第十一話 私の王子様
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カロリーネが友人たちの結婚ラッシュが続くことで、やさぐれ果てていた時は、現実逃避をするために仕事に逃げていたところがある。
周りは王子様とか王子様のような容姿の男と結婚しているというのに、本物の王子様との結婚が頓挫したカロリーネとしては、新しい相手を見つけようという気力がちっとも湧いてくることがない。
誰もが白馬に乗った王子様に、いつの日か迎えに来て欲しいと夢見がちに思うだろう。周りが結婚ラッシュ、この置いてきぼりを食った状況を何とかしたいと思うあまりに、
「ああ〜、私にも王子様が迎えに来てくれないかしら〜」
くらいのことを呟いてしまうのは仕方がない。
自分で見つけに行く気力がないのだから、誰かに見つけて欲しい。切実にそう願うカロリーネは完全に他力本願状態となっていた。なにしろカロリーネは本物の王子様と結婚する予定だったのだ。予定というのは未定みたいなものかもしれないけれど・・
クラルヴァインの王太子妃であるカサンドラの産後の回復を待って行われた結婚の儀に友人として参加して、カロリーネは自分の結婚については半分以上諦めた。ほとんど自暴自棄のような状態で参加した披露宴パーティーで、カロリーネの王子様は迎えに来たのだが、侯都に戻って以降はハイデマリーの家にカロリーネを放置状態。
放置され続けることになったカロリーネは再び仕事に逃げるようになったのだが、突然、南大陸から来たと思われる良く分からない男たちの襲撃を受けることになったのだ。
カロリーネは気が付いたのだ。
ドラホスラフ王子に放置される→現実逃避で仕事に逃げる→仕事が順調に進む→良く分からない男たちの襲撃を受ける→ドラホスラフが現れる→放置される→仕事に逃げる→仕事が順調に進む→襲撃を受ける→これをループのように延々と繰り返していくのなら、ドラホスラフについては、追いかけるのも待つのも、もうやめた方が良いのではないのかと。とりあえず、今回助けてくれたのはハイデマリーの家族ということになるのだが・・
「サンドラ様!今はそれ!ダメです!」
ハイデマリーの必死の声に、カロリーネは我に返った。
「え?何が駄目なのかしら?」
「ドラホスラフ様の名前を今言っちゃ駄目です!」
「え?なんで?」
カロリーネは大きなため息を吐き出した。
「カサンドラ様、クラルヴァインの王宮が嫌なのなら、一緒に北辺の国アークレイリに行きませんか?」
「アークレイリですって?」
「アークレイリには銀髪のイケメンがゾロゾロ居るのだそうです。北の国には男神や女神のように麗しい容姿の方々が多いのだそうで、クラルヴァイン式美丈夫とは違う美しさだというんです」
カロリーネは再び大きなため息を吐き出しながら言い出した。
「私、今まで南国で作られる生地にばかり目を向けていましたけれど、今度は北に目を向けてみても良いかと思いますの。寒い国の人々に好まれるドレス、軽くて暖かいを追求したらとっても売れると思うのです」
「カロリーネ?」
「新規店舗を開拓するのに、きっとカテリーナ様も協力してくださいますわ。だから私・・そうだ、アークレイリに行こう」
「カロリーネ?大丈夫?カロリーネ?」
「ほら!ドラホスラフ様のお名前を出しちゃったから、カロリーネ様がアークレイリに行きたくなってしまったではないですか!」
「まあ!なんということかしら!」
遂に堪りかねた様子で涙をポロポロとこぼし始めたカロリーネを見て、カサンドラは引き寄せるようにして抱きしめた。幼い時から仲が良かったカロリーネは、カサンドラにとって右腕と言っても良いような存在なのだ。
学園時代から二人が恋を育んでいたのを知っていたし、遂にドラホスラフがカロリーネを迎えに来たとあって、カサンドラはきっとうまくいくことだろうと安心していたところがある。
結婚の日取りも決まったということで、カロリーネは幸せいっぱいだと思っていたのだが、どうやらそういうことではないらしい。
◇◇◇
クラルヴァイン王国の王太子であるアルノルトは、交渉を進めるための資料を読み直していたのだが、真っ赤な顔で憤慨した様子で戻って来た自分の妻の顔を見て、
「やはり侍女服でお出迎えでは、カロリーネも喜ぶことはなかっただろう?」
と、言い出した。
クラルヴァイン王国は植民地から採掘される金を遥か東に位置する鳳陽国に売ることで、優先的に鳳陽で開発される龍火砲(遠距離まで届く大砲、着弾の誤差が少ないことで有名)を輸入することが出来ている。
海からの海賊の被害が多いのは海洋に面した国々の悩みどころでもあり、隣国モラヴィアも海賊撃退のため、国防を強くするためにも龍火砲を手に入れたいと考え、クラルヴァイン王国に相談をしているような状態だった。
クラルヴァイン王国としては自国の侯爵令嬢(王太子妃の親友)がドラホスラフ第三王子に嫁ぐ予定となっているし、国と国の結びつきを強化したいと考えていた為、クラルヴァインは鳳陽との交渉を行った。
鳳陽国が精度の高い大砲をクラルヴァインに輸出しているのは、一重に皇帝や皇后が次の王となるアルノルトやカサンドラを気に入ったから。すでに広大な植民地を所有しているクラルヴァイン王国が、欲を出して周辺諸国を制圧しようなどとは考えていないことが周知されているし、龍火砲を海賊退治にしか使われていないということも明らかとなっている。
クラルヴァイン王国が龍火砲を持っているのは問題ない。だけど、他国がそれを持つとなると、周辺諸国も欲しくなるのは間違いない。問題は龍火砲の精度が高すぎるところにあるだろう。欲を持つ国が所有し、似たようなものを開発し、自国の領土拡大のために使い出しては戦争が勃発することになる。
経済が安定しているクラルヴァインとしては『龍火砲』が引き金となって戦争が始まるような事態だけは阻止したい。だからこそ、事前に話し合うために王太子自らがモラヴィア侯国まで来たのだし、秘密裏に交渉を進めたいがために、王宮ではなく侯王の姉の持つ邸宅に滞在をしているのだ。
交渉ごとも王宮内では行わないほどの徹底ぶりで、モラヴィア侯国に『龍火砲』を売るにはどうしたら良いのかを模索しているところでもある。
交渉が長引きそうだった為、カサンドラと息子のフロリアンも連れて来たのだが、こちらから会いに行く前に、カロリーネの方からやって来た。悪戯好きな妻は、お仕着せ姿で待ち構えてカロリーネを驚かせようとしていたようなのだが、どうやら彼女の顔色から察するに、失敗することになったのだろう。
「アルノルト様!カロリーネ様とドラホスラフ様は結婚しないかもしれません!」
「うん?」
「カロリーネは焦茶のもじゃもじゃ髪王子よりも、北辺の銀髪イケメンの方が良いと言い出しています!」
「ううん?」
「これからアークレイリに行って、新しい王子様を見つけてしまうかもしれませんわ!」
「それだと困るのだが・・」
クラルヴァイン王国が仲介をしてモラヴィア侯国に龍火砲を売るのは、王太子妃の右腕とも言われる侯爵令嬢が王家に嫁ぐことになるからだ。いわゆる契約による婚姻政策のようなものであり、その話があるからこそ、隣国に精度の高い大砲を置くことを許容した。大前提にある結婚がなくなると、非常に困ることになるのは間違いない。
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