのだ。下手な嫉妬をさせて喜ぶような真似など行わずに、たった一人の妃を愛し続けていればこんなことにはならなかっただろうに、彼は自分勝手な方法を選んでしまったのだ。
結果、ファナは梟という組織と共に消えた。
これが大きな転換点となったのは間違いないとインジフ・ソーチェフは思うのだ。
ドラホスラフ殿下には最初からクラルヴァインの王家、しかも苛烈な対応で有名な王太子夫妻が味方についていたのだ。負ける戦にはならないのは分かりきったことではあるが、これほど早くに決着をつけることが出来たのは、梟の働きが大きかったからだ。
トウラン王国の諜報組織だった梟は民心を操作する技に長けているからこそ、無血開城をこれほど早くに行うことが出来たのだ。先頭を進むドラホスラフはまさに建国の王とそっくりの顔を凛々しく前に向けているため、民の声もそれは大きくなっていったのだが・・
「殿下・・殿下!ここは民の声を受けながら並足で宮殿まで進んでいく予定でしたよね!殿下―!ドラホスラフ殿下――!」
異民族に支配されたくない侯都の民は歓喜の声でドラホスラフ王子率いる北方貴族で編成された混成軍を招き入れたのだが、先頭を進む騎兵部隊は、漆黒で血まみれの指揮官を先頭に襲歩で走り出していた。もちろん、指揮官のすぐ後ろを進んでいたインジフも全速力で馬を走らせることになる。
「殿下!そんなに焦らなくても!まだ時間はありますよ!殿下――!」
とにかくドラホスラフは焦っていた。
うかうかしていると、カサンドラ妃は、愛するカロリーネを連れてクラルヴァイン王国に帰ってしまうだろう。だからこそ、彼は必死になって宮殿を目指すことになったのだ。
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