第七十一話 お高くとまった女
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プライドの高い女ほど「私だけが悪いの?」という形で終わることを良しとしない。不本意ながらも『謝罪』が必要なら、目撃者がいる中で『謝罪』を行って周囲へのアピールを忘れない。
「どうぞ、謝らないで下さいませ。私にも悪い部分はあったのですから」
プライドが高い女は、この言葉を必ず望む。ダーナの父親が宰相という職に就いていたとしても、自分の方が遥かにダーナより位が高いと考える。だからこそ『私にも悪い部分はあったのですから』という言質を取りたがる。
プライドが高い女が『謝罪』をするということは、どうしても『謝罪』をしなければならない事態に追い込まれているということだ。「なぜ、私が謝らなければなりませんの?」という思いが根底にあるからこそ、自分が謝罪して、はい終わりということにはなりづらい。
なにしろプライドが高いから、自分が悪かったというだけで終わりたくはない。だからこそ『私にも悪い部分はあったのですから』という言質を相手から取りたがる。衆目の前で謝罪を行い、あのカロリーネ様が、わざわざあのデブの為にお茶の席まで用意をして謝罪をしているなんて!と、思わせる。
ダーナが見たこともない侍女が給仕についているということは、カサンドラ側の人間ではなく(ダーナはカサンドラの寝転んでいる部屋に書類を持って通っている所為で、カサンドラ専属の侍女たちの顔まで覚えてしまっているのだ)ファナ妃殿下お付きの侍女ということになるのだろう。
第一王子の妃であるファナは亡国とはいえトウラン王国の姫君だったのだ。王族というステータスに憧れを抱く女はアピールを欠かさない。あのデブに謝罪しているカロリーネ様!エライ!エライ!と、侍女たちに思わせれば、侍女たちの反応はファナ妃に伝わる事になるだろう。そうしたら、
「私の言う通りに謝罪しましたのね?カロリーネ様、えらい!えらい!」
と言って、ファナ妃はカロリーネ嬢を『いいこ』『いいこ』するのだろう。
犬か、遠くに投げたボールを拾って帰ってくる犬か、だったら勝手にボールを拾ってご主人様のところへ戻ればいい。何故、しつこく絡んでくるのか、うざい!本当の本当にうざい!
「ダーナ様、本当に、待ってください!誤解があるんです!」
「何の誤解があるというのですか?」
ダーナは恭しく頭を下げながら言い出した。
「謝罪の件は(なんのことか全く分からないままだけれど)きちんと受け取りました。間違いなく私にも悪い部分はあったのでしょう。ですから、私の方からも謝罪を申し上げます。本当に申し訳ありませんでした」
「どうしてそうなるのですか!そうじゃないです!そうじゃないんです!」
うぜーっ。
「私は決してあなたに謝罪させたいわけじゃないのです!」
自分は謝罪を強制してないアピールありがとうございまーす。
「私はペトルお姉様とダーナ様が会った時に!」
「もう結構です」
さっきからカロリーネがペトローニオのことを『ペトルお姉様』と呼んでいることに言い知れぬ苛立ちを感じていたのだ。それが不眠による苛立ちなのか、お姉様呼びをして私の方が仲良しなのよ!アピールがウザかったのか、どちらなのかは分からないけれど、言葉には表現できない類の不快感を感じたのは間違いない。
「本当に!もう!結構です!」
良く分からないアークレイリ人の二十八歳の元将軍様が、何故だかデブった自分のことを気に入ったという事実は理解しているし、お姉様言葉でグイグイ来るアークレイリ人にグイグイ押されて流されていることにも気が付いている。
今まで異性から純粋な好意など向けられたことがないダーナの豊かな胸の奥底にある心臓がドキドキしたのは間違いないし、そんなドキドキには目を向けないようにダーナはしていたのだ。
カロリーネのように『妖精姫』と呼ばれるほど儚げで可憐な容姿をした人間なら、誰もが好意を持って近付いていくだろう。王太子妃カサンドラの右腕とも言われる令嬢だったのだ。多くの人間がその琥珀色の瞳に映り込もうと望んでいたのに違いない。
「うわっ!デブッ!」
「ないわ〜」
そんなことを言われ続けたダーナとは大違い。誰も周囲にはいないダーナと多くの人に囲まれたカロリーネ、そんなカロリーネは、ダーナを好んで近付いて来た変人ペトローニオでさえも自分のものだと主張をしたいということだろう。
「貴女のペトルお姉様とやらには近づきませんし!今後一切話など致しません!私のことなど気にせず、楽しく!面白おかしく!人生送ってください!それでは失礼致します!」
そう言ってダーナはサロンを飛び出した。
カロリーネのようなお高くとまったお嬢様は使用人たちが使う通路や廊下など忌避するのに違いない。だからこそ下級使用人が利用する小さな通路から倉庫の前を通り過ぎ、洗濯場を横断し、裏口から外へと出て裏庭の奥まで突き進んだダーナは、膝に手をついて荒い息を吐いた。
「ハアッ・・ハアッ・・クソほどしつこいお嬢様・・」
「ダーナ様!聞いてください!」
ダーナに追い付いたカロリーネが後ろからダーナの腕を掴んだので、ダーナは心の中で悲鳴を上げた。早い、早過ぎる、追いかけて来るのが早過ぎる!
「貴女様がドラホスラフ様の正妻で、私が愛人枠となるのは十分に理解しております!愛人枠の私のことをダーナ様が憎んでいるのも分かります!ですけど!そうなんですけど!私はペトルお姉様・・いえ、ペトローニオ様と貴女のことを茶化してどうのこうのと言いたい訳じゃなかったんです!ただ!ただ!羨ましかっただけなんです!」
カロリーネは半泣きになりながら言い出した。
「ダーナ様、貴女はドラホスラフ様の妃となる上に、私が尊敬するペトローニオ様を一発で恋に落とすほどの力の持ち主じゃないですか!いいな〜って思うじゃないですか!いいな〜って思いますよね?羨ましいな〜って思っちゃっただけなんです!そこに嫌味とか恨みとか、そんなものが含まれていたわけじゃないんです!ただ、ただ、羨ましいな〜って思っただけなんです!」
ダーナは驚きのあまり、しばらくの間硬直していた。驚きのあまりしばらくの間、思考も停止し続けていたのだ。すると・・
「キャアアアアッ!ダーナ様!お逃げください!」
ダーナの目の前に立つカロリーネが悲鳴を上げるのと同時に、頭に激しい痛みを感じたのだった。どうやら頭を殴られたようで、額を生ぬるい液体が流れていく。
そうしてダーナの意識は暗闇の中へと沈んでいってしまったのだった。
台風対策をして待ち構え続けていたのですが、うちの方面はシトシト雨で終わってしまいました。地域によっては豪雨豪雨で外にも出れない状況とのことですが、少しでも気分転換となれば嬉しいです!!最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
もし宜しければ
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