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第七十五話  三鉾の戦い

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 無敵の将軍は北海の鬼とも呼ばれていたのだが、

「なるべく敵軍の兵士を殺さないで貰いたい。殺すなら敵の将官クラスから、金にあかして地位と名誉と麻薬にどっぷり浸かりきっているような奴らは、躊躇なく抹殺してもらっても構わない」

 そんなことを未来の義父から言われて、

「むっず!」

 と、思わずペトローニオは心の中で呟いた。


「内戦を引き起こしたのは、我が国を植民地化したいと企む南大陸から来た商人たちの差配によるものだ。自国民同士で殺し合いをさせて国力を削ぎ落とすつもりでいるのだろうが、我々が敵の思惑の通りに動く必要はない。私が言うのもなんだが、軍を指揮するオルシャンスカ伯爵はズブの素人だ。その伯爵を裏で操るのが南大陸の人間だというのは間違いなく、幹部連中は商人が与える麻薬で頭がおかしくなっているのが実情だ」


 オルシャンスカ伯爵はあっという間に二万を超える兵士を用意したが、それは中央貴族たちがあまりにも横暴なやり方で徴兵を行ったからに他ならない。


「我らシュバンクマイエルがオルシャンスカ伯爵を討ち果たすよりも、新たな侯国の王となるドラホスラフ殿下に討ち取って貰いたい。だからこそ、我らはこの戦いに勝ってはいけないのだ」


 勝ってはいけないだなんて『むっず!』とペトローニオは心の中で呟いたものの、

「義父上の望む通りにこのペトローニオ、シュバンクマイエルの土地を守りきってみせましょう!」

 と、豪語することになったのだ。


 無敵の将軍だったペトローニオとしては、敵は打ち滅ぼしてなんぼのものという感覚があるのだが、今回の義父からのオーダーは、決して敵には勝たずにドラホスラフ王子がやって来るまでひたすら待てというものだった。


 幸いにもファナ妃が浮気者の王子に見切りをつけてこちら側につく事が決定し、諜報組織梟が縦横無尽に動き出す。カサンドラの差配によるものと思われるのだが、連日のように侯都では国を売り渡そうとする貴族たちの悪事がスクープされることになり、平民による侯家の支持が一気に下がることとなったのだ。


 しかも、中央貴族たちは、住民たちから無理やり食料を強奪し、徴兵を行うような形で出兵を決めたものだから、暴動が各所で起こっているような状況なのだ。無理やり大軍を招集したオルシャンスカ伯爵への疑念が大きく膨らむことになる。


 中にはサディレク伯爵の軍を掌握して自軍の停戦を決定したモイミール・ユラセクのような猛者まで現れ出したため、敵は内部分裂の様相を呈し始めてきたのだが・・


「ペトローニオ様!後方に下がっていたクラルヴァインのアルノルト殿下が軍を進発させ、オルシャンスカ軍への衝突を始めました!」

 慌てて駆け込んできた伝令兵の言葉を聞いて、ペトローニオは立ち上がった。


「ダーナ様とドラホスラフ殿下の婚約者であらせられるカロリーネ・エンゲルベルト嬢が誘拐されたとのこと!この話を聞くなり、アルノルト殿下は軍を進発したようです!」

「ダーちゃんが!なんてことなの!」


 その場で一瞬、ペトローニオは目に見える形で震え上がったものの、その後、広げた地図に伝令兵が持って来た情報を記入していった。


 砲撃部隊を編成したクラルヴァイン王国の援軍は千二百、そのうち騎兵部隊四百が敵の陽動の為に動き、砲撃部隊は敵の斥候部隊を待ち伏せする形で砲撃をかけていたのだが、なにしろ勝ってはいけない戦いだったのだ。決して前に出ることがなかったクラルヴァインの王太子が進撃を開始したと言うのなら、それは誘拐された令嬢たちを救出するために動き出したということになるのだろう。


 領堺に展開しているオルシャンスカ軍は離反者が続出していると言っても一万二千はいる。この一万二千を突き抜ける形で妻と子がいる梟のアジトを目指そうとしているのだろうが、突撃する騎兵部隊はわずか四百しかいない。


 途中まで突き抜けたものの、後方から敵軍に包み込まれる形となればアルノルト王子の命も危ない。戦上手と言われるアルノルト王子がただただ、このような無謀なことを実行したとは思えない。


 明らかに、ペトローニオが連動して動くことも予想して軍を進撃させたのだ。

「全軍!今すぐ進発をする!今すぐ全員武器を持て!オルシャンスカ軍を一網打尽にする!」

 その場でペトローニオが叫ぶと、幕舎から散らばるようにして兵士たちが動き出した。


 縦に長いシュバンクマイエルの領地を守るために、部隊は縦に長く配置されていたのだが、その全ての部隊をオルシャンスカ軍にぶつけるために動き出す。


「モラヴィアを滅ぼそうとする逆賊を討つためにアルノルト王子が動き出した!モラヴィアの悪を断つために何故!クラルヴァイン人に一番駆けを許さなければならないのだ!敵の首級を取るのを見過ごさなければならないのだ!」


