第四十八話 ペトルお姉様の運命の出会い
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中央貴族をまとめ上げたオルシャンスカ伯爵が数万の軍勢を率いて侯都を出発する頃、親梟となるブノワ・セルヴェに会いに行くとカサンドラが言い出した為、勢いに乗って梟のアジトとして使われる別荘にまで来てしまったのだが、
「しばらくはここに滞在しよう」
というアルノルト王子の一言により、カロリーネも宰相の娘となるダーナも、ここに滞在することになってしまったのだった。
二ヶ月以上も侯都でカロリーネの世話をしてくれたハイデマリーは、
「それでは私、お姫様の救出に行ってきます!」
と言って、わざわざ迎えに来た従兄のイーライと一緒に侯都まで出かけて行ってしまったのだ。
そうして親梟のブノワと子梟のマレーネも、
「ファナ妃を絶対に救出して来ます!」
と言って出発の準備を整えたのだが、
「カロリーネ様、ごめんなさい。私、ファナ様に対してカロリーネ様がいかに不幸かということを報告書にして出していたのです!」
出発前にマレーネが、罪の告白を始めたのだ。
「カロリーネ様のお世話をする時に、愛人として弁えろみたいなことを言いましたけれど、あれは全部嘘です!ファナ様が不幸のどん底に落っこちる貴婦人が大好きなので、そうなるように仕向けただけなのです!」
突然の告白にカロリーネはびっくりしたのだが、後ろで話を聞いていたカサンドラが吹き出して笑っている。
「カロリーネ様はドラホスラフ殿下の婚約者ですし、ファナ様もとても気にされておりました。大きく心が傷ついたファナ様は、他人の不幸な話が大好きなのです!ファナ様以上に不幸な令嬢が居るのだと言って励ましたくて、カロリーネ様がドラホスラフ様に弄ばれていると報告してしまったのです!」
子梟マレーネの突然の告白に、
「滅茶苦茶だな」
「滅茶苦茶だわね」
と、アルノルトとカサンドラは言い出したが、
「その報告書、嘘でも何でもないから問題ないのではないかしら」
と、答えたカロリーネはにっこりと笑った。
モラヴィア侯国の王子たちは、女を自分勝手に振り回す習性みたいなものを持っているのだろう。ファナ妃も振り回されているし、ドラホスラフの婚約者となった自分だって振り回されている。
「同じように王子に振り回されている不幸のどん底に居る女として、ファナ妃殿下宛にお手紙を書いたの」
カロリーネは手紙をマレーネに握らせながら言い出した。
「読んでくれるかどうかも分からないけれど、是非ともファナ様に読んで頂きたいわ!」
「カロリーネ様!ファナ様へのお心遣い!ありがとうございます!」
絶対にファナ様に読ませます!そう言ってマレーネは出発したのだが、
「私はブジュチスラフ第一王子とドラホスラフ様が、まるっきり一緒のようにも思えないのだけれどね」
と、カサンドラはフォローするように言い出した。
確かにドラホスラフ王子は無闇矢鱈に浮気をする人間ではないということをカロリーネも知ってはいるが、だからなんなんだという思いばかりが溢れてくるのは仕方がない。
そうして、アルノルト王子の外出が増えてくる中、侯都を出発したペトルがカロリーネの元までやって来ることになったのだ。
ペトルは北辺の国アークレイリでは将軍職にもついていたような人だけれど、今は引退してモラヴィアのメゾンのオーナーをしているような人でもある。コルセットの完成品をわざわざ持って来てくれることになったのだが、先触れがカサンドラの元に届けられていたらしい。
コルセット開発の仲間となるペトルをカロリーネ自らが出迎えることとなったのだが、
「まあ!カロリーネったら随分痩せちゃったじゃないの!本当に大丈夫なの!」
ペトルお姉様はやっぱり素敵なお姉様だった。
顔を合わせるなり、悲鳴のような声を上げたペトルは、ぎゅっとカロリーネを抱きしめてきた為、思わず安堵のため息を吐き出してしまったのだ。
「コルセットの完成品が出来たから見て貰おうと思って来たのだけれど、もうちょっと早く来ればよかったわね、夜は眠れているの?顔色も悪いわよ」
