第三十六話 ドラホスラフとカロリーネ
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クラルヴァイン王国では結婚式を挙げる前に妊娠をするということが良くあるし、周辺諸国のように、結婚する時には純潔でなければいけないという考えも非常に薄い。寒い北と暖かい南では貞操の観念は大きく違うようで、例えば北辺の国アークレイリでは貴族女性は結婚前まで純潔を強く守ろうとするのに対して、クラルヴァイン王国の貴族女性は、意外なほどに流されがちだ。
例えば内陸に位置するスランディア王国では、結婚前まで女性が純潔であるのは当たり前としていつつも、後継となる子供を産んだ後は、互いに不倫をすることは何の問題もないとされている。結婚後、正当な血筋を残せばそれで良いし、色々な相手と不倫をすることよって、家に必要な情報を手に入れる。家を存続することが重要であって、夫婦の愛とかそういったものは二の次三の次という国は多くある。
南大陸とは海峡を隔てた対岸に位置するクラルヴァインは、気候が温暖で国民の性格もおおらかだと言われているし、代々の国王が伴侶を溺愛するのは有名な話でもあるため、クラルヴァインの貴族は結婚した後も夫婦として深い愛情を持っている場合が非常に多い。
もちろん、クラルヴァインでも政略で結婚が決められるのがほとんどなので、結婚後も乾き切った関係を築いていく夫婦は多いのだが、他国と比較すると、王家を習って夫婦円満でいようと考える貴族の数は多いのかもしれない。
だからこそ学生生活を送る中で、一歩先に進んだお付き合いというものが横行しているし、過去に他の男に抱かれたことがあるけれど・・だからと言って忌避するのは男の懐の小ささを意味するとあって、結婚する際の純潔云々についてはとやかく言うような風潮にない。
そんな訳で、
「カロリーネ、私たちはすぐに結婚をする仲なのだから構わないだろう?私は君の全てが欲しいんだ」
学園を卒業しようという頃、カロリーネは彼のそんな言葉に惑わされて、自分の全てを彼に与えてしまったのだ。
一度与えてしまえば、男は二度でも三度でも与えてくれるのだろうと思うもの。
「カロリーネ、君が欲しい」
「君が居なくて死にそうだった」
「カロリーネ、君は私の全てだ」
なんてことを耳元で囁かれると、いつもはしっかり者のカロリーネも、思わず腰が抜けたようにクターッとなってしまうのだ。
カサンドラとアルノルト王太子の結婚を祝うパーティーに現れたドラホスラフは、まるで物語のようにカロリーネを攫っていったのだが、その時にも、彼はカロリーネの耳元で『カロリーネ、君を愛している』と囁き続けたのだ。
物語のように攫われて、物語のように囁き続けられれば、いつもはしっかり者のカロリーネだって思わずクターッとしてしまうのだ。そもそも、クラルヴァインの貴族女性は流されやすいところがある。カロリーネもまた、流されやすかったということだろう。
その後、ハイデマリーの家に二ヶ月以上放置され、襲撃者が襲って来ることにもなり、ドラホスラフの伯母となるカテリーナ・バーロヴァ女伯爵の元へ逃げ込むことになったのだが、襲われたカロリーネを心配して駆けつけてくれたのは、ドラホスラフではなくペトルだったのだ。
言葉も態度も乙女なペトルお姉様は、深く深〜く傷ついているカロリーネに『仕事』という逃げ道を与えて、寄り添い続けてくれたのだ。
もしかしたら、コルセットでもう一度大儲けしようと考えて、カロリーネが利用されたというだけの話かもしれないけれど、健康に特化したコルセットは必要だと思っていたから、カロリーネは利用されることを嫌だとは思いもしなかった。
バカな男のことはもう忘れて、お姉様と一緒に芸術の都ポアティエに行こう。コルセットも大体の形は出来たところだから、細かいところを調整するのは専門家にお任せして、そうだ、私はポアティエに行こう。
そうカロリーネが考えていたところで、
「カロリーネ、私は浮気は許さない」
と言って夜中に突然現れたのがドラホスラフだった。
この男はカロリーネの意見を聞く耳を持っていやしない。
「今日はカサンドラ様とコンスタンツェ様とお食事を摂る予定でいますの」
「嫌だ、今日は外で食べたい」
「ですが、二人とお約束をしているので」
「嫌だ、今日は外で食べたい」
学園に通っている時もそうだった。クラルヴァインに留学をしている王子は、外交にも携わらなければならないことが多く、学生時代はカロリーネの都合ではなく、ドラホスラフの都合で動くことが多かった。
自分が居る時には仲良しの二人のことなど後回しにさせて、自分を優先させることを常に求めた。
「「相手は王子様なんだから仕方がないんじゃないかしら?」」
と、二人からも言われたけれど、カロリーネも王子様だから仕方がないと割り切っていたのだ。
学生時代は、カサンドラとアルノルトは非常にドライな関係のようにも見えたので(二人が公の場でイチャイチャすることは絶対になかった)
「同じ王子様でも、扱いが全然違うのですもの!もしかしたらアルノルト様がカサンドラ様を思うよりも、私の方がドラホスラフ様に愛されているのかもしれないわ!」
と、思っていたカロリーネの頭の中には、でっかいお花畑が出来ていたのかもしれない。
学生時代、アルノルト王子とカサンドラの間には距離があったのだが、ドラホスラフ王子は常にカロリーネの隣に居てくれた。わがままも言うけれど、カロリーネを常に気遣ってくれた。それは学生の間限定のことだったのだけれど・・
ドラホスラフの都合に振り回されるカロリーネは、バーロヴァ邸から誘拐され、夜通し馬で移動をさせられ、そうして見たこともない城館と呼ぶにも相応しい場所へと連れ込まれ、抱え上げられたまま部屋に移動をして、再びカロリーネは、ドラホスラフの腰砕けになるような愛の囁きに流されてしまったのだった。
食事はドラホスラフが運んでくるし、片時も離さずカロリーネを愛し続けるわけで、結果、カロリーネは失神するように眠りに落ちた。
そうして眠りから目覚めた時に、もちろんドラホスラフは居なかった。彼はいつでもこんな感じで居なくなるのだ。
そうして、カロリーネのために用意された年若い侍女が言い出したのだった。
「ここはドラホスラフ様の花嫁候補となるダーナ・シュバンクマイエル様所有の城館にございます」
散々に鳴されて喉がガラガラ状態のカロリーネに冷たい水を差し出した侍女は言い出した。
「ダーナ様はほぼほぼ、ドラホスラフ様の妃として決定していることもあり、恐らく未来の愛人の世話は正妻に任せるという意味でこちらに置いていかれたのでしょう」
「ドラホスラフ様は、今はどちらにいらっしゃるの?」
「殿下はとても忙しい御身にございます」
「どちらにいらっしゃるの?」
「さあ?」
年若い侍女は小首を傾げながら言い出した。
「側近を連れて城館を出発されたので、どちらに向かわれたのかは一向に分かりません」
怒りに顔を真っ赤にしたカロリーネは、思わず寝台に顔を突っ伏したのだった。
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