第四十二話 悪女エルハム
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大きな胸に、くびれた腰は驚くほどに細く、腰からムッチリとしたヒップラインへと続く男たちを魅了せずにはいられないボディを、スーリフ西方で流行しているマーメイドドレスで包んだエルハムは、魅惑の笑みをその麗しい口元に浮かべていた。
エルハムは南大陸の玄関口と言われるアルマ公国の正妃の娘であり、公国内でも大きな権力を持っているというような公女だった。誰もが一目を置くエルハムのことを誘惑しない男は居ないし、誰もがエルハムの視界に入りたいと心の奥底から望んだ。
そんなエルハムに対して全く興味を持たなかったのが、当時、外交のために公国を訪れたアルノルト王子であり、そのことに自尊心を激しく傷つけることになったエルハムは、かの王子が通うクラルヴァイン王国にある学園への留学を決めた。
アルノルト王子にはカサンドラという名の婚約者がおり、エルハムはその婚約者からアルノルトを奪い取ってやろうと画策したのだが、激怒したアルノルト王子は教室を飛び出しただけでなく、国をも飛び出して行き、自国の艦隊を率いてアルマ公国の港湾都市一つを陥落させた。
その責任をとってエルハムはバジール王国の18番目の妃として輿入れすることとなったのだが、そこからエルハムの地獄が始まることになったのだ。
バジールの王アルモエズは多くの妃を抱えているのだが、彼の妃の中には祖国で罪を犯した罪人というものも含まれる。この罪人に対してはいかなることをしても許されるとされており、女の嫌がらせという嫌がらせをエルハムは一身に受けることとなったのだ。
後宮には男が入り込むことがないから、魅惑の体を使って魅了する術など何の役にも立たない。少しでも自分の身を守ろうと考えるのなら、力のある妃の配下になるしか方法はない。それが手っ取り早いのは十分に理解しているのだが、なにしろ女の園の頂点でチヤホヤされて育てられてきたエルハムとしては、底辺からどうすれば這い上がれるのかということが分からない。
一瞬の戸惑いが致命傷となる後宮の中で、無知な上に傲慢なエルハムは格好の餌食となったのは間違いない。バジール王国は多くの妃を娶ることでも有名だが、金さえ払えばどんな女でも妃として迎え入れる。一度迎え入れれば外に出さないということは有名な話で、外には出したくない問題を起こした高位身分の女が送られてくるのもまた有名な話。
そういった女たちが後宮の中に入ると大概が長くは保たない。外には出れない女たちのストレス発散に使われるのは当たり前であるし、バジールの王も複数いる妃たちのガス抜きの為に利用しているのだから。
アルマ公国から送られてきたエルハムはただ踏み潰されるだけの存在となっては居たのだが、そんなエルハムに目をつけた妃がいた。踏みつけられても闘志をその瞳に燃やし続けているエルハムを見て、自分の息子を王に押し上げるための道具として使おうと考えたのだ。
「ああ・・我が女神、魂の奥底からお慕いしております・・どうか・・どうかこの私めに慈悲を・・お慈悲をお与えください・・」
「慈悲?ええそうね・・私の言うことを聞くのなら、貴方に慈悲を与えようかしらね・・」
エルハムは足を上げると、蛙のように仰向けとなって転がる男の股間をぐりぐりと踏みつけながら言い出した。
「ああ、なんて恥ずかしい状態なのかしら、こんな姿を貴方の妻が見たらどう思うのだろう?」
「あああ・・ああ・・こんな姿、エルハム様にしかお見せしません!」
「あら、本当に〜?」
エルハムが更に力を入れてグリグリすると、男は歓喜の声をあげて涎を垂らした。
「ああ・・エルハム様・・私に・・私に恵をお与えください・・」
「はあ・・本当に仕方がない子ね」
