第五話 ハイデマリーとその家族
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ハイデマリーの母アロナはフェヒト子爵家でメイドとして働いていたのだが、ある日、子爵家の嫡男と恋に落ち、ハイデマリーを授かることになったのだ。
平民のアロナとの結婚を子爵家では許されず、泣く泣く別れたアロナは、狩人として生計を立てている弟の家へと転がりこむ。アロナの弟ギルアドには一人息子のイーライがいて、イーライの母は産後の肥立ちが悪く、寝所から起き上がることも出来ないままに、数年前に亡くなっている。
姉のアロナに転がり込まれたギルアドは、最初は戸惑いを隠せずに居たけれど、自分一人で子供のイーライの面倒を見るのにも限界を感じていたため、姉弟で協力して子育てをしていくことになったのだった。
十五歳となったハイデマリーが街で働くようになると、可愛らしく可憐な容姿のハイデマリーは人気者となったのだ。そんなハイデマリーに声をかけてきたのが実の父親となるフェヒト子爵で、
「平民として暮らすよりも、余程に良い生活をさせてあげることが出来るし、君の家族も、一人分の食い扶持が減れば随分と助かることになるんじゃないのかね?」
と、言い出した。
母も叔父も、従兄のイーライも、ハイデマリーが子爵家に引き取られることを激しく反対したのだが、
「実の父親が貴族で!庶子として私を受け入れてくれた上に王立学園に通わせてくれるって言うのよ!しかも!同学年にアルノルト王太子殿下が在学中だし!王子の学年には有望な高位貴族の令息が沢山いると言うの!まさに鳳陽小説のような展開!私ったら知らぬ間にヒロインになっていたのだわ!」
鳳陽国の物語が翻訳された小説を何冊も抱えたハイデマリーは、うっとりとした表情で言い出した。
貴族が平民になるのは簡単だが、平民が貴族になるのは難しい。そもそも、ハイデマリーの半分の血は貴族の血だし、貴族である実の父が引き取ると言っているのだ。結局、夢見るようにうっとりとしながら子爵家に引き取られていくことになったハイデマリーは、
「私の可愛さを見込んでわざわざ子爵家で引き取っておきながら、私に対して子爵も子爵夫人も塩対応って!そんな展開!鳳陽小説で読んだことがあるわよー!」
と、自室で絶叫することになったのだった。
メイドが産んだ子爵の血を引く娘は確かに可愛かった、確かに、街で評判になるほどの可愛さだったのだ。この容姿を使えば、高位の貴族との縁を結ぶことも可能かもしれない。子爵家として家を盛り立てる為に役立てるかもしれない。そんな思惑で引き取っただけのことだから、ハイデマリーに対しての情があるわけもない。
ただ、自分はヒロイン属性だと信じ込んでいるハイデマリーは、
「彼女は最近まで平民として暮らしていたということになりますから、殿下にもサポートをして頂きたい」
と、学園長が言い出した時には、
「鳳陽小説展開キターーッ!」
と、思ったし、
「君は特待生として選ばれるほど優秀な生徒のようだね」
と、殿下から言われた時にも、
「鳳陽小説展開キターーッ!」
と、思ったのだ。
殿下にはカサンドラという、見かけは鳳陽小説に出てくる悪役令嬢にしか見えない婚約者がいるし、これはヒロインとして、虐められるターンがいずれはやって来るだろうと覚悟を決めていたのだけれど、
「・・・・・」
やる気がないカサンドラは、ハイデマリーを物語のように虐めてはくれなかったのだ。
虐めてもらえるように近くを彷徨っても無視されるだけ。王子様に目の前で飛び付いたとしても、
「あらまあ」
と、言う程度で、生温い眼差しでハイデマリーを眺めるだけ。
「悪役令嬢が全くやる気がないなんて・・こんな展開、鳳陽小説にもあったかしら?」
何冊もある恋愛小説をひっくり返して読んでは見たけれど、こんな展開は物語の中には登場しない。さあ、これからどうなってしまうのかとハイデマリーが胸をドキドキさせていると、遂に本物はやって来ることになる。
アルマ公国からの留学生、エルハム王女は非常に肉感的で、目鼻立ちが整った美女ということになるのだが、彼女は間違いなく肉食系だ。彼女と比べたらカサンドラは名前だけが勇ましいだけで、野に咲くぺんぺん草みたいなものかもしれない。
そんな肉食獣エルハムにターゲットオンされたのは、やはりハイデマリーが王子に絡み過ぎて悪目立ちをしていたから。テストの時には頭の中身が残念な部類に入るアルマ公女の手伝いも買って出たというのに、最終的には肉食獣アルマに脅迫され、王族への不敬を問われるような事態に陥り、最終的には国外追放を命じられることになったのだ。
殿下の側近であるクラウスや、カサンドラの側近となるカロリーネやコンスタンツェの計らいで、エルハム公女の災いから最終的には逃げのびることに成功したのは良かったけれど、まさか隣国モラヴィアに移住することになるとは思いもしない。
悪辣なアルマ公女は母アロナを誘拐して、ハイデマリーを脅迫していたのだが、助け出された母は無事で、結局、叔父家族も一緒に来るような形で侯都リトミシェルに住み着くことになったのだった。
「はー・・一体どうしてこんなことになっちゃったのかしら」
と、言いながらハイデマリーが、少年が着るような服装に着替えている。
「いくら同級生だからと言って、侯爵家のお姫様を家に匿うようなことになっちゃったのが、全ての元凶だと言えるだろうね」
従兄のイーライがそう言って剣を構えると、弓の調整をしていた叔父のギルアドは、
「とりあえず、仕方がないと諦めよう」
と、言い出した。
「あれ?そういえば母さんは?」
ハイデマリーが問いかけると、叔父のギルアドが、
「すでに屋根に登っている、闇討ちするには屋根が一番と言っていたからな」
と、言い出した。
「闇討ち・・そうか・・闇討ちか・・」
平民の家であるはずのこの家に、クラルヴァイン王国の侯爵令嬢がいる。この侯爵令嬢の存在に気が付いたらしい誰かが大勢の刺客を放ったようで、今まさに、ハイデマリーの家へ迫ろうとしているようだ。
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