第二十七話 宰相の娘ダーナ ②
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ダーナはたっぷりとしたお肉に包まれた体をしているのだが、太っていることが理由で蔑みの眼差しを送られたとしても、心を折られるということにはまず陥らない。
皆から驚くほど太っているとは言われているが、容姿だけが優れていて頭が空っぽのマグダレーナよりも遥かに豊かな胸を持っているし、肌だって取り巻き令嬢の誰よりもすべすべしている。追加でモチモチとしているかもしれないが・・
「不敬とはどうしたことだ?」
官吏の集団がこちらに向かって来たかと思いきや、その後ろから現れたのはダーナの父親となる宰相ウラジミール・シュバンクマイエルだった。
まさか宰相が現れるとは思いもしなかったようで、マグダレーナは一瞬怯んだものの、それでも涙目となって果敢に訴えたのだった。
「宰相様・・貴方様の娘であるダーナ様が・・王家に対して、非常に問題ある発言をされたので」
「お父様!麻薬患者がここにおりますわ!家宅捜索を行った方が宜しいですわよ!」
マグダレーナの言葉を途中で遮りながら、ダーナはお腹の肉をぶるんぶるんと揺りながら言い出した。
「隣国クラルヴァインでは、財政が急に良くなった貴族たちを詳細に調べてみたところ、麻薬の売買で儲けていたそうですわ!まさにここに居るドミニカ様や!ユスティーナ様のご実家のように!」
突如名指しされた二人の令嬢が顔を真っ青にしているため、宰相ウラジミールは大きなため息を吐き出した。
「ごく少量であっても依存度が高い麻薬オピの汚染がスーリフ西方に広がっているのは大きな問題であるし、隣国クラルヴァインの騒動を鑑みて、我が国でも貴族間で広がる麻薬の調査を行う予定でいる。この麻薬を利用すると幾ら金を積んでも購入したいという欲求に駆られることになるし、女性に至っては流産を繰り返すことになり不妊となる場合がほとんど。この麻薬を利用していたと証明された貴族は、まず、貴族としての道を断たれたようなものとなるのだから、簡単にそのようなことを言うべきではない」
「ですがお父様」
「そのような話はもう結構」
宰相の言葉を聞いたダーナに名指しをされた二人の令嬢の顔は、真っ青を通り越して真っ白となっているし、その他の令嬢たちも不安そうに目を揺らし続けている。
オピという麻薬が非常に厄介なのは、極々少量の摂取で後戻り出来ないほどの依存性を発揮するところだ。クラルヴァイン王国の学園では女子生徒の一人がオピ入りの飴玉を利用して中毒患者の生徒を意のままに操るようなことも行ったし、最近断罪された貴婦人も、オピを利用した麻薬の売買でかなりの金を手に入れている。
「宰相様!私たちは麻薬など見たこともありませんわ!」
取り巻きたちは真っ青な顔をしているというのに、我関せず状態のマグダレーナが声をあげる。
「そんな私たちが何故!ダーナ様から侮辱を受けなければならないのでしょうか!」
宰相ウラジミールは非常に神経質そうな男であるし、可愛らしい令嬢に声をかけられたからと言って忖度するような男では決してない。まるでゴミでも見るような眼差しで涙を目に溜めるマグダレーナを見つめると、マグダレーナは即座に、
「ブジュチスラフ殿下に今回の件については訴えさせて頂きます!」
と、言い出した。ブジュチルラフはモラヴィア侯国の第一王子であり、侯王の後継者と呼ばれる人である。
「ダーナ」
「・・・」
「ダーナ」
「なんですか?」
取り巻きを連れて回廊を去っていくマグダレーナ・オルシャンスカの後ろ姿を見送っていたウラジミールは、目を細めながらふくふくと太った自分の娘を見下ろした。
「マグダレーナ嬢はこれから第一王子の元へ行き、お前を不敬罪に問おうと考えているのだろうが・・」
「私が不敬罪?オホホホホッ!なんて馬鹿馬鹿しい話かしら!」
ダーナは扇をバッサバッサと仰いで自分の首筋へ風を送りながら言い出した。
「最近、マグダレーナ様がブジュチスラフ殿下の元を足繁く訪れているということは知っておりますし、その情報はファナ妃の周辺にも流しておりますのよ!」
モラヴィア侯国の第一王子は亡国の姫君であるファナ妃を娶っているのだが、自分に仕える侍女たちにも求められれば手を出しているような男だった。そんな求められれば手をだす男であるブジュチスラフ第一王子に、マグダレーナが近付こうとしているのは間違いない事実。
「妃の座を奪われては大変だとして、ファナ妃がマグダレーナ嬢を排除しようと躍起になっているみたいですわ!」
「だが、お前の発言そのものが大きな問題になるかもしれないと思うのだが?」
「私の発言がですか?」
なにしろ王家は麻薬を野放しにしているトンマ野郎だと公言しているようなものなのだ。幾ら父親が宰相だとしても、大きな問題となるだろう。
わざとらしくポカーンとした表情を浮かべたダーナは、ふっくらとした頬を紅潮させて、
「私は極当たり前のことしか言ってはおりませんわよ〜!」
と、あざとく自分の口元を指で押しながら、ぶりぶり腰を振って言い出した。
実際に、麻薬の取り締まりは途中までは上手くいっていたのだ。途中まではだが。パヴェル第二王子が亡くなって以降は、暗黙の了解で野放し状態になっているとも言えるだろう。
だからこそ、マグダレーナの取り巻き令嬢のうちの何人かは、痩身目的でオピを利用しているし、それを家族自体が推奨している。家族も認めているから大丈夫だと思っていたところ、宰相の口から麻薬を使用した貴族の末路について匂わされたため、今頃は激しく動揺をしていることだろう。
数年前に、駄物と言われる安物の麻薬が貧民街に広がり、侯国内の犯罪件数が著しく上昇するような事態となったのだが、これが隣国のクライスナー伯爵が流し込んだものであることが後に判明。
クラルヴァイン王国は詫びとして、モラヴィア侯国が火龍砲を購入出来るように、鳳陽との交渉を進めることを約束した。その麻薬が今度は海賊経由で自国へと流れ込んでいるような状態なのだ。
実際に、貴族の間への広がり具合は著しいものであり、
「なんだかんだ言って、マグダレーナ様はブジュチルラフ殿下へ私に対する抗議を成功させることでしょう。そうしましたら話の流れを作り出して、王家が麻薬の存在を容認しているかどうかの責を問うことも出来るでしょう?」
ダーナはさくらんぼのような唇で弧を描きながらウフフフフッと笑い出す。
ダーナは種を蒔いている、幼馴染が不在の間に、あらゆる種を撒き続けているのだが・・
「それで?お父様、ドラホスラフ殿下はいい加減、王宮に戻って来たのかしら?」
と、宰相である父に問わずにはいられない。
「いいや」
ウラジミールは首を横に振ると、
「船に乗って移動をしたという情報は手に入れている」
と、言い出した。
「それじゃあ海賊退治に?」
「海賊退治と見せかけて、どうやらホムトフ領へと向かったようだ」
「ホムトフ領ですか」
ホムトフ領には侯王ヴァーツラフの弟が居る。
侯王はこの弟と非常に仲が悪いということは有名な話だ。
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