第四十四話 子梟の思い
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黄金の髪に緋色の瞳の迫力ある美人といえば、クラルヴァイン王国の王太子妃カサンドラを想像してしまうのだが、まさか隣国の王太子妃が隣国モラヴィアの内戦の始まりの地とされるであろう、シュバンクマイエル領からもほど近い場所にある別荘になど現れるわけがない。
結婚式に発行された記念コインの人物と同じように見えるけれど、人物確認の為にモラヴィアの外交団に紛れて、クラルヴァインの王城に入城した際に見た人物と似ているようにも思えるけれど、まさか、まさか、そんなことがあるわけがないではないか。
そんな風にブノワが頭の中でグルグルと考えていると、
「カサンドラ様!早いです!置いていかないでくださいよ!」
と言って、新緑の派手な髪色に琥珀色の瞳をした可憐な容姿の女が、慌てた様子でやって来る。
この、可憐で妖精のような容姿のくせに白目がバキバキに血走っている女は、間違いなくドラホスラフ第三王子と結婚予定だった隣国の侯爵令嬢、カロリーネ・エンゲルベルト嬢に違いない。そのカロリーネ嬢を追いかけて来た、ふくよか過ぎる程にふくよかな令嬢こそ、ダーナ・シュバンクマイエル嬢なのは間違いない。
「何故・・」
梟の長であるブノワを押し除けるようにして女たちが部屋の中へと入って来たのだが、何がなんだかよくわからない。最後に入って来たふくよか過ぎるダーナだけ、困った笑みを浮かべながらブノワに会釈をしたのだが、何故、敵方の令嬢が今ここに居るのだろうか?
宰相であるウラジミール・シュバンクマイエルが謀反を起こしたと第一王子が断言し、王城まで駆けつけたオルシャンスカ伯爵が、謀反人となった宰相を制圧するために挙兵をすると言い出した。
ウラジミールは元々謀反の疑いがあり、正義を掲げる貴族たちは、いつしかこんな日が来るだろうと思っていたと言い出し、オルシャンスカ伯爵に同意する形で中央貴族たちが決起。集まった兵士はあっという間に二万を越え、最終的には三万近くになるだろうと言われている。
そんな状況の中で、何故、宰相ウラジミールの懐刀とも呼ばれるダーナ嬢はこんな場所までやって来たのか?全く見当がつかずに居ると、
「ブノワ様!私はブノワ様に一言!ご忠告を申し上げたいと思うのです!」
何故だかこちらも目が血走っているマレーネが、拳を握り締めて言い出した。
「ブジュチスラフ第一王子はクソです!クソみたいな王子で!完全に人間のクズだと私は思います!」
マレーネがそう宣言すると、カサンドラとカロリーネがパチパチと拍手をし、遅れたダーナが困惑気味な様子でふっくらとした手で拍手を送る。
「私もダメな男に何故だか惹かれてしまう癖があるから良く分かるのですが、いつかは自分を振り返ってくれるかもしれない、私を愛してくれるかもしれないと思ってしまうんです!それは仕方がないんです、女のサガみたいなものなのです!ですがね、心の何処かでは分かっているんです。このクソ男は絶対に変わらない、自分を踏み潰したまま、改心もせずにのうのうと生きていくんだろうなって!」
マレーネはぎゅっと自分の拳を握りしめながらそう言うと、隣のカロリーネ嬢まで言い出した。
「私たちみたいな、ダメ男に流されてしまう女は、途中で誰かが止めてくれなければ、流れるところまで流れて行ってしまうのです!この私を見てごらんなさい!流れ、流れて隣国モラヴィアまで来てしまっているのですよ!」
すると、マレーネが拳を斜めに振り下ろしながら言い出した。
「いつかは目覚めなくちゃいけない、縁を切らなくちゃいけない、それは分かっているんです!だけど、ここでクソでもバカでも、どうしようもない男でも、手を切ってしまったら、自分は今度こそ本当のひとりぼっちになっちゃうって思っちゃうんです!きっとファナ様も同じだと思うんです!だって唯一の拠り所があのクソバカシネカス王子しか居ないと思っているんですからね!」
