第七十九話 ヒーローは現れるのか?
お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。
北大陸と南大陸では使用する言語が違うのだが・・
『エルハムって、まさかとは思うけれど、アルマ公国の公女エルハムのことを言っているの?』
カロリーネが異国の言葉で話しかけると、部屋に入って来た五人の男たちはニヤニヤ笑いながら言い出した。
『エルハム様はバジール王の18妃、我らが王の妃の指示に従って、カロリーネ、お前に地獄のような経験をさせてやろう』
『地獄じゃなくて天国でしょう?』
『俺は隣のぽっちゃりを相手にするわ、俺、太った女の方が好みなんだよね』
『まあ!18妃の命令で私たちを犯すって言うのね!』
カロリーネに手を握られたまま部屋の隅へと移動をしたダーナは、恐怖のあまり失神しそうになっていた。樽のように太ったダーナは男女の関係に疎く、男女の行為など自分には一生関係のないことだと断じていた。だけれども、この世の中にはペトローニオのように痩せている女よりも太っている女の方が好みだという男も一定数いる。目の前の南大陸人の男は舌なめずりをしながら、欲望が滲んだ眼差しでダーナ見つめていた。
これからどんな恥辱を受けるのかと想像するだけで目眩がするし、全身がガタガタと震え出す。クラルヴァイン王国では王族の婚約者となった者は陵辱を受けそうになった際には自死を選ぶように教育をされるというけれど、これから目の前の男たちに陵辱を受けることになるのなら、己の誇りを守るために自死をした方がマシなのかもしれない。
自死を選ぶと言っても武器の一つも持っていない身のため、自分の舌を噛み切るしか方法はない。自分の舌を噛み切るって、想像するだけでも痛そうだし、本当に実行できるかが分からない。
そんなことを考えているうちに、ダーナの脳裏にペトローニオの姿が思い浮かぶ。鳳陽小説のような展開をするのなら、今!この時に助けに来て欲しい!
「私のダーちゃん、可愛い!大好き!愛してる!」
なんていう戯言を言っているくらいなのだから、今!すぐに!助けに来て欲しい!
だけど、現実は小説のようにうまい具合に展開していくわけもなく、ニヤけた笑みを浮かべる浅黒い肌の男は、怯えながら部屋の隅で固まるカロリーネとダーナの方へ毛むくじゃらの手を伸ばして来たのだった。
終わった・・と思ったダーナは自分の目をぎゅっと瞑ったのだが、ダーナが目を瞑っている間にカロリーネは自分のスカートを翻した。
バンッバーンッ
二発の銃声が轟いたかと思うと、
「ハイデマリー!」
カロリーネが大声で叫んだのだ。
立っていられないほどガタガタと震え上がったままのダーナが恐る恐る目を開けると、目の前まで迫って来ていた二人の男が胸から血を流して倒れ込み、隣に立つカロリーネは右手に掴んだ短銃に弾を込め直している。
外から飛び込んできた黒い塊が、呆然とする男の後頭部を蹴り飛ばし、もう一つの黒い塊が剣を振るって二人の男を切り裂いた。
「残念でした!救出するのはアルノルト殿下でもなく、無敵の将軍でもなく、モラヴィアの第三王子でもなく!このハイデマリーでした!」
農民が着るような簡素なワンピースに身を包んだハイデマリーが胸を張ってそう言うと、剣の血糊を拭った男の方が一礼をして、
「こいつら斥候で百人規模の部隊がここに向かっています!今すぐに逃げましょう!」
と、言い出した。
「ハイデマリー、イーライ、絶対に近くに居ると思っていました」
カロリーネはそう言って、ガクガク震えるダーナを抱える様にして猟師小屋の外に出ると、八人ほどの南大陸の人間と共にアダムを含めたモラヴィア人の男が数人、血まみれとなって倒れているのが見えた。
「カロリーネ様、馬に乗って逃げてください」
木こりのような男が馬の手綱を引きながらやって来ると、中年の女が二人にスカーフを渡して、
「着替える暇はないですが、せめて顔だけは隠した方が良いでしょう」
と言い出した。
「え?だれ?」
スカーフを受け取りながらダーナが疑問の声を上げると、
「私の友人であるハイデマリーの母と叔父、そして従兄ということになります」
カロリーネは目の部分だけが出るようにスカーフを頭から包み込むようにして巻きながら答えた。
「この男たち、エルハムから遣わされたと言っていたのだけれど?」
カロリーネの質問に、ハイデマリーは肩をすくめながら言い出した。
「今回、南大陸の国々で連合軍みたいなものを作ってモラヴィアを征服しようと企んだみたいだけど、その旗振りをしたのがバジール王国の第一妃で、その第一妃の手先となってエルハム公女はモラヴィアに潜入をしていたみたい」
すると、後を引き継ぐようにしてハイデマリーの従兄のイーライが言い出した。
「自分をバジール王国に追放するきっかけとなったカサンドラ様やカロリーネ様への恨みつらみが凄いらしい。まずはカロリーネ様を複数の男たちで陵辱をしてやろうと企んだみたいなんだけど」
「そんなことを、殿下が許すわけがないものね!」
ハイデマリーの言葉に、三人の家族がうんうんと頷いている。
「ねえ、ドラホスラフ殿下が私と結婚するために、わざわざ軍事クーデターを引き起こしたって知らなかったのだけれど?」
カロリーネの質問に、ハイデマリーたちは肩をすくめながら言い出した。
「いつかはやると思った」
「猪突猛進の王」
「強情な人だもの」
「あれはやる」
カロリーネは大きなため息を吐き出した。
「その猪突猛進の王はここまでやって来られなかったのでしょう?しかも、私たちを南大陸へ連れて行って慰み者にするために敵が近づいているというのでしょう?であれば、馬に乗って逃げ出すことにするわ」
カロリーネはダーナが驚くほど冷静なままだった。
スカートを捲り上げて短銃を太ももにくくり付けたホルスターにしまうと、ひらりと馬に跨ったのだが、
「馬ですか!」
ダーナは思わず絶叫をした。赤ちゃんの時から太っているダーナが乗るのはいつでも馬車で、馬に乗ったことなど一度もないのだ。
「死にたくないでしょう!」
「今すぐに乗って!」
木こりのおじさんに持ち上げられたダーナはカロリーネの後ろに跨ると、
「ところでアルノルト殿下は何処にいるの?」
と、カロリーネが問いかける。
「殿下は妻子の元にいます!」
「勘違いをしてここまでは来なかったのね!」
チッと舌打ちをすると、カロリーネは馬を走らせながら、
「結局、ヒーローは現れませんでしたわね!」
と、一人でぼやき出したのだった。
毎日うんざりすることも多いのですが、少しでも気分転換となれば嬉しいです!!最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
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