第三十三話 嫉妬
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何度も替え馬をして途中で休むこともなく侯都へと戻って来たモラヴィア侯国の第三王子となるドラホスラフは、カテリーナ・バーロヴァの邸宅へと向かうと、伯母に挨拶をすることもなく、旅で汚れたままの姿でカロリーネが居る客室へと向かったのだった。
夜になるとアルノルトはバーロヴァ邸に帰っているし、妻であるカサンドラと息子のフロリアンと共に、王族の為に用意された豪奢な部屋で休んでいることだろう。
その一画からは離れた客室へと向かったドラホスラフは、するりと忍び込むようにしてカロリーネの寝室に入り込んだ。
カーテンが閉め切られておらず、その隙間から入る月の光が部屋の中ほどまで伸びており、寝台で寝息を立てるカロリーネの可憐な顔を浮かび上がらせていた。
カロリーネの美しい新緑の髪を一房、掬い上げると、その髪に口づけをしながらドラホスラフは愛する人を見下ろした。
寝台に膝をつき、彼女の頭を挟み込むようにして両手を付いたドラホスラフは、金色の瞳で彼女を見つめながら、
「カロリーネ、浮気をしたな」
と、言い出した。
深い眠りに落ちていたカロリーネは、それでも何かの異変を感じて閉じたままの眼をかすかに震わせる。そうして、唇を微かに何度か動かすと、うっすらと瞼を上げたのだった。
ちなみに寝台の上に寝ていたカロリーネが驚かないわけがない。
何かよくわからない黒い塊が、自分に覆い被さるようにして居るのだ。
だけど、何故だか怖くは感じなかった。
だってあれほど学生の時には一緒に居続けた人なのだから。
恐らくカロリーネでなければ即座に叫び声を上げていただろう。
それだけドラホスラフの瞳は鋭いもので、暗闇に沈んだ寝室の中で炯々と輝いているようにも見えたのだから。
「婚約解消の書類を持って来たのなら、サイドテーブルの上にでも置いておいて下さい」
仰向けから横向きに体の向きを変えると、カロリーネは大きなため息を吐き出しながら言い出した。
「私、本当にずーっと羨ましかったのです」
カロリーネはひたすら羨ましかったのだ。
幸せそうなコンスタンツェが、どっしりと構えて王太子妃として急成長しているカサンドラが。
「羨ましくて、羨ましくて、仕方がなかったの」
次々と結婚をしていく学園の同級生たちを見送り、次には結婚を決めた針子たちを見送り、
「元海賊のサンジーワさんが、手下を紹介してくれるって言った時には、本当に紹介してもらおうと思ったの」
カロリーネの頬から涙がポロリとこぼれ落ちた。
「モラヴィア訛りの男は嫌い」
あなたを思い出してしまうから。
「だから、シンハラ訛りの男と結婚しても良いかと思ったのだけれど、元海賊では流石のお父様もお許しにはならないわよね」
一応、これでもカロリーネは侯爵家の娘なのだ。元海賊との結婚はまず無理だろう。
「貴方は国内の有力な貴族の令嬢と結婚をすれば良いわよ。私はきっと、二十歳以上年上の何処かの貴族とか、四十歳以上年上の好色のお爺さんのところとか、そんなところにしか嫁ぐことも出来ないでしょうから、王族の貴方と顔を合わせることもないでしょう」
大きなため息を吐き出したカロリーネは、ポロポロと涙をこぼしながら言い出した。
「私、ポアティエに行きたい」
「・・・」
「ポアティエに行って服飾の勉強をしたい」
「・・・」
「お姉様と一緒にポアティエに行きたい、ポアティエに行ったら色々なメゾンを回るの。芸術の都で流行しているドレスがどんなものかリサーチをして、それからクラルヴァイン発信のマーメイドドレスを売り込むの」
「・・・」
「お姉様と一緒にコルセットも売りたい、体に負担にならないコルセット、女性の負担にならないコルセット、腰痛予防で男性でも使用が出来るコルセットを」
「カロリーネ」
ドラホスラフは心の奥底からヒヤリとするような声で言い出した。
「私は浮気を許さない」
目を瞬かせたカロリーネは、ドラホスラフの言葉を反芻した。浮気を許さないと言っているが、カロリーネは間違いなく浮気などしていない。そもそも浮気とは一体なんなんだ?ドラホスラフとの婚約関係なんて霧となって消えているというのに、何が浮気なんだ?どれが浮気なんだ?そもそも浮気ってなんなのだ?
「他の男と三日三晩も同じ部屋に居たということは言語道断の行いだろう」
うーんと・・
確かにカロリーネはペトルと新しいコルセットを開発するために仕事部屋に引きこもっていた。ペトルだけでなく、二人のお針子も巻き込まれる形で引きこもっていた。無理難題を言われ続けた二人の針子は右手が腱鞘炎になりかかったし、不眠不休がたたってカロリーネの顔には吹き出物が三つも出来たのだ。
「三日三晩と言いますけど!針子の二人もいましたし!そもそもペトルさんはお姉様ですし!」
「ペトローニオ・マグヌス・スタール・フォン・トルステンソンはお姉様ではない、彼は立派な男だ」
「男でも私の大切なお姉様なのです!」
「だとしても、彼が好むのは同性ではなく異性なんだ」
「わけが分からない!」
ドラホスラフに囲い込まれた状態で、カロリーネの涙はピュッと音を立てて引っ込んだ。
「ペトルさんは誰が何と言っても、私のお姉様なのです!その大事なお姉様のことを悪く言わないで!ハイデマリー様の家に放置して私を平民堕ちさせた貴方なんかにとやかく言って欲しくはありません!」
「足先を見せたのだろう?」
「はい?」
「ペトローニオと足先を見せ合った仲なのだろう?」
「はあい?」
足先ってなんだ?足先?
「仕事の間はパンジャビドレスを着ていたし、サンダルを履いてはいましたけど、だからってなんなのですか?お針子の二人だって同じような格好をしていましたよ!」
休憩中はシンハラ島から持ち込んだという敷物を敷いて、クッションの上で死んでいたので、足先はそりゃ見えていただろうとは思うけれど・・
「シンハラ島スタイルなんだから仕方がないでしょう!私!マダムアデリナと仕事をするようになって、アクシャと友達になって、シンハラスタイルをこよなく愛するようになったのです!私を放置している貴方にどうのこうのと言われたくはありませんわ!」
「私以外に足を見せるなんてどうかしている」
ドラホスラフはそう言って掛け布を剥いでしまうと、露わとなったカテリーナの足を掴んで引き寄せた。
「寝ている時までズボンを履くなんて」
「これがパンジャビドレスなんです!最近クラルヴァインでも寝衣として流行しているんです!」
ドラホスラフはカテリーナの額や頬に降るようなキスを落としながら、カミーズ(上衣)の中に手を入れていく。そうして胸を覆うドゥパッターを巻き取りながら、
「この布もペトローニオと見せ合ったんだろう?浮気は嫌だと言ったはずだが、なんで分かってくれないんだ!」
と、言い出したので、ドゥパッターを巻き取られたカテリーナは自分の胸をカミーズの上から押さえながら、
「分かっていないのは貴方です!もう別れたい!貴方とは別れたい!もう別れましょう!」
と、言い出したので、愕然とした様子でドラホスラフは動きを止めた。
そうして、
「別れない・・絶対に別れない!」
と言うと、掛け布でカテリーナをぐるぐる巻きにしてあっという間にバーロヴァ邸から運び出してしまったのだった。
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