第四十七話 アクラムの予感
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「本当に、本当に困ったのよ!ブジュチスラフ殿下が本当はファナ様のことをとっても愛しているということは知っていたし、私や、戯れに手をつける侍女たちは、ファナ様を嫉妬させるための道具程度にしか考えていないということも知っていたわ。だけど、まさか、あれほど放置していたファナ様の行方が分からなくなっただけで、あんな風に混乱されるとは、流石の私も思いもしなかったもの!」
侯都リトミシェルで人気の焼き菓子と美しい宝飾品を持参した従者アクラムは、マグダレーナから吐き出される愚痴を聞いて、思わず口元に笑みを浮かべた。
現在、ブジュチスラフの妃のような待遇で王宮に住まいを移しているマグダレーナだが、従者のアクラムまで王宮について来るわけにもいかなかったのだ。こうして時々、王妃ダグマールへのプレゼントとするための宝飾品や、焼き菓子などを抱えて、主人となるマグダレーナと面会をする。
ブジュチスラフ王子の正妃は、今は滅びたトウラン王国の姫君であるファナということになるのだが、王妃ダグマールが重要視をしているわけもないため、忘れられた妃として放置されているような状態となっていた。
王妃としては、王家に反乱を企てる勢力を殲滅させるために中央貴族をまとめ上げ、自費を投じて軍備をも揃えたオルシャンスカ伯爵家に対して忠義者であると評価を与えているし、その娘に対しての王宮での厚遇も忘れてはいない。
第一王子の妃のような扱いを受けていたマグダレーナだが、今現在、窮地に立たされていると言っても良いだろう。ファナ妃が行方不明となったことで外にまで探しに行こうとする王子を引き留めなければならないし、このような時だからこそ内政に力を入れ、次の王として十分な働きを臣下に見せなければならない。ブジュチスラフ王子に政務を行わせ、その補助も行わなければならないのだが、王子は書類一枚すら見ようともしない。
「あの子を支えるのがお前の役目であろう」
と、連日のように王妃から言われるし、
「ここで上手くやれば、お前が次の王妃となるのは決まったのも同じこと!」
と、父から送られてくる手紙にも書かれてくる始末。
正直に言ってマグダレーナは、自分自身が賢いとは到底思えない。第二王子パヴェルの婚約者に決まったのも王子妃となるのに相応しい美貌があったからというだけで、ブジュチスラフの寵愛を周りが認めたのも、ファナ妃と並んでいるよりも見栄えがするからという程度のものなのだ。
目障りな宰相とその娘のダーナを謀反の疑いをかけて王宮から追い出すことにも成功したし、次の宰相にはマグダレーナの父であるオルシャンスカ伯爵が就くことになるだろうと皆が考えているだろう。
宰相が王家に抵抗するために用意しようとしている兵力も大したことはないし、その倍以上の兵士を父であるオルシャンスカ伯爵は集めている。だとするのなら、美しマグダレーナは、ブジュチスラフ王子の隣で笑っているだけで良いだろうくらいにしか考えていなかったのに、
「抜けた宰相の穴をオルシャンスカ伯爵が埋めるというのなら、その娘であるマグダレーナ様が失意の第一王子の代わりに働くべきだろう」
という意見が、日に日に王宮内に広がっていくのだ。
「私もヴァーツラフ王の補佐をしながら王妃としての役目も行って来ましたもの」
王妃ダグマールまでもが、
「我らのような妃となるような人間は、王家の役目も代わりに果たして当たり前」
と、いうようなことを言い出した。
ファナ妃が悔しそうにマグダレーナを睨みつけている間は、ブジュチスラフ王子もまともに働いてはいたのだ。その働きが十分だったかどうかは別としても王子はきちんと執務を行っていた。だがしかし、今は執務室にすら行かずにファナ妃は何処だと騒ぎ続けているし、そんな王子を慰め、王子の代わりに働けとマグダレーナはせっつかれるようにして言われている。
「お嬢様、実に面白いことになっておりますね」
従者のアクラムはにっこりと笑って、マグダレーナに用意していたものを差し出してきた。
「王家の方々は今この状況に疲弊しているだけでございましょう。ブジュチスラフ王子殿下には滋養強壮の薬を、王妃陛下とお嬢様には神経を鎮静させる作用があるアロマキャンドルをプレゼント致しましょう。アロマキャンドルは数を用意しておりますので、王子殿下や国王陛下が望むようならプレゼントされたら良いでしょう」
「アクラム、疑うわけじゃないけれど、麻薬入りのものではないわよね?」
なにしろオルシャンスカ伯爵家は麻薬ビジネスで巨万の富を築いているのだ、戦争の為に用意した費用も麻薬で儲けたものを当てている。
「勿論麻薬入りなど王宮に持ち込む訳がございません、心配ならこちらでお抱えの医師や薬師に調べてもらえばよろしい。私が、お嬢様が危機的状況に陥るような物などを用意するわけがないでしょう?」
そう言ってにこりと笑ったアクラムに、疲れ果てた様子のマグダレーナは、
「そうよね、アクラムは私の命の恩人だもの。私に害となるようなものを用意するわけがないわよね」
と、言い出した。
マグダレーナがパヴェル第二王子の婚約者に決定した時に、命を狙われて殺されそうになったことがあるのだが、それを助けてオルシャンスカ伯爵家の力となったのが商家出身のアクラムだったのだ。
当時は、婚約者に相応しいドレス一つ用意出来なかったマグダレーナに、
「こちらで商会を開く予定の叔父さんが、モラヴィアの貴族に気に入られるにはどういったドレスが良いのかを知りたいというので」
と言って、色とりどりのドレスを用意してくれたのもアクラムだった。
第二王子の婚約者として白羽の矢が立つことになった貧乏伯爵家に金策を授けてくれたのもアクラムだし、立場の利用の仕方というものを教えてくれたのもアクラムだ。
今、ここまで隆盛を誇るオルシャンスカ伯爵家を下支えしたのは間違いなくアクラムと、南大陸から進出してきたイヤルハヴォ商会なのは間違いないし、より大きな利益を得るために決して裏切らない存在だとも言えるだろう。
「私には何故、お嬢様がそれほど悲しげな表情を浮かべるかが分かりませんよ」
アクラムはニコニコ笑いながら言い出した。
「お嬢様は間違いなくブジュチスラフ殿下の寵愛を受けているのです。政務を行うのが難しいというのなら、胃の不快感、倦怠感、吐き気もあるのだと言いなさい。そう言うだけで、皆がお嬢様をとても大事にされることでしょう」
男女として深い仲にあるのであれば、子が宿っている可能性だってあるわけだ。
「そうよね、結局ファナ妃も妊娠していないし、戯れに手を出す侍女の中で殿下の子を産んだ者も居ないのだもの。ここで私が身籠ったかもしれないとなれば、私に仕事を押し付けようとは思わないわよね」
「あくまで子供が居るかもしれない、それだけでもひと月は楽が出来ますでしょうし、ひと月あれば、オルシャンスカ伯爵も宰相を打倒することが出来ましょう」
例え子がいなくても戦勝ムードの中でマグダレーナの勘違いを責めるような人間は居ないだろうし?もしかしたら本当に妊娠をしている可能性だってあるわけだし?
「お嬢様が今、王子の分まで仕事をしなければならない理由なんてありませんでしょう?」
「そうよね!本当にそうよね!」
ニコニコ笑い出すマグダレーナを見下ろしながらアクラムは一人ほくそ笑む。
長くモラヴィアに潜伏をしていたけれど、この国を植民地にする日も近いようだとアクラムは予感せずにはいられないのだから。
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