第四十六話 優越感
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マグダレーナ・オルシャンスカは、何の特徴もない伯爵家の令嬢だったのだ。マグダレーナがパヴェル第二王子の婚約者になったのも、何の権威も持たない貧乏貴族にダグマール王妃が白羽の矢を立てたから。
侯王ヴァーツラフには三人の息子がおり、第一、第三王子はダグマール王妃の子供ということになるけれど、パヴェルだけは王妃の子供ではない。自分の子供ではない第二王子に力を与えることがないように、何の役にも立たないオルシャンスカ伯爵家に声をかけることになったのだ。
歴史が古くもなく、領地に目立った特産品もなく、伯爵という身分ではあるけれど、威張れるようなものは何も持たない。
「お前のような娘が相手なら、あのパヴェルの地位も名誉も、なかったことに出来るだろう」
王妃が初めてマグダレーナに会った時に発した言葉がこれだった。
第二王子であるパヴェルは美しい容姿の若者だったけれど、初対面からマグダレーナを軽視していることは良く分かった。婚約者としての交流も行われず、豪華なプレゼントを送ってくれるわけでもない。
「君たちオルシャンスカ伯爵家が僕を婿とすることで王妃に媚を売り、第二王子の婚約者という威光を使いたいのなら、好き勝手にやればいい。君たちのやることに一切の興味を持つことはない」
パヴェル王子はマグダレーナにとって初恋の相手であったのだが、王子はマグダレーナのことを見ようともしない。
「だったらお好きなようにすれば良いのではないですか?」
従者のアクラムが、マグダレーナに対して言い出した。
「好き勝手やれば良いとのお墨付きを頂いたのですから、好き勝手にやれば宜しいのですよ」
アクラムの叔父が南大陸で商売をやっており、モラヴィア王国でも服飾の店舗を作る予定でいるらしい。服飾は表の商売であり、裏では麻薬を売り捌く。最近、貴族女性の間でも小物が流行しているから、おまけにキャンディーの袋をつけていく。
「私、この前サービスで頂いた飴玉が欲しいのだけど」
「私も欲しいわ」
「今度はいつ買えるの?」
アクラムの思う通りに、麻薬はあっという間に広がっていった。ここで得た資金を使って、宮殿の中でのしあがる。あっという間に資産家となったオルシャンスカ伯爵家は、
「さすがパヴェル王子の婚約者のご実家ですなあ!」
と、言われることが多くなった。
借金を作って潰していったのがダグマール王妃と敵対関係にある貴族家だったため、王妃が口出しをすることもない。そうこうするうちに、学園を卒業したドラホスラフ王子が侯国へと帰って来たのだが・・
「まあ、第三王子は建国の王によく似ていらっしゃるのね」
今までは長い前髪で顔を隠していた王子が、髪を上げ、堂々たる姿で帰国した。ああ、あの人が欲しい。パヴェル王子ではなくて、ドラホスラフ第三王子と婚約したい。
「どうして、第二王子じゃなく第三王子と婚約したいと思ったんだ?」
「だって、パヴェル殿下ったらファナ様と浮気をしているのだもの。最近、ファナ様がパヴェル王子を内政に関わらせようと主張するのも、ご自分が浮気をしやすくする為でしょう?」
そうブジュチスラフ王子にマグダレーナが答えると、その数日後にパヴェル王子が落馬事故で亡くなった。落馬事故ということになっているけれど、もしかしたらブジュチスラフ王子が殺したのかもしれない。
「せっかく誘ってくれたのに、断ったら可哀想だろう?」
そう言いながらブジュチスラフ王子はお付きの侍女に手を出すけれど、ファナ妃に嫉妬されたくて、そんなことをしているのだろう。
ファナ妃に子供が出来ないのは、ブジュチスラフ王子が子供を欲しいと思わないから。王子はファナ妃を独占したいから、彼女との子供自体を望まない。
「だったら私が子供を産んであげましょうか?」
