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第八十四話  敗者の選択  ①

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 オルシャンスカ伯爵は鳴かず飛ばずの弱小貴族だったのは間違いなく、何の取り柄も権力も持たない伯爵家の令嬢が第二王子の婚約者に選ばれたのは、一重に妾腹の第二王子に権力と後ろ盾を持たせないため。


 マグダレーナは美しい容姿の娘だった為、麗しい顔立ちのパヴェル王子と並んで立つと見栄えはする。権力はなくとも、パヴェル王子と並んでも遜色はないからという理由で選ばれたようなものだ。


 侯王ヴァーツラフとダグマール王妃にとって第一王子であるブジュチスラフだけが大事なだけであって、貧乏な伯爵令嬢が第二王子の婚約者となることで生じる弊害については何の忖度もしてくれなかったのだ。


 まがりなりにも王子妃となるのであれば、王宮に上がって専門的な教育を施さなければならない。そのため、恥ずかしくない衣装を娘に用意しなければならないし、娘が王家に嫁ぐための持参金も用意しなければならない。第二王子の婚約者であるマグダレーナは社交に力を入れなければならず、茶会を主催するだけでも飛ぶように金が消えていく。


 第二王子に力を付けさせないために、財力も権力も持たない伯爵家の令嬢を選んでおきながら、必要なことはきちんとこなせと周りは言う。第二王子の婚約者として必要なことはきちんとこなそうとしていたら、あっという間に財政破綻一歩手前の状態にまで追い込まれた。


 財力も権力も持たないオルシャンスカ伯爵家の令嬢が第二王子の婚約者として選ばれることは非常に光栄なことではあるが、だからこそ、周囲の妬みややっかみが強くなる。第二王子の婚約者となったのだからと尻尾を振るのは男爵以下の人間ばかりで、自分の娘が王子妃となる未来を手に入れたと言うのに落ちぶれていくオルシャンスカ家を高みの見物で眺めるだけ眺める貴族がほとんど。誰も助けの手を伸ばさない状態に激しい怒りを感じていた時に、娘のマグダレーナが暴漢に襲われた。


「パヴェル王子の婚約者の座から引き摺り下ろそうと考える輩も居るのでしょうが・・」

 マグダレーナの窮地を救ってくれたのがイヤルハヴォ商会で働くアクラムで、

「王妃様は妾腹のパヴェル王子を激しく嫌悪しておりますし、そのパヴェル王子の婚約者であるマグダレーナ様を虐めることは、憂さ晴らしとしては丁度良いということになるのでしょう」

 と、同情混じりの眼差しとなって言い出した。


「我々、南大陸の人間はもともと多くの妻を迎えるような文化にあるのでそんな争いはないのですが、一夫一妻を神が望まれるというスーリフ大陸ではそうではないのでしょう。妾腹のパヴェル王子が憎けりゃその婚約者まで憎いとなって、自分で当てがった婚約者であっても容赦するつもりもないのでしょうね」


 パヴェル王子の婚約者に娘が選ばれることになったオルシャンスカ伯爵を誰一人として守ろうとはしてくれない。それは、すでに分かりきったことだ。


「であるのなら、対抗することが出来るだけの力を付けてしまえば良いのです。私も商人としてスーリフ大陸に進出する身として、お客様となる伯爵の権力が大きくなればなるほど、手広く事業を進めることが出来るでしょう」


 そうしてオルシャンスカ伯爵家の窮状を案じたアクラムが、伯爵家の従者として働いてくれるようになったのだが、彼がもたらす金と麻薬の力によってオルシャンスカ伯爵は強大な権力を手に入れることになる。


 遥か高みに存在していた宰相ウラジミール・シュバンクマイエルを引き摺り下ろす形で謀反人に仕立て上げ、討伐のための兵士を瞬く間に集めることに成功する。世の中はオルシャンスカ伯爵を中心にして回っているのも同じことであり、圧倒的に数で有利な状態で戦火は切って落とされることになったのだ。


 そこまでは伯爵にとって完璧なストーリーだったのだ。

 中央貴族たちをまとめ上げ、電光石火の勢いで二万を超える兵士を集め、モラヴィアに対して謀反を企む宰相ウラジミールを倒すために兵を進める。


 サディルク伯爵率いる部隊が快進撃を続け、シュバンクマイエル領を大きく切り取った。ここまでは良かった、周辺の貴族たちに牙を向けられたシュバンクマイエル側は対応に追われ、押されるだけ押される状態だったのだ。

 

 圧倒的有利な状態に慢心したサディルク伯爵が自分の戦果を報告するために侯都リトミシェルに戻ろうとするまでは、そこで事故に遭って伯爵とその子息が亡くなるまでは、間違いなく順調だったと言えるだろう。


 主人の突然の訃報に動揺したサディルク伯爵の部隊はこう着状態となった後、自ら宰相側に停戦を申し出て、切り取った領地を手放す形で後退をする。


 そうして現れたのがクラルヴァイン王国虎の子の砲撃部隊。大砲といえば海戦と言っても間違いではないクラルヴァインが野砲に転用した火龍砲を並べて、宰相ウラジミールの援軍として参戦。


 北部に現れたドラホスラフ第三王子があっという間に辺境貴族たちをまとめ上げ、侯都を目指して進軍をする。謀反を起こした王子を妨げるために用意された中道派貴族たちの兵士たちは瞬く間に第三王子の傘下へと降り、ドラホスラフ王子は連戦連勝の状態で侯都に侵入。王宮を守る近衛兵団は新しい王を喜んで迎え入れることになったという。


 軍部に対しては第二王子に丸投げ状態だったブジュチスラフ第一王子と侯王ヴァーツラフは、南大陸に自国を売り払うのに邪魔になると考えて、第二王子を暗殺した。南大陸の野蛮人どもに祖国を売り渡してたまるかと奮起した第三王子の快進撃は止まらず、一日を待たずして宮殿はドラホスラフ王子の手に落ちた。


 このままでは逆賊を討つはずだった自分自身が逆賊として討伐されることになるだろう。


 この戦いは、勝って当たり前の戦いであり、その戦いの中で大きく兵を損耗するのが目的でもあったのだ。南大陸の商人であるアクラムを介して要人達と接見をしたオルシャンスカ伯爵は、モラヴィアが簡単に植民地となるように国力を削ぐことを約束していたのだ。


 この戦いは伯爵なりの復讐でもあったのだ。


話の流れで、本日もう一話更新します!!少しでも気分転換となれば嬉しいです!!最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

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悪役令嬢は王太子妃になってもやる気がないも宣伝の意味も兼ねてスタートします!"
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