第七話 変わった従兄妹
お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。
ハイデマリーとイーライの二人は従兄妹同士で、幼い時から共に育った仲なのだという。ハイデマリーの母の実家が狩人をやっていたその関係で、二人は獣を相手にして戦うことを幼い時から仕込まれていたらしい。
そのうちに、獣だけでなく人間なども相手にするようになり、
「辺境で戦争ということになれば、うちみたいな家にも領主様からお声が掛かるので、山に潜り込んだ盗賊なんかを相手にして腕を鍛えるようにしていたんです〜」
と、ハイデマリーが襲撃者の首を絞め落とした後に、ナイフを振りあげた男を回転するように蹴り上げながら言い出した。
「母と私みたいな髪色だと誘拐されそうになることも多くって、そんな理由もあって物心ついた時から鍛錬みたいなものはやらされていたんです〜」
地面に着地するなり、頭を下にしてまるでコマのように回転をかけながら振り上げた足で、カロリーネに向かう男の顎を蹴り付ける。そうして勢いよく起き上がったハイデマリーは体勢を崩した男の頭に踵落としを喰らわせた。
「そ・・そうなのね・・今まで随分と一緒に居たと思ったけれど、全然知らなかったわ」
鮮やかな手並みで敵を倒していくハイデマリーを見つめながら、頭からすっぽりとフードをかぶっていたカロリーネは冷や汗をかいていた。
クラルヴァイン王国で服飾事業を成功させたカロリーネは妬まれることも多く、お金目当てや嫌がらせ目的で誘拐を企まれることも多かった。パーティーを抜け出して、クラルヴァイン王国からナルヴィク侯国へと移動をすることになった時にも、次々と襲いかかる追跡者をドラホスラフたちが倒していく姿を見ていたこともあって、普通の貴族令嬢と比べれば、荒事には慣れしているとも言えるだろう。
カロリーネは見学だけは山ほどしてきた身ではあるのだが、可愛らしいハイデマリーが次々と足技を駆使して敵を倒していく姿には仰天しないわけにはいかない。
「それにしても、やっぱりカロリーネ様を狙っているのは南の異国人のようですね」
ハイデマリーが覆面を剥ぎ取って確認しながらそう声をあげると、
「マリー、こっちの方は無事に制圧出来たぞ」
と、後から追いかけてきたイーライが、二人を安心させるように言い出したのだった。
「父さんとおばさんは無事だし、警邏隊も到着したみたいだったから、追いかけて来たよ〜」
学園の三年から編入してくることになったハイデマリーはお騒がせ女子というイメージが強かった。途中から学園に編入して来たエルハム公女の言いなり状態となっているハイデマリーの姿も知っているし、どちらかというと、カロリーネが守ってあげなければならないと思うような女子生徒だったのだが・・
「カロリーネ様?大丈夫ですか?」
「いいえ、なんでもないの」
ブルブルッと首を横に振るカロリーネを見つめたイーライは、従妹であるハイデマリーの方を見て肩をすくめながら言い出した。
「おばさんと同じでこいつも体格が小さいんで、リーチが短くなるのが難点なんですよ。遠距離では弓とか投石とか使えば良いんですけど、接近戦では足技がメインになるのは相手の意表を突くことが出来るから。実は暗器も得意だったりするんです」
そうやって自慢するように言われても、カロリーネは困ってしまう。
「小さく見えても黙ってやられることがないのが私のもっとうです!」
胸を張って言うハイデマリーを見て、
「でも、学園ではやられっぱなし状態じゃなかった?」
と、カロリーネは問いかける。
後半のハイデマリーはエルハム公女の言いなり状態だったと思うのだが、
「あれはおばさんが人質に取られていたから」
「あれはお母さんが人質に取られていたから」
と、二人は同時に言い出した。
何でもハイデマリーの母アロナは、今まで誘拐されそうになった回数は両手両足の指の数を足してもたりないほどだというのだが、本当に誘拐されてしまったのは一回だけ。アロナは誘拐犯と首謀者のことを激しく恨んでいるのは間違いない。
「流石に母が人質に取られている状態で、抵抗することなんて出来ません」
しょんぼりした様子のハイデマリーは奮起するように言い出した。
「だからこそ、母を救ってくれたカロリーネ様には深く感謝しているんです!カロリーネ様の為だったら、何人だって殺せます!」
「いいえ、殺さなくても良いのよ」
追いかけて来たイーライは手際良く失神する男たちを縄で縛り上げていくと、道端に転がしながら言い出した。
「おばさんを誘拐して行ったのは相当な手練だったのは間違いないです。気が付いたらおばさんが居なくなっていたような状況だったので、本当に、助けてくれたカロリーネ様には感謝しているんです」
イーライはそう言ってエスコートするようにカロリーネに手を差し出しながら言い出した。
「そんな訳で、カロリーネ様を狙っている輩に居所がバレてしまったので、次の移動場所までエスコートさせてください」
「まあ!次の場所?」
カロリーネはイーライに自分の手を預けながら言い出した。
「こんな危ない目にも遭っているのだし、これからクラルヴァイン王国に戻るのじゃ駄目なのかしら?」
ハイデマリーとイーライは思わずといった様子で目と目を合わせると、冷や汗をかきながら言い出した。
「「何故・・クラルヴァインに帰るのでしょうか〜?」」
「だって、私がここに居る意味って一体なんなのかしら?」
カロリーネは風に飛ばされて来た新聞の一面を指差しながら言い出した。
「ドラホスラフ様は第二王子の元婚約者と結婚となるのでしょう?日取りも決まったというのでしょう?であるのなら、私はもう帰っても良いのでは?」
巷の新聞では、ドラホスラフ第三王子と、王子に慰められる第二王子の婚約者とのラブロマンスが連日のように掲載されているのだった。
モラヴィア侯国の国民のほとんどが、ドラホスラフ王子は第二王子の婚約者と結婚するものだと思い込んでいるだろう。
「私がこの国に居る意味はないのでは?」
「いやいや!ありますよ!」
「カロリーネ様は、ペトルさんのお仕事を請け負っているじゃないですか!ここで投げ出したらペトルさん泣いちゃいますよ!」
「そのペトルさんの仕事を投げ打って逃げて来たはずなのだけれど、命の方が大事とか何とか、ハイデマリー、貴女自身がそう言っていたのよね?」
「それは言ったかもしれないですけど〜!」
ハイデマリーとイーライは互いに目線を交わすと、
「「ここでカロリーネ様に帰られたら寂しいし!まだ侯都の美味しいデザートを食べ尽くしていないじゃないですか〜!もうちょっと楽しんでから、帰るか帰らないかを考えましょうよ〜!」」
と、必死な様子で言い出した。
6/10(月)カドコミ様よりコミカライズ『悪役令嬢はやる気がない』が発売されます!!書き下ろし小説(鳳陽編)も入っておりますので、ご興味ある方はお手に取って頂けたら幸いです!!鳳陽ってどんな国?なんてことが分かる作品となっております!よろしくお願いします!!
宣伝の意味も含めて『モラヴィア侯国編」の連載を開始いております!最後までお付き合い頂ければ嬉しいです!
モチベーションの維持にも繋がります。
もし宜しければ
☆☆☆☆☆ いいね 感想 ブックマーク登録
よろしくお願いします!