第三十一話 新型コルセット
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芸術の都ポアティエの貴族たちはドレスに鍵フックを利用することでサイズの調整が簡単に出来るとあって、密かなブームを巻き起こしている。この鍵フックが新しいコルセットの重要なアイテムとなったのは間違いない事実だ。
今までのコルセットは、筒状のものを腰に装着し、紐で編み上げて引き絞る。そうすることで腰の優美なラインを作り出していたのだが、新しいコルセットは帯状のもので、布の端を引っ張りながら鍵フックで固定。腰の骨を支える部分には鯨の髭が入れられることで骨格を支える形として、何枚にも降り重ねたドゥパッターの生地を利用することで伸縮性のあるコルセットを実現することになったのだ。
伸縮素材を使った編み上げ式のコルセットも同時に作ってみたものの、
「私はこちらの方が」
「私もこっちの方が良いわね」
と、執事のビアッジョや女伯爵であるカテリーナは鍵フックを利用した帯状のコルセットの方が気に入ったようだった。
「カロリーネの絵を解読するまでに随分と時間がかかってしまったけれど、作り上げてみたら意外に早かったわね」
そんなことを言うペトルの前には、下手くそなデザイン画が描かれた紙が山のように積み上がっている。妖精のように可憐な容姿をしたカロリーネはカサンドラの右腕と言われるだけあって非常に頭の回転も早く、豊かな発想力を持っている。
だからこそ、コルセットを使わないドレス製作をカサンドラはカロリーネに丸投げしたのだが、カロリーネは、兎にも角にも、絵がものすごく下手くそだった。
「クラルヴァインにある『バルマン』のマダムアデリナは、あなたのデザイン画からあのマーメイドドレスにまで昇華させたのでしょう?正直に言って尊敬するわ」
下手くそなデザイン画を一枚手に取ったペトルが、その整った顔をくちゃくちゃに顰めて見せる。
カロリーネがマーメイドドレスを思いついたのは、バルマンで働いていたアクシャの夫が船から戻って来たからで、
「ワタシの夫、海の男、魚臭くてごめんなさいネ〜」
というアクシャの言葉から、
「そうよ!魚だわ!魚のドレス・・魚のドレスだったらコルセットもいらないし、鳳陽ドレスっぽい仕上がりになるじゃない!皇后様も気にいるはずよ!」
と、カロリーネが言い出したのがきっかけだったのだ
その後、カロリーネは魚のドレスを描いていったのだが、どれだけ下手くそな絵だったかは容易に想像が出来るのだ。
「私たちはコルセットというと筒状でなければならないと思い込んでおりましたけれど」
「まさか帯状にするなんて思い付きもしませんでした!」
針子のベルタもダリナも喜び、最後には疲れ果てた様子でため息を吐き出した。
カロリーネは仕事に関わる全員にパンジャビドレスをプレゼントして、シンハラ島スタイルがどれほど楽なものなのかを実体験をしてもらうことにした。その時に、女性の胸の膨らみを覆い隠す布、ドゥパッターに興味を持ったのがペトルだったのだ。
ドゥパッターは細長い布であり、胸をぐるぐると巻くような形で覆う。このぐるぐると巻く布は伸び縮み出来るような織り方をしているため、コルセットに利用してみたらどうかと考えたのだ。
今までは伸び縮みなどしない綿生地をコルセットに利用し、レースや刺繍で見かけは華やかにしていたのだが、伸び縮みをしないコルセットでギュッと絞られることで、呼吸が困難な状態になるのは当たり前のこと。
だったら、伸び縮みする布を利用したら良いのではないかということになり、筒状のコルセットの一部を綿、一部をドゥパッターの生地にしたところ、ドゥパッター生地の耐久性が非常に悪く、すぐに破れてしまうという事態に陥った。
コルセットは筒状のもの、この固定観念が頭にこびりついていた為、大きな壁にぶつかることになったのだが、
「やっぱりコルセットもドゥパッターのように巻いたら良いのではないですか?」
というしつこいほどのカロリーネの言葉と、積み上がる下手くそなデザイン画の解読を進めた結果、
「帯状のコルセットを作ってみたら良いのね!」
ペトルは目の前の壁を乗り越えることが出来たのだ。
「今までのコルセットでは息が詰まるような思いをしていましたが、新しいコルセットは腰を固定しながらも、とっても楽なのが気に入りました」
コルセットを試着中のカテリーナが言うと、
「自分で装着出来るところが素晴らしいと思います。私は今までコルセットをつける時には妻の手を借りていたのですが、引き絞る力加減などが難しく、妻には苦労をかけていたのです。ですがこのコルセットなら自分で調整してつけられますから、幾ら払ってでも欲しいと私などは思ってしまいます」
と、専属執事のビアッジョがホクホク顔で言い出した。
帯状のコルセットは左から3分の2が綿生地で出来ており、残り3分の1がドゥパッターの生地で出来ている。背中にまわる綿生地の部分に鯨の髭を利用して体の支えとして、伸縮部分のドゥパッターを引っ張りながら鍵フックで固定する。
この鍵フックは特注して作ってもらったものなので、一度引っ掛けてしまえばガッチリと腰回りは固定されることになる。試行錯誤を繰り返して試作品が完成することになったのだが、細かい調整はペトルが用意した針子たちがしていくことになるだろう。
「鍵フックは金持ち用、そこそこの金持ち用、平民用と種類を分けて作っていくつもりなの。最近は平民にまでコルセットが広まっているのだけれど、この帯式のものを広めるようにしていきたいと思うわ!」
実際問題、コルセットは広まり過ぎているし、健康被害も深刻なものとなっている。広まるなら広まるで、健康にも特化したものを浸透させたいとペトルは考えている。
「それと、一度、芸術の都ポアティエまで行かなくちゃならないわね」
帯状コルセットの要が鍵ホックなのは間違いない。鍵ホックを利用しているからこそ、締め付けの調整もし易くなったといえるのだが、モラヴィアに鍵ホック職人は居ないので、ポアティエからスカウトをしてくる必要があるだろう。
「カロリーネ、あなた、一度私と一緒にポアティエまで行って勉強してみない?」
そうペトルから声をかけられたカロリーネは、思わずポカンと口を開いてしまった。
ポアティエは内陸に位置する芸術の都と言われる場所であり、多くの芸術家が集まることでも有名だ。多くの画家を支援するパトロンが多いことでも有名だが、服飾デザイナーへの支援も行われる。だからこそ、才能ある者はまずはポアティエを目指すのだが・・
「私がポアティエにですか?」
それは貴族令嬢だったカロリーネが想像したこともない、非常に魅力的なお誘いの言葉だったのだ。
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