第四十九話 侯爵家次男エドガルド
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クラルヴァイン王国の貴族派筆頭といえばエンゲルベルト侯爵家ということになるのだが、当主には跡取りの息子の他に、王宮へ官吏として務めている息子が一人いる。
貴族の高位身分となれば、見た目も麗しい伴侶を得ることになるため、美男美女が多くなるのだが、エンゲルベルト侯爵家の次男となるエドガルドは麗しい見た目からは外れた男に成長した。
無害を主張しているような茫洋とした顔立ちだし、お腹は出ているし、足と手が短い。逞しい身体つきからは程遠い体型であるし、長距離の移動など好きではない。屋敷と王宮との移動程度が丁度良いのであって、船に乗って異国の港まで行くなどとんでもない。
隣国のモラヴィアだからいいじゃないと言われたって、行きたくない、船に乗り込みたくない。そんな暇があるのなら、自宅のベッドで寝ていたい。そんなことをエドガルドは考えていたのだが・・
「エドガルド、お前に声をかけてきた奴らの中にこの男は居たか?どうだ?見たことがあるか?」
縄に縛られた傷だらけの男がセレドニオに引きずられながらやって来たのだが、クラルヴァイン王国の遠海を航行中の海賊の頭など見たことがあるわけもない。
「僕が会ったのは商人風の優男だったんだ。そいつが裏のボスに当たるんだろうけど、そいつじゃないよ」
セレドニオはエドガルドに顔合わせをさせた海賊を部下に連れて行かせると、ため息を吐きながら船室に用意された椅子に座り込んだ。
エドガルドの妹であるカロリーネは、隣国モラヴィアのドラホスラフ第三王子の婚約者であり、本人は解消されているのだろうと考えていたのだが、結局、婚約は解消されず。だからと言って結婚の話が進むわけでもなく、宙ぶらりんのままで居たのだが、そんな妹を持つエドガルドの元へ、隣国のオルシャンスカ伯爵家から声が掛けられることとなったのだ。
エドガルドの元へやって来たのは明らかに南大陸の人間だと思われる遣いの者であり、
「今まで家族に蔑まれて過ごして来たエドガルド様としては、家族に復讐をしてやりたいと考えない日はなかったでしょう?」
と、言われることになった。
実際問題、一人だけ見かけも悪く、うだつもあがらず、王宮で働いて得た給料を家の借金を返済するために吸い上げられていくエドガルドは、実の家族に恨みを抱いている男と判断されることが多かった。
そんな訳で、声をかけてきたオルシャンスカの人間と繋がり続けて、クラルヴァイン王国に入り込んだ間者の炙り出しに利用していたのだが、エドガルドに接触していた南大陸の人間が、実は大物かもしれないということが判明。
近海の海賊退治をするということで、悪者を捕まえた際の面通し役として船に乗り込むことになったエドガルドは、運ばれて来た海賊が交渉に当たった南大陸の男かどうかを判断し続けている。
「やはり陸に上がっているのかもしれないな、厄介なことが多くてうんざりする」
「なんだ?また何か問題があったのか?」
「実は先ほど報告が届いたのだが、約束の期間は過ぎたというのに、未だにカサンドラも、殿下も、クラルヴァインへ帰っていないらしい」
「はあ?なんだって?」
ベッドに腰を降ろしていたエドガルドは慌てた様子で立ち上がる。
「これからモラヴィアは内戦になるかもしれないから、カロリーネを回収して戻って来てくれると言っていたではないか!」
「どうやらドラホスラフ殿下が動き出したらしい」
「動き出すにしても遅すぎるだろうに」
「殿下は王家に対してクーデターを仕掛けるらしい」
「最近ではクーデターが流行なのか?トウラン王国と同じような道を進むつもりか?」
エドガルドはカッと目を見開きながら言い出した。
「まさかアルノルト殿下は、モラヴィアを我が国の属国にすることを決意されたのか?」
「いや、そういうことじゃないらしい」
セレドニオは憂いを含んだ眼差しを伏せながら首を横に振る。最近、陸がよく見える距離を船で航行させていたので、鳥を使った報告が陸から届けられたのだろう。
「トウランの諜報組織が手に入れられそうだというので、滞在期間を延ばしたらしいのだが」
「梟を使って内戦をおさめるのか?」
「おそらくそうだろうが、カサンドラとフロリアン殿下を長くモラヴィアに置き過ぎたゆえ、これから回収に行くことになる」
そう言って立ち上がったセレドニオは、太ったエドガルドを見下ろしながら、
「お前の妹もカサンドラと一緒に居るらしい、お前も一緒に行くか?」
と、言い出した。
エドガルドは王太子妃の兄であるセレドニオが嫌いだ。同じ家格である侯爵家で、しかも同じ次男。妹も同じ年齢なら本人同士も同年齢。片や美しい容姿の軍人様であり、片や王宮に勤める太っちょ官吏。生まれた時から比べられ続けて来たエドガルドだが、周囲の人間が思うように劣等感などは抱いていない。
この感情は劣等感などではなく、ただ単に、気に食わない。正直に言えば、ただ、ただ、嫌いなのだけれど、どうしても仕事柄、セレドニオとは関わることが多いのだ。
「モラヴィアの港まで移動をして来るから船で回収して欲しいということなのだが、モラヴィアの内戦はこちらが思うよりも早く進んでいるのかもしれないな」
「海からの支援は止められているとは思うんだが」
南大陸から国籍不明の船籍がモラヴィアを目指して、海賊行為を繰り返しながら進んでいる。迷惑なのでクラルヴァインの艦隊が沈没させながら航海を続けているのだが、おそらくこれらの船籍は、モラヴィアの内戦に関わるために進んで来たものとなるのだろう。
「南大陸の人間にモラヴィアを所有されては困るからな」
ということで、クラルヴァインの艦隊は、洋上を進む海賊船を見つけては沈没させながら進む。
そうして、モラヴィア最大の港湾都市と呼ばれるクリヴナ港へと寄港すると、港で出迎える形で、ペトローニオ・マグヌス・スタール・フォン・トルステンソンが手を振っていた。
水深が深いクリヴナ港には大型船が停泊することが出来るのだが、北辺の国アークレイリの旗を掲げた船も入港をしていた。船上ではアークレイリの旗と共に、侯王の姉であるカテリーナ・バーロヴァ伯爵家を示す旗も掲げられている。
カテリーナはアークレイリの王弟に嫁いでいるし、港で手を振っているペトローニオはカテリーナの孫となる。
陸路での移動が非常に危険な状態となるためカサンドラとフロリアン、妃殿下の親友となるカロリーネを港でピックアップしていく予定だったのだが、王族を警護するような兵士の姿もなければ、豪奢な馬車すら並んでいない。
「ペトローニオ!」
桟橋を渡るセレドニオの後ろを歩いていたエドガルドは、嫌な予感を感じずにはいられなかった。
「妃殿下はどうした!何処にいるんだ?」
「ああ〜、ごめんなさいね〜」
ペトローニオは腰をクネクネさせながら、
「移動したくないって」
と、言い出した。
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