第二話 カロリーネの告白
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数々のドレスを作り出すことに夢中となっていたカロリーネは、貴族派筆頭と言われるエンゲルベルト侯爵家の令嬢である。隣国の第三王子ドラホスラフとの婚約が暗礁に乗り上げたことから、山のような釣り書きが送り続けられることになったのだ。
意地悪で狡猾な貴婦人たちの謀略を暴き、裁きを下したクラルヴァイン王国内は、一部の貴族たちを大混乱にさせたものの、大半の人々は今回の騒動を歓迎していたのだった。
なにしろやる気がないと評判の王太子妃カサンドラを失脚させようと画策した貴族たちは、大概が怠惰で、無能で、使いようもない者たちばかりだったのだ。
そういった貴族たち(給料泥棒とも呼ばれる人々)が排除されたことにより、風通しが良い職場環境がもたらされることになったとも言えるだろう。
「はあーっ、私もカサンドラ様のようにやる気が全く起きないのよ」
と、ある日のこと、カロリーネは言い出した。
「本当の本当にやる気が出ないのは何故なのかしら・・もう・・やる気が底をついてしまったのかもしれないわ」
コンスタンツェやカサンドラの結婚式が次々と行われることになった為、一人だけ置いてきぼりを食らうことになったあの頃のカロリーネは、毎日、ため息を吐き出し続けていたのだった。
「お母様、結婚ってどうしてもやらなければならないことなのかしら?」
「まあ!カロリーネったら一体どうしたのかしら?」
「だってね!私は服飾事業を立ち上げて、それなりにお金を儲けているわけでしょう?」
「そうね、幸いなことに今はうまく回っているわね」
「だったら、結婚なんかせずに、仕事をひたすら頑張って一人で生きていく人生だってあったって良いと思うのよ」
新緑の髪色に琥珀の瞳を持つカロリーネは、その可憐な容姿から妖精のようだと言われるほど儚げに見えるのだが、その中身は現実的で、最近では独立心が旺盛となっている。
「誰かに頼って生きるなんてことをしなくても良いのではないかと思うの、そんなことをしなくても十分に生きていけると思うのよ」
そう言って山のような釣り書きに視線を移動させると、
「だからね、全部燃やしちゃっても良いかしら?」
と、問いかける。
「全部燃やしちゃうのね」
カロリーネの母はほっとため息を吐き出すと、
「貴女は求婚者を全部袖にした上で、誰かが来るのをひたすら待っているのではなくて?」
と、問いかける。
「まだ、忘れられないでいるのでしょう?」
母の問いにカロリーネは顔を曇らせた。
忘れているか、忘れていないかと問われれば、カロリーネは完全に隣国の第三王子のことを忘れてはいなかった。
いくら仕事が忙しくたって、ふとした瞬間に思い出すのは、背が高く、髪の毛で顔の半分以上が隠れたあの人の姿だった。学生時代にはいつでも隣に居た人、いつでも触れられるほど近くに居た人。
「女の子はいつでも夢を見ているの」
カロリーネはそう言いながら、学園を卒業した自分が女の子というのもおこがましいかな、とも思いながら瞳を細めた。
「王子様がいつかは迎えに来る、私だけを愛してくれる王子様が私を攫いに来てくれるだろうと夢を見るのよ」
自称悪役令嬢だったカサンドラは、結局、本物の王子様に捕まった。普段は王子様らしい王子様だというのに、その中身は執念深くて、苛烈で、恐ろしいほどに危険な男だけれど、王子様なのは間違いない。正直に言って羨ましい。
しっかり者のような表情を浮かべながら、いつでも王子様が迎えに来てくれると夢を見ていたコンスタンツェは、王子様のように派手な見た目のセレドニオを、自ら迎えに行って捕まえた。コンスタンツェの為に別れようと考えていたセレドニオは、涙と鼻水を垂らしていたらしい。そんなセレドニオを迎えに行ったコンスタンツェは、皆に祝福されながら結婚した。正直に言って羨ましい。
カロリーネにも王子様はいたのだ、それも本物の王子様。それも隣国の王子様。背が高くて、もさっとした髪の毛で顔の半分が隠れていて、誰からも、
「きゃーっ!王子様よーっ!」
という風には騒がれることがない王子様。
隣国モラヴィア侯国には三人の王子様が居た。平和主義の王太子様を補佐する形で優秀であると呼び声高いパヴェル第二王子が居て、第三王子であるドラホスラフ王子は居ても居なくても同じくらいに存在感がない存在。
だから自分には丁度良いとカロリーネは考えたのだ。侯爵家の令嬢である自分が嫁げるギリギリのラインの王子様。まさか落馬事故で第二王子がお亡くなりになるとも思わないし、その第二王子の婚約者を今度は第三王子のドラホスラフにあてようなんて話が出るとは思わない。
いつの間にかドラホスラフ王子の婚約者は第二王子の婚約者だったマグダレーナ・オルシャンスカに入れ替わり、元々婚約者だったカロリーネは存在しないことになってしまったのだ。
だから、新しい結婚相手を見つけなければならないのだけれど、全くやる気がない。本当の本当にやる気がない。カサンドラのやる気がない病がうつってしまったのかもしれない。
「カロリーネ様・・カロリーネ様!」
「う・・ん」
「カロリーネ様!風邪をひきますよ!」
目を開くと、ハイデマリーの可愛らしい顔が目に映る。
「ハイデマリー、私、また寝ちゃっていたのね」
「そうですよ、また寝ちゃっていましたよ」
「ねえ、ハイデマリー、貴女のところには王子様は現れた?」
「ええ?王子様ですか?」
テーブルの上に広げたままの帳簿やインク瓶を片付けながら、ハイデマリーは肩をすくめて自嘲するように言い出した。
「昔、昔、私の為に王子様が用意されていると思っていた時はあります。完全に黒歴史になりますけどね」
ピンクブロンドの髪色にコバルトブルーの瞳を持つハイデマリーはとにかく可愛らしい容姿をしている。普通の男だったら振り返って見てしまう程には庇護欲を誘う可愛らしさなのだが、鳳陽小説ファンのハイデマリーは何を勘違いしたものか、自分こそが物語の主人公なのだと思い込み、あの(鬼の)アルノルト王子に横恋慕したことがあるのだ。
結果、国外追放を申し渡されて、実母と叔父家族と共にモラヴィア侯国に移住。そのハイデマリーの家に世話になって数ヶ月となるカロリーネは、
「私の王子様は一体どこに行ってしまったのかしら・・・」
と、言いながら夕暮れに染まる窓の外の景色を見つめたのだった。
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