 馬上にて集まった兵士たちを睥睨しながらペトローニオは大声を上げた。

「ここは誰の国だ!モラヴィア人によるモラヴィアの国ではないのか!」

 大慌てで武器を揃えて集まり出した兵士たちが興奮した様子で声を上げる。


「クラルヴァイン人にだけ活躍させてたまるか!我らモラヴィア人の力で!逆賊オルシャンスカを滅ぼす!」


 そうして剣を掲げたペトローニオに向かって割れるような歓声が湧き起こる。時代が今動くような高揚感、自分たちこそが英雄となれるチャンスが転がっている。そんな思いこそが兵士たちの士気を上げ、軍の迅速な動きへと繋がっていく。


 なにしろアルノルト王子がこちらへの連絡もなしに突っ込んで行ってしまった為、早急に追いかけて援護しなければ王子の命が危うくなる。わざわざ隣国まで援軍に来てくれた王太子がこんな戦場(と言ったら語弊はあるが)で万が一にも死んだとすれば、クラルヴァインは激怒することになるだろう。


「カレル殿!」

 騎兵部隊を率いて走り出したペトローニオは、ダーナの兄を呼ぶと、ダーナの兄カレルは馬を走らせてペトローニオの隣へとやってきた。


「オルシャンスカ伯爵率いる一万二千に騎兵部隊四百でアルノルト殿下が突っ込んだとするのなら、我々もまずは騎兵部隊で敵軍に突っ込むこととする。敵軍の持つライフルも厄介だが、我らがまずは気を付けなければならないのは火龍砲による砲撃だ」


 クラルヴァインは砲撃を得意とするのは有名な話であり、それは海から陸に場所を移動したとしても変わらない。


「新しい火龍砲は野砲としても優秀で、飛距離はモラヴィアの持つ旧式の約二倍と考えて欲しい。敵が餌食になる分には構わないが、我らがそれを喰らってしまっては話にならない。だからこそ、我らはアルノルト王子とは別方向から襲撃をかける」


 アルノルト王子は南から攻撃を仕掛けると言うのなら、ペトローニオは南西から仕掛ける。


「ドラホスラフ殿下が侯都を落としたと報告があった」

「早いですね」

 ドラホスラフ王子は想定よりも十日も早く侯都を占領したということになる。


「殿下は侯都に留まらず、動くと思う」

「ええ?まずは新しい侯国の王として侯都に留まるのでは?」

「カロリーネが誘拐されたのよ?絶対に動くに決まっているじゃない!」

「お・・女の為にですか?」


 侯都を落としたと言うのなら、王権を侯王から奪い取ったということになるのだろう。であるのなら、権力が集中する王城にまずは留まることを選ぶのだろうが・・

「絶対に動くわよ!あんた!あの男が何のために侯王になろうと思ったか分かっていないわけじゃないでしょう!」

 ペトローニオは遂にお姉様言葉で叫び出した。


「私だってねえ!何のために今戦っているかって、ダーちゃんの為に戦っているのよ!カサンドラの為に王子が戦線を突き抜けて離脱するつもりだと言うのなら、私だってやっちゃうわよ!私は途中まではお付き合いするけれど!後はカレルお兄様に任せてダーちゃんを助けるために抜けるから!後のことは任せるわよ!」


「いやいやいや!そんな!困りますよ!」

「困るじゃないわよ!モラヴィアのことはモラヴィア人で始末をつけるって言ったでしょう!」

「それは貴方が言ったんじゃありませんか!」

「私に流れているモラヴィアの血!四分の一程度のものなのよ!生粋のモラヴィア人のお兄様!頭領息子!頑張ってちょうだいよ!」

「ええ〜!」


「大丈夫よ!絶対に侯都から援軍がやって来るから!三方向から攻撃された敵軍はすぐに瓦解するわ!」

「ええええ〜!」


 結局のところ、カロリーネが誘拐されたと聞いたドラホスラフ王子はすぐさま侯都を出発し、途中で王子からわかれた部隊はオルシャンスカ軍を壊滅するために動き出す。ペトローニオの想定の通り、オルシャンスカ軍は三方向から攻撃を仕掛けられることになったのだ。先陣は歩兵部隊が担うのが定石だというのに、この戦いでは騎兵部隊が先陣を切る形で敵を蹴散らした。


 三方向から突撃を受けたその様子は三方向から三つの鉾で貫かれたような形となったため『三鉾の戦い』として歴史に名を残すことになる。数では遥かに勝るオルシャンスカ軍であれば、盾となるように何重にも歩兵部隊を並べライフルによる攻撃を仕掛ければ防げたものの、士気の低さと練度の低さであっという間に瓦解した。そもそも、総指揮官となる伯爵の技量自体が無いようなものだったのだ。侯都が落とされ新しい侯国の王にはドラホスラフ王子が即位をするという情報まで出回っていた為、多くの兵士が戦いもせずに降伏することにもなったのだ。


また物の値段が高くなるそうで、うんざりする日々が続きますが、少しでも気分転換となれば嬉しいです!!最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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