第九十二話 新しい未来へ
これでこのお話も終わりとなります!!最後までお付き合いいただき有り難うございます!!
皆を振り回す形となった誘拐犯のアダム・チェルフとその一味は、ストックホルム症候群(誘拐犯たちに対して同情心が物凄いことになってしまっている)に罹ったカロリーネとダーナの進言によって情状酌量の余地はあると判断されることになったのだ。
南大陸の人間から襲撃を受けたアダムたちは大怪我を負ったものの命に別状はなく、釈放後、誘拐犯の中でも首謀者扱いのアダム・チェルフはその優秀さを見込まれて、後に宰相補佐にまで上り詰めることになる。
逃げ出したオルシャンスカ伯爵を捕縛したアダム・シュフチークは褒美として子爵位と領地を与えられた。アダム・シュフチークの友人である建国王マニア、ダヴィド・ヴィテークと、シュバンクマイエル軍に対して停戦を豪語したモイミール・ユラセクの二人は伯爵位を与えられ、オルシャンスカ軍の中で同国人同士が傷つかないように差配し続けたパトリック・プロヴォドは騎士団長の地位に就くことになる。
今回、モラヴィアを植民地化しようと企んだ首領、イヤルハヴォ商会の会頭アクラムは、捕えられた南大陸人たちや、オルシャンスカ伯爵たちと共に公の場で処刑処分となった。新天地を求めたスーリフ大陸の複数の国々は、未開の地を自国の植民地としていたが、自分たちが住み暮らす大陸が植民地として南大陸から狙われることになるとは思いもしなかったため、モラヴィアの事件は周辺諸国を驚嘆させることになった。
南大陸の玄関口とも言われるアルマ公国は、いち早く自分たちは今回の事件とは関係ないと宣言。アルマの公女が深く関わっていたのを黙る代わりに、クラルヴァイン王国はアルマ公国が買い占めたインペリアルトパーズをごっそりと巻き上げることに成功をした。
侯王となったドラホスラフの戴冠式と結婚式は同日に行われることになり、その日にちは、以前、カサンドラとアルノルトの元へ届いた結婚招待状の日付と同じ日であったのだ。
船から降りたカロリーネの兄エドガルドとカサンドラの兄セレドニオが丁度、侯都に到着した日がその日であり、
「カロリーネ、いくら自分の結婚を待ち侘びていたからって、家族が誰も居ない状態でやっちゃうつもりだったのかい?それにしたって早い!早すぎるよ!」
と、兄のエドガルドは大いに嘆いていたという。
結婚招待状を受け取ったアルノルトとカサンドラはドラホスラフによるジョークだと思っていたので、日にちを合わせて結婚式を敢行したドラホスラフの猪突猛進ぶりにある意味、恐れ慄いたという。
ただし、一回目の結婚式は国民向けのアピールのようなものであり、諸外国の要人を招いての結婚披露宴にはカロリーネの両親や、親友のコンスタンツェも参加した。それだけでなく、アルマ公国からシャリーフ王子もやって来た。
スーリフの王族や貴族が集まる場で、アルマ公国が居たからこそ、南大陸からの勢力を押し除けることが出来たのだとシャリーフは豪語した。だから、我が国との交易を止めるようなことはやめてね!というアピールの場として利用したのだ。
カサンドラとアルノルトは、インペリアルトパーズをごっそりと巻き上げたので何も言わなかったのだが、このインペリアルトパーズは小出しにしながら高値で鳳陽向けに売り捌いていくつもりらしい。ちなみにアルマ公国の公女だったエルハムの名前は歴史から消えた。
南大陸の植民地となるくらいならモラヴィアを自分たちの所領としようと企んだ北辺の国アークレイリは自国から艦隊を出発させることになったのだが、結局、周辺海域の海賊討伐に使いまわされただけだった為、アークレイリの王は大いに激怒したらしい。
そこで宰相ウラジミールの娘ダーナと英雄ペトローニオを結婚させるという話を持ち出し、モラヴィアの中央にペトローニオを送りこむこととなるのだから、アークレイリの思う通りに政治を動かせるようになるだろうとカテリーナ・パーロヴァは囁いた。
侯王ヴァーツラフの姉であるカテリーナ・パーロヴァは新たなる侯王の後見人となることを宣言し、アークレイリはようやく怒りをおさめることになるのだが、その後、宰相ウラジミールは自分の責務を娘のダーナに譲り渡し、モラヴィアで初めての女宰相が誕生することになる。
ダーナと結婚したペトローニオは祖国が望むように政治家にもならず、専業主夫になる道を選び、
「ようやっと夢の専業主夫になれたのよ〜!服飾でお小遣いも稼げるし!子供たちと毎日ずーっと過ごせるなんて幸せ!」
と、無敵の将軍はダーナが産んだ三人の子供達と子育てという戦場で戦いながら幸せに過ごしていたのだが、その頃にはアークレイリは貿易で大儲けすることになったので、専業主夫ペトローニオは見逃されることとなったらしい。
猪突猛進の王ドラホスラフと結婚することになったカロリーネは、その後、五人の子供を産んだのだが、
「やだ!やだ!やだ!俺のことだってきちんと面倒みてくれなくちゃ嫌だ!」
と、時々子供化する夫に対して容赦無くゲンコツを振り下ろしているという。家臣一同、妃のゲンコツで侯王の進む方向が調整されていくことになるため、有り難くゲンコツが落ちるのを見守っているような状態だ。
