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第二十三話  貴婦人たちの情報網

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。


「コンスタンツェ様、先触れもなく訪問したことをお詫び申し上げます」


 コンスタンツェが応接室へと入ると、待ち構えていたエステル嬢がカーテシーをする。恭しく辞儀をする令嬢に顔をあげるように言うと、

「エステル様、どうぞお座りくださいませ」

 コンスタンツェはそう言って、自らも向かい側に置かれたソファに腰をかけたのだった。


 蜂蜜色の髪を持つエステルは、平凡な顔立ちながら芯の強い女性であり、同じ中立派貴族であるカサンドラと同じ教室で学びながら、自分というものをわきまえているような令嬢だった。


 カサンドラとカロリーネという華やかで可憐な二人の令嬢に挟まれて、個性が死んでいるとも揶揄されることもあったコンスタンツェとも仲が良かったし、馬鹿にされることも多かったコンスタンツェを影ながら支え続けてくれた令嬢でもある。


 学園を卒業すれば、自分の家を支えるためにいかようにも奔走するのが令嬢の役割とでも言えるだろう。目の前のエステルもまた、自分の保身のため、家の保身のために、コンスタンツェを利用しようと企んでいるのだろう。


思わず、コンスタンツェがため息を吐き出すと、

「コンスタンツェ様、申し訳ないのですがお人払いをしては頂けないでしょうか?」

 と、エステルは真面目な顔で言い出したのだった。


 今までやって来た令嬢たちは、パーティー前に自分がコンスタンツェの元までやって来たという実績作りをしたいということもあった為、多くの人の目に触れることを望んでいた。だからこそ、人払いを申し出るのはエステルが始めてということになる。


 家令のコーバンの方に視線を向けると、心得たといった様子で紅茶や茶菓子を給仕していた侍女たちを部屋の外へ下げると、

「お嬢様、私は扉の前におりますのでご用の際にはお声をおかけください」

 と言って応接室の外へと消えていく。


 ティーカップを手に取ったコンスタンツェは、

「それで?お話とは何なのでしょう?」

 ツンと澄ましながら問いかけると、

「コンスタンツェ様、再び王国内にオピの麻薬が出回り始めているということはご存知ですか?」

 と、エステルは緊張した面持ちで言い出したのだった。


 オピという花の実から抽出される果汁を乾燥させたものは、依存性が高く、常用すると慢性の中毒症状を引き起こす。このオピの麻薬を王立学園内で密かに流行させていたのがクラリッサ・アイスナーであり、アイスナー伯爵家は麻薬の密輸が発覚したことと、王子の婚約者を誘拐した罪で没落したのは有名な話だ。


「私たちが王立学園の一年生だった時に、同じく一年生だったアイスナー伯爵令嬢が、オピの成分を加えた飴玉を学園内で広めていました。自分の言いなりになる生徒を増やすことで自分の派閥の勢力を大きくしようと考えたそうですが、令嬢から飴をもらった生徒たちが未だに復帰出来ていないのはご存知ですか?」


 依存性のある麻薬に手を出せば、禁断症状が出ることはもちろんのこと、その後、何年にも渡って後遺症に悩まされることにもなるのだが・・


「領地に閉じ込めても、薬を求めて暴言を吐き、暴力行為を繰り返し、後に自傷行為を繰り返すようになるというのです。自分の子供にそのような状態が続くこととなったなら、心の弱い貴婦人ほど救済を求めるものなのです」


「要するに、誰かが貴婦人たちにオピの麻薬を融通しているということ?中毒患者である自分の子供に与えれば、一時は落ち着いた状態に戻る事になるから、オピの麻薬を与え続けている親がいるということなの?」


「実は私の叔母がそうなんです」

 エステルは自分の唇を噛み締めると、自分の両手を握りしめながら言い出した。


「今度行われるパーティー、中立派の貴婦人たちは全員、参加を見送ることとなります。そんなことがあっという間に決定するなんておかしいと思って調べてみたのですが・・」


 コンスタンツェは思ってもみない方向に話が進み出したため、ティーカップをソーサーに戻した。エステルは何度か自分の唇を舐めると、悔しそうに瞳を細めながら言い出した。


「表向きには中立派の勢力が、王家派と貴族派の勢力よりも明らかに少ないということがパーティー会場で公になっては問題だから・・なんてことを言っていますが、パーティークラッシュを邪魔する者が出ないようにするため、叔母が利用されたということになるのです」


「その叔母様のお子さんというのは?」

「ビスバル子爵家の令息、ダビッド様です」


 ダビッド・ビスバルという名前は、確かに、クラリッサ・アイスナーの取り巻きの中に居たはずだった。カサンドラの誘拐には関わっていなかった為、咎めを受けるようなことはなかったものの、取り巻きだったこと自体が問題だとして、子爵家当主は息子を即座に退学させたのだった。