なかなか落ちてこないドラホスラフ王子が海賊退治にも行かず、自分の叔父となるヤロスラフ殿下が居るホムトフ領へと向かったという話を聞いて、マグダレーナは早々に見切りをつけることにしたのだ。
所構わずブジュチスラフ王子に誘いをかけては、盛っている姿をファナ妃に見せつけるようにしたら、
「あははははっ、ファナのあの顔ときたら、最高だよ!本当に最高だ!」
と言って、ブジュチスラフ王子もご満悦。
「妃に子供が出来ぬゆえ、其方に子供が子を授かるのは丁度良い」
そう言って、ダグマール王妃もブジュチスラフ王子とマグダレーナとの関係を認めてくれたのだ。
ブジュチスラフが娶ったのは間違いなく亡国の姫君であるファナ妃であるのに、マグダレーナはまるで妃のように王宮で傅かれるようになったのだ。自分の発言がきっかけで、今まで目障りだった宰相を追い出すことにも成功をした。空席となった宰相の職は、マグダレーナの父が就くことが決定したのも同じこと。
宰相ウラジミール・シュバンクマイエルは領地に帰るなり戦支度を始めているようだが、こちらが集結させた兵士の数の方が遥かに多い。ウラジミールを打ち滅ぼしたら、樽のように大きくて目障りだった、娘のダーナは縛首にして城門からぶら下げようか。
「あまりの巨体に縄が保たないかもしれないもの。何重ものロープを用意してぶら下げなくちゃならないわね!」
マグダレーナは宰相の娘であるダーナが大嫌いだ。呆れ返るほどに太っているのに、自分の醜い姿に一片の劣等感すら感じていないところが大嫌いだ。
「赤ちゃんの時から太っているのだもの、だから何?私はそれでも健康だから何の問題もないもの」
そんなことを言い出すダーナは、不健康そのものだといった眼差しでマグダレーナたち美しい令嬢を蔑むように見つめるのだ。非常に気に食わないから、城門にぶら下げた後は切り刻んで豚の餌にしたほうが良いのかもしれない。
醜いダーナとは違って、マグダレーナは美しいファナ妃が大好きだ。
ブジュチスラフ王子に心の奥底から愛されているというのに、全く気が付いていない愚鈍さがたまらない。いつでも何処でも心を傷つけているし、ダグマール王妃に見放されているから、後宮で彼女のことを相手にする人間なんて誰もいない。
いつでもたった一人で、夫から愛を与えられるのを待っているような女。忘れ去られた妃とも呼ばれるような女。ああ、哀れ、哀れ過ぎるったらないわね!
哀れな人間が身近にいるとマグダレーナは嬉しくなる。だって、彼女と比べたら自分はなんて満たされているのだろう。自分の立ち位置を確認できるから、ファナ妃の存在をマグダレーナは愛していた。
そうしてブジュチスラフ王子との逢瀬を楽しんでいたら、ファナ妃が忽然と消えてしまった。彼女の部屋には生活した痕跡は残されているけれど、王宮の何処にも彼女はいない。彼女にとっては形見となる宝石たちも全て宝石箱に入れられたような状態で、彼女の存在だけが忽然と消えてしまったのだ。
ファナ妃にはお付きの侍女すら一人も居ずに、食事を提供されたような形跡もない。一体いつからファナ妃の世話が放棄されたのかも分からず、いつから不在となっているのかも分からない。
「もしかして・・自死されたのでは?」
侍女の一人が言い出した言葉が引き金となって、妃の大捜索が始まったのだが、妃の遺体すら見つからない事態に陥ったところで、
「うわぁああああああああ!」
叫び声を上げたブジュチスラフ王子が失神をしたのだ。
さて、クソ王子はどうなってしまうのか?続きが気になるところなのですが、ここでちょっと止まります。週明けには返ってくる予定ですので、ちょっとだけお待ち頂ければ幸いです!
別のお話ですが『噂 〜私は一妻多夫を応援します!〜」の番外編を週末に載せていきますので、そちらの方も楽しんで頂ければ嬉しいです!
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