第九話 再会
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世の中には結婚は二十五歳を過ぎてからという国もあるらしいのだが、そういった国は大概が長命で、二十五歳から子供を産んでも人生に余裕があるから、そのような年齢でも大丈夫なのだと、カロリーネはカサンドラから聞いたことがある。
同じ侯爵令嬢ということもあって、物心ついた時からの友人であるカサンドラ。彼女は自分のことを鳳陽から渡ってきた恋愛小説の中の登場人物に当てはめて、
「絶対に悪役令嬢よ!このキンキラ過ぎる髪の毛に、吊り上がった目、威圧感のある容姿に名前なんてカサンドラ!響きがいかにもな感じで強すぎるもの!私は悪役令嬢!間違いなく悪役令嬢よ!」
と、言い出すような人だった。
「学園を卒業するまでには、絶対に殿下は明るく朗らかな、身分も地位も低い令嬢と恋に落ちて『これこそが真実の愛〜』なんてことを宣いながら、私に婚約破棄を突きつけてくるのよ。だから今の私は王子の腰掛け婚約者、いずれは捨てられることになる名ばかり婚約者ということになるの!」
常日頃からカサンドラはそんなことを言ってはいたけれど、彼女は結局、アルノルト王子に捕まって結婚した。友人のコンスタンツェも自ら愛する人を迎えに行って結婚した。クラルヴァイン王国は平均寿命がそれほど長いわけじゃないので、淑女は二十二歳になるまでに結婚する。二十歳を過ぎたあたりから、行き遅れ扱いを受けることになるので、カロリーネはすでに行き遅れの枠の中に入っている。
本来なら、学園を卒業した後にモラヴィア侯国に渡って結婚の準備をする予定だったのだ。その為の準備もしていたというのに突然もたらされた訃報。パヴェル第二王子が落馬事故で亡くなったという一報を受けたあと、カロリーネの結婚は宙に浮く形となってしまったのだ。
確かにドラホスラフはカロリーネを迎えに来てくれた。
だけど、モラヴィア侯国に入るまでは移動、移動でまともに話す時間すらなく、ドラホスラフにとっては伯母となる、カテリーナ・バーロヴァ伯爵に挨拶をした後はハイデマリーの家に放置。放置された2ヶ月の間に何度か手紙やアクセサリーなどの贈り物はあったものの、放置は放置、挙句の果てには刺客の急襲を受けたのだ。
「私、北方に移動したら北方に合ったドレスの開発をしてみたら良いのではないかと思うの」
「カロリーネ様」
「重ねて着ても重くはならず、温かい生地の開発をしたらどうかしら?」
「カロリーネ様」
「今まで南方の布ばかりを仕入れていたけれど、スーリフ中央の方にも足を伸ばしてカスタニア山脈周辺の諸国を回っても面白いかも」
「カロリーネ様」
「北辺の国アークレイリにウケルドレスをちょっと考えてみたのだけれど、色々とアイデアは浮かんで来ているのよね」
やっぱりどう考えても、テーブルの上に並べたお孫さんたちの絵姿には興味がない。興味はないのだけれど、アークレイリに新しいブランドの店を定着させるには、先王の弟の孫たちの伝手とコネは使えるかもしれない。
南に位置するクラルヴァインでは、気候的に、暑い国の布が評判を呼ぶことが多かった。だとするのなら、北の国に住む人々に対して、遠く離れた高地に住む人々が作り出す厚手の布などが高い評価を得ることになるかもしれない。
大航海時代を経て、現在、何処の国でも貿易に力を入れているのだ。海外製品が入り込んでくる関係で、異国のものに対する忌避感なんてものの敷居も下がっている。鎖国のような状態の北辺の国に異国の文化をもたらすのは難しいことのようにも思うけれど、それが女性向けのファッションであるのなら、新しい流行として取り入れてくれる余地はあるはずなのだ。
「それに・・アークレイリにはメイプルシロップのお酒もあるのですって、是非とも飲んでみたいわよね」
北辺の国アークレイリはクラルヴァイン王国から遠すぎると思ってはいたけれど、これが商売のチャンスだと考えれば、距離云々について言い出している場合ではないことをカロリーネは知っている。北の国に南の風を取り入れる、お金の匂いがぷんぷんとしてくるのは間違いない。カロリーネの頭の中は、すっかり北辺の国に飛んでいたのだが・・
今日からカロリーネが利用する客間の前まで来ると、案内してくれた侍女がかしこまった様子で言い出した。
「カロリーネ様、我が主人はいつしかカロリーネ様のお世話をすることもあるだろうと考え、カロリーネ様の生家となるエンゲルベルト侯爵家様へお声を掛けておいでだったのです。すると、かの侯爵家からは、カロリーネ様の面倒がみられるようにと幾人かの侍女をお寄越しになったのです。異国で疲れたカロリーネ様には、慣れた人間が世話をした方が心安らかになるだろうとの御配慮のようでございます。そのお付きの者たちが到着したのが二日前のこと。今、お嬢様の部屋でお待ちなっております」
「えーっと・・」
「我が主人がエンゲルベルト侯爵家様へ連絡をして・・」
もう一度、同じ内容を言い出そうとする侍女を止めながら、カロリーネは声を上げた。
「お話は十分に理解出来ております。私の父が、私の身近の者が居た方が心やすらかで居られるからと言って人を送って来たのですよね?」
「そうでございます」
カテリーナ・バーロヴァ様は侯王ヴァーツラフの年の離れた姉であり、侯王はカテリーナに育てられたと言っても過言ではないほど仲の良い姉弟であるということは、周辺諸国にも知られたことだ。
そのカテリーナ様のところへ娘がご厄介になるかもしれないということで、わざわざ人を送るというのはお前のところの使用人など全く信用ならないと言っているのも同じこと。カテリーナ様に対する無礼になるのは間違いない。
「えーっと・・何故・・私の父が使用人をわざわざここへ」
「それはお嬢様のお心をお慰めするためかと」
「うーん」
不敬ですわよお父様。あなたは貴族派筆頭とは名ばかりの、最近になってようやっと財政が持ち直して来たという程度の侯爵で、侯王のお姉様相手に大きく出ても良いような人では決してないのです。
「怖いわ・・早くクラルヴァインに帰るか、アークレイリ王国に移動してしまいたい」
「アークレイリ王国に移動されるのなら、カテリーナ様も大変お喜びになると思います」
「駄目ですよ、カロリーネ様!」
侍女が扉を開けると、エンゲルベルト侯爵家の侍女のお仕着せを着た六人が一斉に頭を下げて出迎える。カロリーネ相手に六人も人を送り込んで来た侯爵である父の意図が全く理解できていなかったのだが、
「なっ!」
「えええっ!」
頭を下げる侍女のうちの一人を見て、カロリーネとハイデマリーは驚きの声を上げたのだった。
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宣伝の意味も含めて『モラヴィア侯国編」の連載を開始いております!最後までお付き合い頂ければ嬉しいです!
モチベーションの維持にも繋がります。
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