モラヴィアの内戦を終結させたクラルヴァインは、火龍砲の大きな可能性を示すことになったのだが、アルノルトはその後も、必要な時にしか火龍砲を使うことはなかった。火龍砲をうまく使えば周辺諸国への侵略、国土拡大などすぐさま可能となったようにも思えるのだが、
「そんな面倒臭いことをやっていられるか」
と、アルノルトは言い出した。
遥か東に位置する鳳陽国で作られる武器弾薬を手に入れれば、帝国を築くのも夢ではない。そう考える国々は何とか火龍砲を独自に手に入れられないかと模索するのだが、いつでもどこでもクラルヴァインが邪魔に入る。最新式の大砲が手に入るのはいつでもクラルヴァインだけ。だけど、クラルヴァインは自衛にしか大砲を使用しないのだ。
「なんで貴方は火龍砲を使おうとは思わないのですか?世界を変えることだって出来るのですよ?」
そう問われたアルノルトは即座に答えたという。
「やる気がないのでやりませんよ」
アルノルトにとっては家族こそが大事であり、くだらない戦争なんかで時間を費やそうとは思わない。
「我が妃カサンドラはやる気がないことでも有名ですが、そんな妃と一緒に居る所為か、私自身にもやる気にムラがあるのかもしれません。とりあえず、戦争についてはやる気がないからやらない。だけど、相手が仕掛けてくるのなら、完膚なきまでに叩きのめしますけれどね?」
今のところはやる気はないけれど、仕掛けて来たらやり返す。だからこそ、周りの国々もクラルヴァインに対してはやる気(対抗する気)がなくなるのかもしれない。
やる気がないといえば、カロリーネのこと以外はいたってどうでも良いドラホスラフ王子は、実の兄であるブジュチスラフとマグダレーナのことを十年間、牢屋に入れっぱなしで忘れてしまったのだ。今まで自分こそが世界の中心であるかのように扱われてきた第一王子が酷い屈辱を味わうことになったのは言うまでもない。
そうして、十年後に牢屋の外に出されたブジュチスラフとマグダレーナは、生殖機能を絶たれた上で修道院へ入れられることが決定した。今更、過去の罪を償って死刑というのは酷すぎるだろうという意見が大半を占めることになったからだ。
そんなブジュチスラフ王子に翻弄され続けたファナ妃は、クラルヴァイン王国に亡命し、男爵位を賜った。彼女は梟が仕入れてきた情報を王家に売ることで悠々自適な日々を送ることになったのだが、親梟と呼ばれるブノワ・セルヴェは愛するファナ妃になかなかアタックすることが出来ず、そんなファナ妃は田舎生活が性に合っていたようで、二人のすれ違いはしばらくの間、続くことになるのだった。
ハイデマリーはカロリーネの専属侍女に、従兄のイーライはドラホスラフの侍従になったのだが、
「やる気がない私と違ってカロリーネは過労死するタイプでしょう?二人で見守ってくれると助かるわ〜」
と、カサンドラから言われることになったのだ。真面目なカロリーネは何でも自分で目を通して完璧な仕事をしたくなるタイプなので、確かにストッパーは必要なのかもしれない。
そうして話は元に戻ることになるのだが、モラヴィアでの長期滞在を終えてクラルヴァインへと帰国したカサンドラとアルノルトは、王と王妃にこっぴどく叱られることになったのだが、
「孫の成長は一瞬なのよ〜!貴重な時間を私たちから取り上げないでちょうだい!お願い〜!」
と、王妃様に言われてしまえば仕方がない。
隣国の内戦を阻止した上に南大陸からの侵入を断絶し、アルマ公国に釘を刺すことにも成功をしたアルノルトは、かなり勝手なことをやっていた割には議会で追及されることもなかったらしい。
その後、アルノルトは王に、カサンドラは王妃となるのだが、
「うちの王妃はとにかくやる気がない」
と言われながらも、民からも慕われ続けることになるのだった。
カサンドラ妃は今までの王妃と比べればかなり破天荒な性格だったと歴史家は述べている。そのカサンドラの自由奔放さを決して否定せず、守り続けたのがアルノルト王であり、二人が在位中は大きな戦争も起こらず、平和な時代が続くことになった。
その後、船の開発が進み、多くの国々が鳳陽国を訪れることになるのだが、彼らの孫子の代となっても鳳陽とクラルヴァインの親密な関係は続いていたという。それは何故かというのなら、クラルヴァインは人種の違いや宗教の違いで決して差別をしなかったから。
幼少期から多くの国々を訪れることになったアルノルト王とカサンドラ妃の、他を受け入れる精神は子々孫々にまで伝わり続け、王国は独自の道を歩むことになるのだが、彼らが戦力を武器にして他国に戦いを仕掛けなかったのは、ただただやる気がなかったからと評する歴史家も存在する。
〈 完 〉
このお話はコミカライズ『悪役令嬢はやる気がない』の宣伝として始めたものとなりますが、カサンドラの側近だったコンスタンツェとカロリーネの物語を楽しんでいただけたら幸いです!思いの外長くなってしまったので、最後までお付き合い頂いた方々に感謝申し上げます!!また、あとがき的なものも活動報告に載せますので、お暇な時に覗いて頂けたら嬉しいです!!
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