閑話 宰相の娘ダーナの当て馬事件
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宰相の娘となるダーナはミルクをたっぷりと飲む赤子だった。だからこそ、赤ちゃんの時からふくふくと育ち、離乳食も幼児食もたっぷりと食べ続けているので、ぽっちゃり状態の子供に成長した。
モラヴィアでは十二歳から貴族たちは学園に通い出すのだが、この時にはすっかり今と同等の体型に成長をした。学園では制服着用を義務付けていないので、貴族の令嬢たちはそれぞれ華やかなドレスを着て学園に通っていたのだが、ダーナはドレスなど着用せず、特注の制服を着て学生生活を過ごすことになったのだ。
「なんだあのデブ!」
「お前、気をつけろよ!あれでも宰相の娘なんだぞ!」
学園を入学してからというもの、何度このような言葉を言われたことだろう。
女性らしい膨らみを持ちつつも、ほっそりとした体型を求められる世の中で、樽のようにでっぷりとしたダーナは異端中の異端と言えるだろう。ダーナとて、このままではまずいと思ってダイエットに取り組んだこともあるのだが、なにしろ赤ちゃんの時からふくふくとしていて、生まれてこの方一度としてほっそりと痩せた体型になったことがない。この体型は生まれ持ったものであると諦めたダーナは、自分の体型を受け入れた。だからこそ、いくら悪様に言われようとも心が傷つくことはなかったし、
「少しはご自分の姿を鏡でご覧になったらいかが?」
と、言い出す女には言葉で百倍返しをする道を選んだのだ。
そんなことを繰り返しているうちにダーナの近くには王族の第三王子であるドラホスラフしか残らなかった。ドラホスラフ王子は十五歳になってから隣国クラルヴァインに留学をしてしまったが、十五歳になるまでの間はモラヴィアの貴族学園に通っていたのである。
やる気がない陰も薄い王子と誰もが蔑むデブ。そんなコンビは生徒たちから遠巻きにされることとなったのだが、ダーナの苦難はドラホスラフ王子が隣国に留学をしてから始まる事になる。
ことのきっかけはこうだった。
「これ、落としましたよ」
ダーナはただ、ハンカチを落とした男子生徒に落ちたハンカチを渡しただけ。だというのに、その男子生徒はあろうことか、
「俺、どうやらダーナ嬢に強烈に言い寄られているみたいなんだけど」
と、大袈裟な身振り手振りで言い出した。
その男子生徒には婚約者がいたのだが、その婚約者との仲がなかなかうまくいかずに、その男子生徒は悩んでいたのだという。そんな中で、男子生徒はハンカチを拾ってくれたダーナを利用することを考えた。
「宰相は娘を溺愛しているのは有名な話で、ダーナ嬢と結婚をすれば明るい未来が開けるのは分かっている。だけど・・俺には愛する婚約者が居るから・・」
愛する婚約者が居るからダーナを選ぶことは出来ない。そんな話を聞いて喜ばない女は居ないだろう。
結局、ダーナをダシに使った男子生徒が自分の婚約者との仲をアツアツなものにすることに成功した。そうすると、我も我もと他の男子まで、ダーナを当て馬役として利用することになったのだ。
今までは影が薄いといってもドラホスラフ王子が近くに居たから迂闊なことは出来なかったけれど、王子が居ないとなれば話は変わってくることになる。ダーナは知らない間に、様々な子息に色目を使う、樽のように太っているのに多情な女ということになってしまった。
そうして、周りの女子生徒たちからは、
「ダーナ様!私の婚約者に色目を使うのはやめてくださいませ!」
「いくらダーナ様が私の婚約者を好きであろうとも、彼の方が選ぶのは私なのです!」
「ダーナ様の恋心も分かりますけれど、彼が愛しているのは私なの!彼があなたを好きになるわけがないじゃないですか!」
と、連日のように意味不明なことを言われ続けることになったのだが、ダーナは黙って一年が過ぎるのを待つことにした。
太っているだけでなく、宰相の娘であるダーナは格好な当て馬令嬢らしく、ダーナ嬢に気に入られた俺は宰相も認めるほど有能な男。宰相の縁故を考えれば、ダーナ嬢の誘いを受けるのもやぶさかではないが・・やっぱり愛する人は捨てられないという茶番が、何度も何度も繰り返される。
都度、自分を利用した人間の情報は詳細に残すことにして、学園の年度末が近づくまでダーナは歯を食いしばって待つことにした。
そうして、学園を卒業する優秀な生徒たちが王宮への出仕をするための試験を受ける時になって衝撃が走ることになったのだ。
「え?どういうことですか?」
学園の最終学年となり、官吏となるために勉学に励んできた生徒は、
「どうして私には試験を受験する資格がないのですか?」
自身の怒りを抑えつけられないといった様子で問いかける。
「我が家は伯爵家、立派に王宮の官吏として働く資格があると思うのですが?」
試験官は眼鏡を指先で押し上げながら言い出した。
「貴殿の弟は嘘をつき、自身の婚約者との絆を深めるために宰相の御息女を無意味に貶めた。国の人事を扱う頂点にいる人に対して唾をするのも同じ行為をしたのは間違いない。そんな愚かな人間の兄となる人物を、何故、官吏として採用しなければならないのかな?」
ダーナは自分を当て馬として利用した者たちの情報は逐一、調査報告書として宮殿に提出しており、そのような嘘や妄言を公言する人物の親兄弟にも問題があるのではないかと提言をした。
そうして嘘を言い出した本人だけでなく、その親兄弟を緻密に調査までしたところ、後暗いところがある人物がいれば、その秘密が暴露されることとなったのだ。例えば横領、例えば経費の水増し請求、例えば賄賂の請求など。親兄弟が官吏として務めている場合に限ってではあるものの、明るみになった罪については処分が下されることになったのだ。
王宮の人事の責任者は宰相本人。宰相自らの方針で、そのような問題人物に関わる者の採用は見送るという判断が下されることとなったのだ。
「嘘だろう!」
「そんなつもりじゃなかったんだ!」
「ちょっとした冗談じゃないか!」
多くの人間がダーナの元を訪れたが、
「私はただ自分の身の回りで起こった事実を報告書として提出しただけです」
と言ってダーナは一刀両断にした。
宰相の娘ダーナの当て馬事件は、後々まで学園で語り継がれることとなるのだが、この当て馬事件によって宰相一家は色々なところに恨みを買うことになったのは間違いない。
「子供のほんの冗談みたいな行動にそこまで反応するのは大人気ない」
という意見が非常に多かったのも知っているし、官吏への道を閉ざされた上位貴族の子息たちが不満を露わにしていることも知っている。
だからこそ、今この時になって宰相一家を滅ぼそうと考える貴族たちが結集するのは分かりきったことでもあるのだが、
「お父様、予想以上に数が多いようですわね」
「本当だな、予想以上に多いようだな」
ダーナとウラジミール親子は馬車の中で、部下が送りつけてくる報告書を眺め下ろしながら互いに顔と顔を見合わせることになったのは、侯都から領地へと向かっている最中でのことだった。
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