第二十二話 失恋待ったなし
お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。
船の出航は一旦保留状態となり、港湾局の建物へと移動をすることになったハイデマリーは、モラヴィアの王子が目の前に居るというのに忖度することなく椅子にへたり込むようにして座り込んだ。
港湾を出入りする船の監視や荷下ろしされた荷物のチェック、港湾の使用料、関税の支払いなども行われる場所となるため、建物自体は広い作りとなっている。要人を招くことも多いため、高価な家具を取り揃えた応接室や会議室もあるのだが、裏口から案内された部屋は簡素な設えが施されただけの休憩所のような場所だった。
早朝であるため、建物の中はシンと静まり返っているように見えるものの、廊下を行き来する人の数は多いようにも見える。
ハイデマリーの後ろに控えるようにして彼女の従兄であるイーライが立つ、喋るのはハイデマリーに丸投げしたに違いない。
「随分急いでここまでやって来たみたいだね」
ドラホスラフの側近であるインジフ・ソーチェフが冷たい水を差し出すと、ハイデマリーは一気にコップの中の水を飲み干した。
「我が家が襲撃を受けたという報告は行っていますよね?」
「南大陸にある小国ナイバシャの傭兵団だったらしいですね」
「伯母上はカロリーネを保護しているのだろう?」
ハイデマリーの家からカロリーネは移動させたのだから安全だろう、そう言いたい様子のドラホスラフ王子を見上げたハイデマリーは大きなため息を吐き出すと、
「これは・・もう無理そうじゃない?」
と、後ろに立つイーライを振り返りながら言い出した。
「何が無理だと言うんだ?」
怪訝な表情を浮かべるドラホスラフを見上げると、ハイデマリーはもう一度、大きなため息を吐き出した。
影が薄い王子として有名だったモラヴィアの第三王子は、クラルヴァイン王国に留学中も顔が隠れるほど前髪を伸ばしたもじゃもじゃ髪の男で、学生の間は婚約者となるカロリーネの隣に常に立っているような男だった。
そのもじゃもじゃ髪の男が髪の毛を短く切り、前髪を後ろに撫で付けて額を露わにすることにしたのは、帰国後、軍部を任されることになったからだ。影が薄いことで有名な第三王子が軍部を任されることになった理由は、第一王子であるブジュチスラフ王子だけで国政を回すのは難しいと判断をされたから。
今まで軍部を任されていたパヴェル王子が国政に関わることになるため、軍部は三男であるドラホスラフへ。荒くれどもをまとめ上げるには自分の顔を隠している場合ではないと判断したのだが、意外なほどにドラホスラフの顔は国王に、というよりも建国の王ヴォイチェスラフに似ていることが明らかとなる。
帰国後、第二王子パヴェルが突然の事故で亡くなってしまったということもあり、ドラホスラフに脚光が当たることになったのだが、そんなことを全く気にしていない王子は、女性の気持ちに対しても非常に無頓着なところがある。
「なかなか会いに行けないのは申し訳ないと思ってはいるが、海賊の根城を発見したところでもあるし、そこを叩けば私にも時間が出来る。そうすれば、長い時間をかけてカロリーネに・・」
「こりゃ失恋待ったなしー!失恋待ったなし状態でーす!」
ハイデマリーは天を仰ぎながら言い出した。
「侯爵家の令嬢がうちみたいな平民の家に二ヶ月以上世話になっている時点で完全に捨てられた案件になっちゃっているんですよ!捨てられていないにしても、扱い的には最低ラインを突破状態?愛人候補にしても扱いが酷いです!」
「我が王家の状況を鑑みて、彼女が一番安全でいられる環境を考えてだな」
「その安全な環境が、ナイバシャの傭兵団によって襲撃されていますけど?」
「お前らと私が用意した守護兵団で制圧をしたと聞いている」
「はー、こりゃダメだ」
