第四十一話 カサンドラ我が道を行く
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クラルヴァイン王国の王太子妃は類稀なる才能を持っていると評価されることが多いけれど、非常にムラっけがある人であり、やる気がなくなると、とことん何もやらなくなるという噂をダーナは事前に聞いていた。
今回、カサンドラが隠密理にモラヴィア侯国に入国をしたのも、彼女のやる気がすっかり無くなっていたから。王都での政務に励む気が全く起きなかったが為に、火龍砲の売買締結の為にモラヴィアを訪れるアルノルト王子についてやって来たのだ。
火龍砲は遥か東の果てにある鳳陽国で製造されている精度が高い大砲のことであり、クラルヴァイン王国がこの大砲で海賊たちを撃退するどころか、南大陸の玄関口とも言われるアルマ公国の港湾都市一つをあっという間に堕とした話は有名だ。何処の国でも欲しいと願うものであるし、下手な国が所有すれば、すぐさま戦火が切って落とされることにもなるだろう。
そんな火龍砲をモラヴィアが購入出来るのは、一重にドラホスラフ王子がアルノルト王子と友人関係にあるからなのだ。だとしても、そんなことにまで頭が回らないヴァーツラフ王は大砲売買に関する折衝を第一王子であるジュブチスラフに任せることにしたのだ。
侯王は第一王子に実績を作るために、第三王子が持ってきた手柄を第一王子に押し付けたということになるのだが、侯王よりも更に間抜けな王子がそれを理解出来ているわけがない。
「ヴァーツラフ王は弟君となるヤロスラフ様を憎んでいるところがございますので、謀反と聞けばまずはホムトフ領へと兵を差し向けるものとこちらは考えていたのです。確かにヴァーツラフ王はホムトフ周辺の領主へ急使を送り、ホムトフ包囲網を作る準備をしているのは間違いないのですが、それとは別に、侯王の名代としてオルシャンスカ伯爵が兵を集め出し、我がシュバンクマイエルへ差し向けようとしているのです」
テーブルの上に広げた地図に先ほど情報として手に入れた敵の軍勢を書き入れながら、ダーナはずいっとカサンドラの方へと押し出した。
「当初、ここまでオルシャンスカが兵を集められるものとは思っておらず、我が領地は安全地帯であるとも考えましたが、事態は思いもしない方向へと動いているのです」
太っているダーナはむっちりとした腕で額に浮かんだ汗を拭いながら言い出した。
「すでにクラルヴァイン王国側も手に入れている情報かもしれませんが、我がモラヴィアを狙った海賊たちが艦隊並みの船を用意してこちらに向かっているようです。モラヴィアは今、内戦に突入しようとしているような状態ですが、同士討ちで戦力が疲弊したところで海賊による略奪が始まるでしょう。そのような状況ですのでカサンドラ様には早急にここから離脱して頂きたいのです」
「それって私が逃げ出さなくてはならないということですわよね?」
紅玉の瞳がジロリとダーナを睨みつける。
「何故、私が逃げ出さなければならないのです?」
「いや・・だから!」
何度この説明を続けなければならないのだろうか?
大きなため息を吐き出したダーナは椅子に座ると、まるまると太った腕を弾けそうなボリュームの胸の前で組み、大きなため息を吐き出しながら言い出した。
「クラルヴァインの妃殿下は今、ここで、我々と共に死ぬおつもりなのですか?」
今まで宰相として侯王の尻拭いをし続けて来たのだから、こちらが謀反を企んでいる話が出たとしても、もう少し精査をした上で侯王は判断を下すだろうとは思っていた。
侯王ヴァーツラフは宰相ウラジミールが居なければまともに国の運営も出来ない王なのだから、もう少しウラジミールのことを信用するとか、手離さないようにするとか、そういう動きを見せるのかと思いきや、侯王はあっさりとウラジミールを捨てた。
つまりは、ウラジミールの代わりが現れたということだ。ウラジミールが居なくても国を回すことが出来ると判断したに違いない。今まで何度となく苦言を呈してくるウラジミールのことは元々気に食わなかっただろうから、これ幸いと排除する手に出ることにした。
数で言えばシュバンクマイエルは圧倒的に不利。籠城戦になるとしても、どこまで保つかが分からない。そんな状況で、他国の王太子妃が何故、居座ろうとするのか?その理由がダーナには全く分からない。
「まさか!共に死ぬつもりなんてあるわけがないじゃない!」
カサンドラがそう答えてコロコロと笑うと、扉の遥か向こうの方から、赤子が泣き叫ぶ声が聞こえてくる。カサンドラがお付きの侍女に何かを言うと、その侍女は心得た様子で部屋の外へと向かっていく。
そうして一人の赤子を抱っこして戻ってくると、
「あら、あら、お腹が空いちゃったのね」
と言って、カサンドラが侍女服の前をくつろげて赤ちゃんに乳を吸わせようとしているところを、二人の侍女たちが豪奢な布を広げてこちらには見えないように配慮をしている。
というか・・赤ちゃん・・赤ちゃん・・赤ちゃん?
「カサンドラ様、まさかその赤ちゃんは、王太子ご夫妻のお子であるフロリアン王子ではありませんか?」
「ええ、そうよ。クラルヴァインは他国と比べて妃の意見を非常に尊重する王家なので、フロリアンはなるべく私の母乳で育てるようにしているのよ」
ダーナは思わずふっくらした両手で自分の胸の下のあたりをギュッと押さえた。
というか・・何故、フロリアン王子がここにいる?王太子妃だけでなく、何故その子供がうちのタウンハウスに滞在しているのだ?
ダーナは激しい胃の痛みを感じて思わず体をくの字に曲げているけれど、そんなダーナを梟所属だという年若い侍女が同情を含んだような眼差しで見つめている。
「私、逃げるって好きじゃないのよね」
「いや、そうではなく」
「それに、逃げる必要なんてあるのかしら?」
「ええーっと」
「ダーナ・シュバンクマイエル、お前は父である宰相について王宮に入り込み、一部の貴族によって密かに行われていたマネーロンダリングの証拠を見つけたのでしょう?」
ダーナは思わず生唾を飲み込んだ。
「その証拠を今すぐ私に提出なさい、私がうまい具合に使ってあげるから」
「いや、うまい具合に使ってあげると言われましても」
モラヴィア侯国は無計画に樹木を伐採し続けた為に、国内の各地で大規模な土砂災害が頻発するようになっていた。土砂災害への対応としては、スーリフ大陸東方では植林事業を行うことによって災害を未然に防いでいるという情報がドラホスラフ王子経由でもたらされることになり、今現在も侯国として植林事業を続けている。
植林事業は思った以上に順調に進んでいるのだが、災害が起こった地域の復興がなかなかうまく運ばない。
災害が起こった領地を治める領主に対応を丸投げするというわけにもいかず、侯家としての援助金を支払うことになったのだが、それが各地にともなると膨大な金額になってしまう。その不足分をある商会が善意で貸し出してくれると言い出してくれたのだが、その借りた金の一部は中抜きされる形で一部の貴族に流れ込んでいた。
その貴族たちというのは麻薬ビジネスに手を染めているような輩であり、その中抜きした金で麻薬を購入し、値段を上乗せした状態で他の貴族に売る。商会は侯国に大きな借りを作ることが出来るし、貴族たちへ麻薬を広めることも出来る。そうして国が弱体しきったところで植民地化を進めようという腹なのだが・・
「なんでそんなことをカサンドラ様が知っているのですか?」
こっわ!本当の本当にこっわ!と思いながら、ダーナは全身に滝のような冷や汗をかいていたのだった。
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