第二十四話 コルセットとパンジャビ
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女伯爵であるカテリーナ・バーロヴァは、邸宅で働く針子たちの作業部屋の隣にペトルとカロリーネの為の仕事部屋を用意してくれた。上流階級の貴族の家には専属で針子を抱えており、ドレスの補修、修繕などは専属で雇っている針子に任せることが非常に多い。社交から退いたといえどもバローヴァ邸でも専属の針子を雇っており、女伯爵はその針子たちを使用して良いという許可まで出してくれたのだった。
メゾンを幾つも所有しているペトル自身も優秀な針子を何人も抱えてはいるのだが、とりあえず新しいコルセットを作るとして、どういった物にするのか、ある程度形が出来たところで呼んだ方が良いだろうということになったのだ。
ということで、一階の裏庭に面した一室にカロリーネとバローヴァ邸に働く二人の針子、それに複数のメゾンのオーナーであるペトルが集まったのではあるが・・
「ペトルさん!嫌がらずに付けてください!」
「そうですよ!ペトルさん!」
「恥ずかしがっている場合じゃ無いですわよ!」
と言って、ペトルは三人のレディたちから追いかけられることになったのだ。
今、ペトルの前に差し出されたのは男性用のコルセットであり、商業都市として有名なカルカッソで売られているものでもある。
「ええ〜!なんで私がコルセットをしなければならないのよ〜!」
「製作者であるペトルさんにはまずはご自分で付けて頂かなければ話が進まないと思うからです!」
「いやーん!付けるにしてもなんで皆の前で付けなくちゃならないわけ〜!」
「何故ならコルセットは一人では付けられないものだからです!」
スーリフ西方に位置するクラルヴァインやモラヴィアでは男性がコルセットを使用することはないが、内陸に位置する商業都市カルカッソや芸術の都ポアティエ周辺ではコルセットを利用する男性は『洒落者』として扱われるのだ。
女伯爵であるカテリーナの専属執事はカルカッソ出身であり、彼は男性用コルセットを愛用していた。彼の場合は腰痛防止のために利用していたのだが、大柄な執事のコルセットはギリギリペトルでも利用出来るサイズではあったのだが・・
「いやよ!サイズが小さすぎるって!ギリギリ入ったから大丈夫?そんなことないってば!いやーー!ギャーーーーッ!苦しい!苦しい!内臓が飛び出ちゃう!死ぬ!死ぬー!」
女伯爵の家に勤める二人の針子、年嵩のベルタと年若いダリナが容赦無くペトルの腰を締め上げていくため、仕事部屋に絶叫が響き渡ったのだ。
この世界には男性用のコルセットが存在する。
今、ペトルが着用しているのも男性用コルセットということになるのだが、肋骨の下からウェストまでを絞り上げる形となっている。肌着の上に着用したコルセットにウェストを締め上げられたペトルは、
「グアアアアアアアアッ」
絶叫を上げたものの、二人の針子はやり切った感じで最後のリボンを可愛らしく結びあげた。
流石に海軍で将軍をやっていただけあって、逞しい体つきをしたペトルはスタイルの良い男だったのだが、コルセットのあまりの苦しさに紫水晶の瞳が涙で曇り始めている。
「あらやだ、開けてはいけない扉を開いてしまいそうだわ」
年嵩のベルタが黒縁の眼鏡を指で押し上げながら呟くと、
「私はすでに開いちゃったかもしれません〜!」
と、十六歳になったばかりのダリナがそばかすが散った顔を赤らめながら言い出した。
「ペトルさんって今までコルセットを着用したことありませんでした?」
カロリーネの質問に、顔色がすでに悪くなっているペトルが憤慨したように言い出した。
「一応私、コルセットで大儲けをした男なのよ?もちろん、コルセットは付けたことがあるし、この苦しさを少しでも解消するためにうちのブランドを立ち上げたのよ?だというのに、なんでまたこの昔ながらのコルセットの苦しさ再体験しなくちゃいけないのよ!」
「ペトルさんが誤解しているようだから一応言っておくのですが、ペトルさんのブランドのコルセットだって、鉄線入りのものに比べたら遥かに楽にはなりましたが、やっぱり苦しさは残るものだと思いますの」
片手を頬に当てたカロリーネはホッとため息を吐き出すと、
「それではこの苦しさを覚えておいてもらって、次に皆様には私が用意したものに着替えて頂きます。衝立を用意したので、ペトルさんはあちらの方で、私たちはこちらの方でお着替えをします」
と言って、針子の二人にペトルのコルセットを外すように指示すると、用意しておいた衣装をそれぞれに渡して着替えをすることにしたのだった。
ドレスを作成することも出来る広さを確保した仕事部屋はそれなりの広さがあった為、ペトルとカロリーネと針子の二人はすぐさま着替えを済ませると、全員、新しい衣装で集合することになったのだが・・
「こ・・これは・・」
「なんですか?このお衣装は?」
「柄とかとっても可愛いんだけど・・・」
二人の針子とペトルは顔と顔を見合わせると、
「「「とにもかくにも、とっても楽だわ!」」」
と、言い出したのだった。
全員が着用しているのはカミーズという上衣とサルワールという名のゆったりとしたズボン、女性たちはこの中にドゥパッターという布で胸を覆って膨らみを隠している。
「私がクラルヴァイン王国で一緒に働いていた針子たちはシンハラ島から来た人たちが多くて、その中の一人がこのパンジャビドレスを売るお店を開いていたのです。この衣装は大陸中央の人々が着ているものとなるのだけれど、とっても、とっても、楽でしょう?」
「ええ本当に!とっても!とっても楽です!」
「ズボンというともっと忌避感があるかと思いましたけれど、男性用のズボンと違ってゆとりがありますし、足元まで隠れている安心感があって良いですね」
針子の二人が感想を言うと、
「私はみんなと同じようにお胸は隠さないでも良いのかしら?」
と、一人だけドゥパッターを着用していないペトルが恥じらいながら言い出した。
「ドゥパッターは胸の膨らみを隠すものなのでペトルさんは必要ありませんよ!」
カロリーネの言葉に反抗するように、
「一応!ふくらんでいるわよ!胸筋が!」
と、ペトルが言うと、
「きもっ!」
「いらない主張ありがとうございます!」
と、二人の針子から辛辣な言葉が返ってきたのだった。
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