第四十三話 梟の男
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モラヴィアの宰相ウラジミール・シュバンクマイエルは非常に優秀な男だが、主人となる侯王含め、周囲に忖度をしない男でもあったがために、多くの敵を作っている。更には彼の娘であるふくよか過ぎるほどのふくよかな令嬢ダーナの周囲で起こった学園での事件が皮切りとなり、恨みつらみを残す若手の貴族が山のように居るのは間違いない。
宰相一家に恨みを持つ貴族たちをまとめ上げたというだけではない数の貴族たちが、宰相を打ち倒すために兵を供出したのは裏でイヤルハヴォ商会が動いたからだ。麻薬で大儲けをしているイヤルハヴォ商会は、麻薬中毒となっている貴族たちを動かして、宰相ウラジミールこそが邪神を信奉する悪なのだと嘯いた。
人は神を持ち出されると、自分が正義の使者にでもなったように簡単に錯覚してしまうのだ。麻薬を使用している最中に思考を誘導されたら簡単だろう。しかも、最近イヤルハヴォで使用する麻薬は新型だとも噂されている。
洗脳された人間はただただ、盲目的に突き動かされていくことになるから、宰相ウラジミール・シュバンクマイエルの命は風前の灯火の状態だと言えるだろう。
風前の灯火と言えば、今のモラヴィア侯国の状態がまさにそれだ。南からは艦隊とも呼べる規模の海賊たちが結集するように動き出し、北陽風に乗って北大陸へと向かっている。
大樹が育たない南大陸では自国での大型船の建造が不可能だ。であるのなら、大樹が育つ北方の国の何処かを植民地にしてしまおうと考えている国は、一つや二つでは済まないだろう。
バジール王国のアルモエズ王の息子マシュアル王子は、自分こそが大樹の大地を手に入れると息巻いているようだが、ここで成功をして王位への足掛かりにしようと考えていた。
「国が滅ぶのを眺めるのはこれで二度目か・・」
そう言ってブノワ・セルヴェは一息にアルコールを飲み干すと、大きなため息を吐き出した。
トウラン王国の諜報を司る梟に所属するブノワは、王国の滅亡と共に生き残った梟を取りまとめて、王族の唯一の生き残りであるファナ姫を追ってモラヴィア侯国へと移動をして来たのだが、亡国の姫でありながら第一王子ブジュチスラフの妃となったファナは、夫の浮気に苦しみ続ける日々を送っている。
ブジュチスラフ王子が節操なしだと言うのは事前に知り得たことではあるが、何の後ろ盾もないファナをわざわざ妃として娶ったのは、彼女の後に控える梟という組織を利用したかったから。
妃としての待遇を受けることに感謝こそすれ、自分の浮気に物申す権利などファナ妃には存在しない。生きていくためには黙って自分に従い続け、梟を自分のために使え。それがブジュチラフ王子の意思であり、その意思に今まで梟は従い続けて来たのだ。
王子の浮気に辟易としたファナ妃は、少しでもブジュチスラフ王子を諌めるために、第二王子であり優秀なパヴェルを王宮の中へと差し向けた。国を統治するにはブジュチスラフ王子だけの力では到底難しく、侯王ヴァーツラフは当てにならない。国を立て直すにはパヴェルの力が必要だと判断されたというのに、そのパヴェルをブジュチスラフが殺した。
その理由はコレ。
「だって気に入らなかったから」
優秀なパヴェルが王宮に出仕するとあって、多くの官吏が喜びの声をあげた。その姿を見て、ブジュチスラフ王子は自分の存在を否定されたような気持ちになったらしい。
部下を使って馬上のパヴェル王子を狙って殺したので、王妃は、パヴェル王子は突然の落馬事故で亡くなったということにして大々的な葬儀を取り行った。これは不幸な事故であり、第一王子は何も関係ないということにして隠蔽を図ったのだ。
ブジュチスラフ王子はファナ妃に対しても激怒をした。お前がパヴェルを王宮に出仕させなければこんな手段は取らずに済んだのだ。お前の所為で実の弟を殺さなければならないことになったではないかと、王子はファナ妃を責め立てた。
以降、ファナ妃は忘れられた存在となり、ブジュチスラフ王子の隣にはパヴェル王子の婚約者だったマグダレーナ・オルシャンスカが侍るようになった。
新聞や世論は婚約者を失ったマグダレーナは第三王子であるドラホスラフ王子の婚約者になるだろうと大々的に報じられたが、その間に、ブジュチスラフ王子とマグダレーナの仲は深いものとなっていく。
プライドが高いブジュチスラフは、ファナ妃を退けてまでマグダレーナを自分の妃として迎え入れたいわけではない。自分の愛人の一人であるマグダレーナ自身が、建国の王に面ざしが似ているというドラホスラフのことを気に入っているため、弟の妃として下げ渡してやろという発想で居るのだ。甘やかされた王子は自分こそが一番だと考えている為、影が薄くてやる気がない弟のドラホスラフなど存在自体を忘れていることが多いのだ。
その弟が、周辺国が喉から手が出るほど欲しい『火龍砲』の購入権をクラルヴァイン王国から勝ち取って交渉の場を設けた時にも、即座に弟の手柄を奪い取った。それを侯王も王妃も認めているのだから終わっている。
そうして、ブジュチスラフ王子の目障りとならないようにするために、侯王と王妃の意思によって、ドラホスラフ王子は海賊退治を命じられる。軍部を預かる責任者であるドラホスラフは海賊を退治するために出発するはずだったのだが、すんでの所で叔父のヤロスラフが居るホムトフ領へと舵を切った。
第三王子が今更動き出したところで、何かが変わるとは思えない。
南大陸が考えるシナリオ通りにモラヴィア国内で内戦が始まり、国が疲弊したところで海賊による強奪が始まるのは既定の路線として決定したのも同じこと。
酒の瓶からグラスにアルコールを注ぐと、それを一息に呑みながらブノワは再びため息を吐き出した。
「ファナ様が滅亡を望まれているのだから仕方がない、俺たちはファナ様の望むままに動くしかないのだからな」
ブジュチスラフからのオーダーで、宰相ウラジミールが無事に滅びるようにオルシャンスカ伯爵を陰ながら支援することになっているブノワ・セルヴェが、領堺にも近い潜伏場所で酒を飲んではため息を吐き出していると、突然、自分一人しかいない部屋の扉がノックされたのだ。
「ブノワさん、マレーネです。突然すみませんが、どうしても報告しておきたいことがあるんです」
子梟と呼ばれる若手のマレーネが直接拠点にまでやって来たということは、宰相側に大きな動きがあったのかもしれない。
剣を片手にブノワが扉を開けると、何故だか赤ちゃんをおんぶした派手な顔をした侍女が紅玉の瞳を瞬かせて、
「ああ〜ら!親梟って白髪の年寄りだと話に聞いていたのだけれど、想像以上に若いではないですか!」
と、言い出した。
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