カロリーネは、ブジュチスラフ王子とファナ妃の話を聞いてからというもの、ファナ妃を自分と重ねて考えるようになってしまって、夜も眠れず、日を追うごとに胃がキリキリと激しく痛くなってくるのだ。
「まあ!ペトローニオじゃない!私の産後コルセットは完成したのかしら?」
ペトルの来訪を聞きつけてカサンドラもやって来たようだったが、エントランスホールで抱きしめ合っている二人を全く気にする素振りがない。
そのカサンドラの後ろからやって来た宰相の娘であるダーナは、強張った表情で浮気の現場を眺めていたのだが・・
「な・・こんなところに・・女神・・」
という言葉が、カロリーネの頭の上から降ってきた。
二人の前にはカサンドラとダーナが居るのだが、ペトルお姉様の目はダーナに釘付けとなっている。
侯国ではダーナの体型のことをとやかく言い出す人間が多いようなのだが、文句を言い出す人間の方がおかしいのだとカロリーネは思う。
カロリーネがクラルヴァイン王国で知り合ったシンハラ島出身の仲間たちは、
「俺はぽっちゃりが断然好き」
「痩せすぎた女よりも断然ぽっちゃりだな」
「ぽっちゃりどころか、ドワーンッなんてボリュームの女の方が俺は好みだね!」
と言っていた。
海の男は痩せ型よりぽっちゃりが好きだとするのなら、元海軍で将軍位にまで就いていたペトルお姉様は、とってもふくよかなタイプの女性が好みということになるのだろう。
「お姉様!こちらウラジミール・シュバンクマイエル宰相のご令嬢であるダーナ様です!領堺での戦闘も始まっているので、こちらに避難をしておられるのです!」
すぐ様、カロリーネが紹介をすると、ペトルはおずおずと自分の手を差し出してダーナと握手をしながら自己紹介を始めているようだった。
ああ、人が恋に落ちるところというのは、こういうことを言うのかしら・・カロリーネが二人の様子をただただ黙って眺めていると、
「カロリーネ様、大丈夫?」
と、相変わらずお仕着せ姿のカサンドラが問いかけてきた。
「大丈夫って何が大丈夫なのでしょうか?」
「だってあなた、随分とぼんやりとしていたから」
カロリーネはカサンドラの耳元に囁いた。
「カサンドラ様、私、人が恋に落ちるところを始めて見たかもしれません」
「まあ!恋に落ちるですって?」
驚いた様子でカサンドラは二人の姿を見つめると、
「ペトローニオが社交界の薔薇に興味を持たないのは、特殊な花が好みだったからなのね。コルセットで大儲けした男があのタイプが好みだったなんて!」
と、カサンドラは呆れた様子で言い出したのだが、
「海の男の好みのタイプはふっくら、モッチリなのだと私は思いますわ」
と、カロリーネは自分の頬に片手を当てながら言い出した。
元海賊サンジーワの嫁となるアクシャもぽっちゃりふっくら体型だったのだ。男はぽっちゃりふっくらモッチリに癒しを求めるのかもしれない。
「あああ、誰でも良いから私に恋に落ちてくれる人が現れないかしら〜」
カロリーネは、ペトルお姉様に両手を握られたまま唖然として、呆然として、そのうちに耳まで真っ赤になっているダーナを眺めながら、つくづく羨ましいなあと思ってしまったのだ。
ペトルお姉様がダーナの好みに合うかどうかは分からないけれど、ペトルはカロリーネにとって自慢のお姉様なのだ。
「こうやって、周りばっかりが幸せになって、私ばっかりが一人だけ置いてけぼりにされるのですね」
「そ・・そんなことはないと思うのだけれど〜」
「ハイデマリーにだって従兄のイーライが居るのですもの。ファナ様だって親梟のブノワが居るでしょう?カサンドラ様にはもちろんアルノルト様が、コンスタンツェ様にはセレドニオ様がいらっしゃるのですもの」
カロリーネは涙をポロリとこぼすと、
「エドガルドお兄様!お兄様に会いたいー!」
と、言い出した。
エンゲルベルト侯爵家の一人だけ凡人顔とも言われる次兄のエドガルドは、カロリーネが知る限り、婚約者も居なければ、恋人だって居ない。孤独で置いてけぼり状態のカロリーネを本気になって慰められるのは、兄のエドガルドしかこの世には居ないのかもしれない。
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