エルハムは水差しから直接自分の口に水を含むと、転がる男に口移しでその水を与える。薬物入りの水を口移しで飲み込んだ男は歓喜の表情を浮かべているのだが、その男の髪を鷲掴みにして、エルハムは男の耳元へと囁いた。
「神は貴方へお命じになった。邪神の信徒、宰相ウラジミール・シュバンクマイエルを倒せと、神の使者であるお前へお命じになっている。すぐさま兵士を用意して、邪神を信奉する人々が集まるシュバンクマイエルの領地を殲滅し、滅ぼしてしまえ」
「ああ・・神よ・・あなたの意思に従います!」
ハア、ハアと息を吐き出しながら男の中で幻覚と幻聴が始まったらしい。エルハムは投げ捨てるようにして男の髪を離すと、男が転がる部屋から移動をする。
ここはモラヴィアの侯都リトミシェルにある高級娼館であり、かつては侯王も通ったと言われるだけあって細部に至るまで豪奢に造られている。
外に控えていた男のうちの一人がエルハムの代わりに部屋に入ったのは、恍惚となったままの男の思考を洗脳し続けるため。バジール王国では他国を占領する際に麻薬を良く利用するのだが、最近、密かに開発された麻薬は洗脳にも特化していると言われている。
ただ、洗脳するのにも最初の誘導が難しいため、男の煩悩や欲を刺激しやすいエルハムがこの仕事に関わることになっている。麻薬で汚染された国は陥落させるのは簡単だと昔から言われている為、バジール王国のマシュアル王子が、モラヴィアを占領するための地盤固めをしているのだ。
「エルハム様、また伯爵を一人、陥落させたようですね」
娼館一階にある従業員部屋へとエルハムが向かうと、そこに居たアクラムが無邪気な笑顔で言い出した。
アクラムは、今はマグダレーナ・オルシャンスカの従者をしているが、元々はバジール王国が出資するイヤルハヴォ商会の会頭をしていた男だ。この国が災害に見舞われた際には、無利子で王家へ金を貸し出し、王宮の中にまで入り込んでいるモラヴィア貴族に復興に当てられた資金の横流しを唆した。
復興に当てられるイヤルハヴォが貸し出した金の実に4分の1がイヤルハヴォ商会から麻薬を購入する金に変わり、購入された麻薬はより高値で他の貴族に売りつけられることとなったのだ。
もちろん4分の3は復興に当てられることになった後に、イヤルハヴォ商会が実はバジール王国の息が掛かった商会であるとの噂を流す。警戒した宰相ウラジミールは、イヤルハヴォ商会へさっさと借金を返済して手を切ろうと判断したが、その間にも麻薬は貴族の中へ広がり続けていく。
一番に笑えるところは、モラヴィアの侯王が今の時点でも無利子で金を貸し出したイヤルハヴォ商会に感謝をしているというところ。こんな危なっかしい王家をそのままにはしてはおけないとドラホスラフ第三王子が動き出したようだが、愚鈍なブジュチスラフ第一王子は宰相こそが謀反を企んでいると断じている。
そこでマグダレーナお嬢様の従者であるアクラムは、ここぞとばかりに言い出した。邪魔な宰相をここで打ち滅ぼしてしまえば、次の宰相はオルシャンスカ伯爵が名乗り出ることで決まること。宰相を滅ぼしたいと考える貴族は山ほど居るし、打ち倒すための資金はイヤルハヴォ商会が援助しよう。
「エルハム様の魅力で多くのモラヴィアの貴族が信徒のような状態となっておりますので、宰相の首が城門の前にぶら下がるのもすぐのこととなりましょう」
「そんなことはどうでも良いのよ、アクラムがここに居るということは何かあったのでしょう?一体何があったの?」
「実は、王太子妃カサンドラが宰相が統治する領地にいます、しかも今、獅子は近くにいません」
エルハムは花開くような笑みを浮かべながら、
「それじゃあ、手筈通りすぐに誘拐しましょうよ!」
と、興奮を隠しきれない様子で言い出したのだった。
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