第八十六話 アクラムとシャリーフ
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南大陸には船を作る材料とするのに適した木材が育たない。
だからこそ、モラヴィア侯国を植民地にしようと企んだ。
モラヴィア侯国は今は滅びたトウラン王国から独立した国。建国の王を愛する国民性が悪い方向に作用したらしく、愚鈍な侯王が好き勝手にしても許されるような風潮にある国だ。そこには付け入る隙というものが山ほどあったのは間違いなく、アクラムは順調に侯国を衰退へ導いた。
バジール王国の第一妃が十八番目の妃となるエルハムを送り込んできた時には腹立たしくも思ったものの、エルハムは思いの外、使える女だったのだ。男を虜にする術に長けており、モラヴィアの多くの貴族達を魅了し、洗脳し続けてくれたからこそ、アクラムは貴族達から巻き上げた金で巨万の富を築くことに成功をした。
侯王がバカすぎるが故に心配することは少ないが、全てが順調に進んでいる時こそ、何かの落とし穴に嵌ることが多い。戦争が始まると、麻薬を集積していた倉庫が襲撃を受けて燃やされることが続き、中毒状態となった貴族達を押さえつけるのが難しくなりつつあった。
マグダレーナを利用して、王妃や第一王子を麻薬漬けになるよう仕向けたが、国のトップが今後、どういった動きを見せるのかが分からなくなるものの、モラヴィアは大穴が空いた大船なのは間違いなく、これから沈没していくのは火を見るよりも明らかだ。
そこでアクラムは、エルハムが誘拐した令嬢達を痛めつけるために移動すると豪語した時に、どう転んでも良いように差配することに決めた。
誘拐した令嬢達を確実に捕獲するために、百人規模の部隊を独自に用意をしたし、オルシャンスカ伯爵が内戦に勝利しようが、敗北しようが、祖国に帰れるように手配をする。エルハムが好き勝手やっている間に、一度、バジール王国へ報告のために戻ろうと考えていたのだが、まさかそこで、アルマ公国の第二王子が自分の目の前に現れるとは思いもしない。
「アクラム殿には君が知らない情報を一つ教えておいてやろう、バジールの第一妃が産んだマシャアル王子だがな、母子共に死んだぞ」
シャリーフからそう告げられた時に、アクラムの背を嫌な汗が流れ落ち、胃のなかのものが口から溢れ出そうなほど気分が悪くなった。
バジール王には何人も妃がいるが、次の王には第三妃が産んだ王子が有力だとされていた。その話に待ったをかけたのが、ようやく王子を産むことが出来た第一妃であり、第一妃は自分の息子に王位を継がせる理由付けとするために、モラヴィアの植民地化を企むことになったのだ。今まで何年も、何年も、バジールの第一妃のためにアクラムは異国の地に潜伏し続けていたというのに、その肝心の第一妃が排除されたという。
その理由は、一生涯の国の外には出さないという契約で輿入れさせたエルハム公女を植民地化を進めるための駒として国外に出したから。火龍砲を積んだ船でまずは南下を進めたシャリーフ王子は、バジールの港湾都市ひとつを破壊した。
契約違反をした王に抗議をするためと言っているが、港湾都市を落としている間に、第三妃の息子へ王位を簒奪するようにシャリーフは唆していたのだ。そうしてバジールのアルモエズ王を排除することに成功した新たなる王は、政敵でもあった第一妃とその息子も排除した。
シャリーフ王子は返す刀で船を北上させると、エルハム公女が潜伏するモラヴィア侯国へ潜入。
モラヴィアの植民地化計画には南大陸にある複数の国々が参加するような形となっていたのだが、スーリフ大陸との貿易を活発化させているアルマ公国は仲間外れにされた。多額の持参金をつけて18妃となったエルハムを散々利用しておきながら、アルマ公国は蚊帳の外に置かれることになったのだ。
だからこそ、アルマ公国は植民地化を目指す諸国に対して一切の忖度をすることもやめた。
「失礼する」
散々に嬲られてボロボロとなったアクラムを拘束した状態で、クラルヴァインの王太子夫妻が滞在する別荘へと現れたシャリーフは、床の上にアクラムを投げつけながら、
「エルハムがここに居るとの報告を受けたが、エルハムは・・」
餃子を頬張りながらこちらを振り返る異母妹を見つめて、大きなため息を吐き出したのだった。
テーブルを埋め尽くす料理の数々よりも、危機感のない様子で食事をする妹の姿に対して驚嘆せずにはいられない。今、エルハムはどれだけの損害をアルマ公国に与えようとしているのか、その自覚はカケラほども無いのに違いない。
「クラルヴァイン王国の若き太陽にご挨拶を申し上げます。アルマ公国の公王の弟、シャリーフ・バロア・アルマが、今回の事件の首謀者となる男を連行いたしました」
ナプキンで自分の口元を上品に拭ったアルノルトは、金の瞳を細めて、扉の前で跪くシャリーフに視線を向けた。
「その男がイヤルハヴォ商会の会頭か?」
「はい、名をアクラムと申しまして、バジールの第一妃の手先となって動いていた男となります」
「この男がエルハムを国外に出したのか?」
「エルハムを外に出したのは第一妃の指示によるもので、この男はエルハムの受け取り側と申しましょうか?モラヴィア貴族達をたらし込むために利用したとも言えるでしょう」
血まみれで床に転がるアクラムを見てエルハムは悲鳴を上げたが、椅子からは立ち上がらないように給仕の男たちに肩を抑えつけられている。
「アクラムは見つけられたのですが、逃亡中のオルシャンスカ伯爵を捕まえることは出来ませんでした」
「それは別に捕らえられたから何の問題もない」
アルノルトは罪人を床に放置したまま、シャリーフ王子にテーブルにつくようにと命じた。
「私が作った餃子を食べた者は皆、絶品の料理だと褒めるのだ。良かったら君も食べてみてくれたまえ」
そう言ったアルノルトはうっそりと微笑むと、
「久しぶりに兄妹の再会だろう?楽しい晩餐にしようじゃないか」
と言うと、
「シャリーフ様、お久しぶりでございますね」
と言って、カサンドラが眩しいような笑みを浮かべた。
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