第八十五話 敗者の選択 ②
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強制的に娘を第二王子の婚約者に決めた後は、王子妃となる体裁を整えるように言われ、それが理由で伯爵家の経済状態が逼迫しても完全無視を決め込んだ。いくら優秀であっても妾腹であるパヴェル第二王子を疎んじ続ける王妃に対して、侯王までもが追従しているような状態なのだ。
そんなハズレクジの王子を当てがわれたオルシャンスカ伯爵家はパヴェル王子共々死ねと言われているようなものだった。であるのなら、そんな主人は必要ない。モラヴィア侯国など南大陸に売り払い、大金をせしめた後は安住の地に移住をして、悠々自適な日々を送る方が遥かに良い。
だからこそ、無理やり食料を徴収したというのに、徴兵した兵士たちへの食糧の配給を真面目に行うようなことはしなかった。幹部と言われる人間が麻薬に汚染されていることに対しても無視を決め込んだ。
こちらが非常識なほどに好き勝手にやっていたとしても、圧倒的に数では有利なのだ。宰相率いるシュバンクマイエル軍には勝利を出来るし、
「謀反人を無事、討伐して参りました!」
と、言って、侯王をぬか喜びさせることが出来るだろう。すぐ近くまで破滅が迫っていることにも気が付かずに、侯王ヴァーツラフは破滅の板を踏み抜くことは決まっている。
だから何の問題もない、何の問題もなかったはずなのに・・
「伯爵!クラルヴァインのアルノルト王子率いる砲撃部隊が一斉攻撃後、クラルヴァインの騎兵部隊が我が軍を突き抜ける形で進軍!それと同時に、シュバンクマイエル軍が全軍進軍の形で我が軍と衝突。シュバンクマイエル騎兵部隊を率いるのはアークレイリの無敵の将軍!ペトローニオが前線に出ております!」
「伯爵!侯都より連絡!侯都より連絡!モラヴィアを売り払おうと画策した売国の王、ヴァーツラフ侯王とダグマール王妃の遺体が城門にぶら下げられる形となりました!侯都は完全に第三王子によって制圧!侯都を落としたドラホスラフ軍は我が軍を制圧するために休むことなく出発!休むことなく出発!まもなく後方部隊と衝突します!」
「三方向からの同時攻撃から見るに!最初からドラホスラフ殿下はこうなることを計画していたのかもしれません!」
「ちょっと待て!ちょっと待て!第三王子が侯都を落としただって!」
第三王子は影が薄いし存在感もないような王子で、隣国クラルヴァインに留学していても誰もが気にすることもない王子だったのだ。
ただし、帰国した王子の顔は建国の王にとても似ていた為、マグダレーナが王子との結婚を望むことになった。その為、邪魔になる王子の婚約者に向けて何度か暗殺者を送っていたのだが・・隣国の侯爵令嬢はその後、どうなっていただろうか?
「我が娘とドラホスラフ殿下との結婚話は進めていたし、二人の結婚は決定したも同じようなものだっただろう?侯王を倒した話は別にしたとして、何故、殿下が我が軍に攻撃を仕掛けるのか?」
「分かりません!伯爵は何か思い当たることはありませんか?」
「もしかして・・」
隣国の侯爵令嬢の暗殺を知らない間に成功をしていたがために、ドラホスラフ王子に恨みを抱かれることになったのか?最終的に殿下の婚約者は侯都までやって来ていたということなのだが、確かにマグダレーナが、暗殺を成功させると息巻いていた。
「まさか・・殿下は自分の婚約者を殺された復讐のために・・」
そうなれば、宮殿で守られているマグダレーナも無事では済まないことだろう。
「伯爵どうしますか!」
「「「「伯爵!」」」」
「待ってくれ!ほんの少しで良いから待ってくれ!」
目眩を感じたオルシャンスカ伯爵は、いつでも自分に策を与えてくれる南大陸人の参謀を探すことになったのだが、何処を探しても南大陸特有の浅黒い肌の男達を見つけることが出来ない。
いつの間にかモラヴィア人だけになっている自分の陣営を見回したオルシャンスカ伯爵は恐慌に襲われた。だからこそ彼は自分の側近だけを連れて、こっそりと自陣から抜け出す道を選んだのだ。
ここ最近、南大陸とのパイプ役だったアクラムの姿が見えず、彼は侯都でやるべきことがあるからと説明を受けていたのだ。そこから、彼ら南大陸人がオルシャンスカ軍に見切りをつけて、早期の離脱を図ることにしたのかもしれない。
南大陸の人間が侵略戦争を進めやすいようにするために、オルシャンスカ軍は兵の損耗をわざと激しくして、士気も異常なほどに低いままだ。連戦連勝のドラホスラフ殿下がやって来るとなれば、すぐさま総崩れとなるだろう。
モラヴィアが損耗すれば損耗するだけ良いと考える南大陸の人間は、次の一手を打つためにすでに動き出しているのだろう。であるのなら、逃げ出した後に彼らと合流をして、約束した金を貰って逃げることにすれば良い。
全ては命あっての物種なのだ。領主館に置いてきた妻子のことは気には掛かるが、モラヴィアが植民地となった後に助けに行っても遅くはないだろう。
そう考えながら森を抜けるようにして移動をしていた伯爵は、たまたま部隊から遅れて出発をしたアダム・シュフチーク率いる騎兵部隊に遭遇することになったのだ。
建国の王マニアの友人ダヴィド・ヴィテークに置いていかれることになったアダムは、自分の部隊を揃えるのに時間がかかり、遅れに遅れた状態だった為、近道をするために森の獣道を抜ける形で進軍をしていたのだが、まさかその獣道に敵の大将がいるとは思いもしない。
「オルシャンスカ伯爵!自分だけ逃げ延びることが出来ると思ったのか!」
アダムがライフル銃の引き金を引くと、肩に銃弾を受けた伯爵は後方に飛ぶようにして倒れ込んだ。仲間を置いて逃げ出した卑怯者達はここで捕縛されることになり、侯王と王妃がぶら下がる城門がある侯都へと連行されることになるのだった。
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