「まさか・・彼が麻薬中毒者だとは知らなかったわ・・」

 オピの禁断症状は想像を絶するものであると、コンスタンツェも話には聞いている。


「ダビッドだけでなく、クラリッサに関わった人間は未だに禁断症状に悩まされているというのです。私は今回の王家派、貴族派の動きを見て、叔母と同じように利用されている貴婦人が多いのではないかと考えているのです」


 麻薬は王国では禁止されているのは皆が知るところであるし、麻薬の売買に関わっていたということが公となれば、家名を大きく傷つけることになるのは間違いない。


 コンスタンツェは真っ直ぐにエステルを見つめながら言い出した。

「実は最近、南から襲来した海賊たちが大量のオピの麻薬を運んでいたということが分かったの」


 海賊退治で雇われることになったサンジーワたちは、海賊が運んでいたものを換金して自分たちの利益とすることを契約で許されている。クラルヴァインでも戦利品を換金したいと考えていたのだが、押収した船の積荷はオピの麻薬ばかりで、

「コレじゃあ金にならないノネ〜」

 と言って文句を言っている姿をコンスタンツェは実際に見ているし、知っている。


 聡明なエステルは瞳を鋭い針のように光らせると、

「アイスナー伯爵に代わって、どこかの貴族が海賊と取引する形で麻薬を密売してる。叔母を今すぐ締め上げて白状させれば良いかとも思うのですが・・」

 と、酷く物騒なことを言い出したのだった。


「麻薬が関わるだけに、上への報告をした上で指示を仰がなければなりません。だから、勝手に叔母様を締め上げたりしないでね」

 コンスタンツェはそう言って大きなため息を吐き出した。


「とりあえず、中立派の貴族たちは全て出席を見合わせるのよね?」

「ええ、そうなんです」

「だとすると、王家派と貴族派の貴婦人のみが出席されるということね」

「そういうことになるのですが、ここで私から、コンスタンツェ様にお話があるんです」


 エステルは畏まった様子でコンスタンツェをまっすぐに見つめると、

「どれだけの人がパーティークラッシュに賛同したとしても、王立学園に通っていた私たちのような者や、今も学園に通っている令嬢たちは、このパーティークラッシュに反対の意見を持っているのです」

 と、言葉をひとつ、ひとつ、区切るように、はっきりとエステルは言い出した。


「私たち学園の生徒だった者たちは、アルノルト殿下の苛烈な性格を十分に理解しておりますから」


 確かに学園在学中、アルノルト王子は苛烈だった。普段は穏やかなように見える王子は、ブチギレると想像を絶する行為に出るのだ。


「パーティークラッシュ、いかにもお年寄りが考えそうな悪辣な行為ですけれど、それがいかに危険なものなのかを全く分かっていない者が多くて驚くほどですわ」


 そのふざけた行為で、万が一にもアルノルトが激怒すれば、何が起こるか分からない恐ろしさがあるのを学園の生徒たちは知っている。


「ですので、私たちは私たちで自分の身、自分の家を守るために動くことに致しましたの」


 その後、コンスタンツェはエステルから話を聞くに従い、思わず大声を上げて笑い出してしまった。


 本当は、何がどうなろうとコンスタンツェは今回の戦いに勝つだけの自信があったのだ。だけど、強欲で愚鈍なだけの人々に巻き込まれるのだけは嫌だと足掻く人間がいるということも知って、

「面白いですわ!すぐにもカサンドラ様へ報告致しましょう!」

 と、明るい声で言い出したのだった。


カドコミ・コンプティーク様にて『悪役令嬢はやる気がない』(高岸かも先生 漫画)で掲載!ネットで検索していただければ!無料で読めます!短期連載で、クラリッサ編までのお話となりますが、こちらも読んで頂ければ幸いです!本日、もう一本更新します。


ただいま『緑禍』というブラジル移民のブラジル埋蔵金、殺人も続くサスペンスものも掲載しております。ご興味あればこちらの方も読んで頂ければ幸いです!!


モチベーションの維持にも繋がります。

もし宜しければ

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6/10(月)にコミカライズ『悪役令嬢はやる気がない』が発売!

書き落とし短編〈鳳陽編〉も入っています!

作中に出てくる鳳陽ってどんな国?皇帝ってどんな人?など興味がございましたら、ご購入頂ければ幸いです!!よろしくお願いお願い致しますm(_ _)m
悪役令嬢は王太子妃になってもやる気がないも宣伝の意味も兼ねてスタートします!"
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