「そうなのよ!そうなのよ!そうなのよ!この人を逃したら、次はいつ運命の相手を見つけられるの?という恐怖心から、ついつい目を瞑ってしまうのよ!だけど、それじゃダメ!絶対にダメ!と、踏ん切りをつけようとしている時に限って、甘い声で囁いて来たりするの!ああいうクズ男たちには妙に鋭い勘みたいなものがあって、逃げられそうになったら、いやいや、絶対に離さないとか、そう言うことを平気で言い出すのよ!」
「ブジュチスラフクソ王子がまさにそれですよ!私たち梟の力が欲しいからって!肝心なところではファナ様に甘い言葉を囁いていたんです!クソです!あいつは完全にクソ王子です!」
一体自分は何を言われているのだろうか・・
あまりのことにブノワが軽い目眩を感じていると、今までブノワが座っていた革張りの椅子にどかりと座ったカサンドラがおんぶしていた赤ちゃんを抱っこして、長い足を組みながらブノワに向かって言い出した。
「生粋のクソは改心を望んだところで、所詮は無駄な行為なのよ。死ぬまで性根が変わらないのは間違いないのだから、だったらファナ様に改心してもらうしかないじゃない?」
すると、マレーネとカロリーネが握った拳を小刻みに振りながら言い出した。
「クソは死ねば良いんです!」
「世の中にはもっと素敵な男が山ほどいるんです!男はもう沢山!と思っていらっしゃったら、一緒に仕事に邁進しましょうと言ってあげてください!仕事と筋肉は裏切らないって私のお姉様の口癖ですのよ!」
一体何がどうして、どうなってこんなことを言われているのか、ブノワの理解が全く追いついていないのだが、それに気が付いたダーナが、丸々とした腕をこんもりとした胸の下で組み、ため息混じりに言い出した。
「マレーネさんから聞いたのだけれど、マレーネさんってしばらくの間はファナ妃の専属の侍女として働いていたのよね?そこで働いている最中に、ブノワさんがファナ妃に好意を持っていることに気が付いたし、ファナ妃もブノワさんのことを、それなりに?ほのかな?何と言ったら良いのか分からないけれど、好意を持っているんじゃないのかな?というような感じだったのですって」
ブノワは背が高く、逞しい身体つきをしているため、女たちにはキャアキャア声を上げられるようなタイプの容姿をしている。肩下まで髪の毛を伸ばした端正な顔をギロリと睨んだダーナは言い出した。
「リア充まじで死ね」
「死ね?」
「ブノワさん!死んじゃダメです!ファナ様は間違いなく!イケメンブノワさんのことを憎からず思っているんです!だって、私がちょっとした冗談で、ブノワさんと付き合っちゃおうかな〜と言っただけで、即座に侍女職からクビになって外に配置変えされちゃったんですからね!」
マレーネは更に大声で叫び続けた。
「なんかもう、ファナ様がそういう意思だから〜みたいな感じで、みんなで二回目の国の滅亡を見送ろうか〜みたいな感じになっちゃっているのやめましょうよ!カサンドラ様とお話ししていて、そういうことじゃないだろうって思っちゃったんです!ファナ様だって本当は生きたいはずです!国と一緒に滅亡なんかしたいわけがないんです!だけど、せっかく自分を妃として迎え入れてくれた国がこんなんなっちゃったからで思考停止に陥っているだけなんです!侍女としてお側に一年仕えた私には分かります!自分以外の女の不幸を見たい〜とか言っていますけれども、ただ、ただ、現実逃避がしたいだけなんです!そんなファナ様を助けてあげてください!」
それは子梟としてファナ妃に仕えたマレーネの思いだった。いつでも苦しそうにファナを、いつだってマレーネは助けたいと思っていたのだ。その思いはもちろん、親梟であるブノワ・セルヴェにも届いているとは思うのだが。
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