ハイデマリーはつくづくうんざりした様子でドラホスラフの顔を仰ぎ見る。猛禽類を思わせるような鋭い瞳に、黒にも近い焦茶の髪、鼻が高く、男らしい覇気をも纏うその姿を見ながら、
「良い男って何故だか自分に自信があるんですよね!自分に惚れた女はいつまでも自分のことが好きだろう、愛しているだろう、それは何があっても普遍とか馬鹿みたいなことを考えがちなんだけど、そんなことないから!」
そう言ってグッタリと椅子の背にもたれかかる。
「正妻にするために連れて来たはずなのに、王宮にも連れて行かずに二ヶ月放置。その間、手紙やらプレゼントは送って来ても会いにさえ来ない。カロリーネ様は言っていましたよ。自分は王子様と結婚するという梯子をあなたから渡されて、その梯子を確かに登っていたはずなんだけど、途中で梯子を外されたって」
「それは殿下にもそれなりの事情が〜」
「その事情を説明もしないで、分かってもらえるはずとか?んなわけないじゃん!」
ハイデマリーは疲れていた、夜通し移動を続けて疲れ果てていた為、不敬とかそんなことはどうでも良くなっていた。
「王家所有の別荘で囲うならまだしも、私の家で保護じゃ一気に平民と同等の扱いですもん。カロリーネ様はね、クラルヴァインでは立派な侯爵令嬢だったんだけど、隣国に移動したら自分は平民扱いなのねって言ってました!確かに平民扱いですしね!」
本来であれば複数の侍女たちに傅かれながら生活を送るべき人であるのに、二ヶ月もハイデマリーの家で我慢出来たこと自体が凄いのだ。
「あまりに心配になったのか、カサンドラ様まで隣国から様子を見に来たんですけど、王太子妃様はカンカンにお怒りですよ。カロリーネ様は王太子妃様の右腕とも言われる存在なのですけれど、そのカロリーネ様をこのような扱いで放置するということはクラルヴァイン王国自体を愚弄する行為だって言っていました」
そこでハイデマリーは喉を何回か鳴らして声を整えると、背筋を伸ばしながらカサンドラの声真似をしながら言い出した。
「ハイデマリー、お前からモラヴィアの第三王子に伝えなさい。私の夫から伝えずにお前を使って伝えるのは私なりの慈悲よ。このままの状態なら、カロリーネは王子にはやらない。アークレイリにやってしまおうかと考えている。かの地は最近銀山を発見し、膨大な採掘量も見込めるという話も聞いている。貴国などと手を組まずとも、我らには我らの選択があるとね」
ハイデマリーはじっとりとした眼差しでドラホスラフを見つめると、
「私が働いているメゾンのオーナーであるペトルさんは、見かけは大男、前職アークレイリ海軍の将軍、言葉遣いはお姉様ですけど、彼の方、上の姉妹の影響で言葉がアレなだけで、男性が好きという人じゃないんですからね!」
と言うなり椅子から立ち上がる。
「私は確かにカサンドラ様からの伝言をお伝えしました。恐らく、クラルヴァイン王国としては、隣国モラヴィアが南大陸の支配下になるくらいだったら、アークレイリの統治下になっても良いとすら考えているのかもしれませんね!」
吐き捨てるようにそう言うと、飛び出すようにして部屋から出て行ってしまった。対面のドラホスラフが恐ろしい形相となっていた為、言い逃げする道を彼女は選んだのだろう。
6/10(月)カドコミ様よりコミカライズ『悪役令嬢はやる気がない』が発売されます!!書き下ろし小説(鳳陽編)も入っておりますので、ご興味ある方はお手に取って頂けたら幸いです!!鳳陽ってどんな国?なんてことが分かる作品となっております!よろしくお願いします!!
宣伝の意味も含めて『モラヴィア侯国編」の連載を開始いております!最後までお付き合い頂ければ嬉しいです!
モチベーションの維持にも繋がります。
もし宜しければ
☆☆☆☆☆ いいね 感想 ブックマーク登録
よろしくお願いします!





