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第六十九話  カロリーネという女

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 最初の方でこそ、ペトローニオのお節介のお陰で食事だけはきちんと摂っていたダーナだったのだが、ペトローニオが何かをカサンドラに頼まれて出かけて行った後は、食事を抜くことも増えていた。だからこそ、樽のように太ったダーナは大分痩せたと言えるだろう。


 激務、激務で何日徹夜をしていたのかも最近では忘れてしまうほどなのだ。気絶したように寝て、起きたらまた目の前に積み上がった書類に手を伸ばす。ペトローニオが置いていったフカフカクッションがあったから良かったものの、あれがなかったらダーナのタップリと肉が付いたお尻は床ずれを起こして壊死を起こしていた可能性は非常に高い。


 鬼の王太子妃から投げられる仕事も山積みとなり、不眠不休で働いていても仕事が一向に減らない。今までは樽のように太っていたダーナは、急に痩せたために皮が伸びて、皮にシワが寄ったぽっちゃり体型に変化したと言えるだろう。


 今、ダーナが着ているドレスだって、何日前から着ているか分からないものなのだ。そういえば、王族(隣国の王太子妃)の前に出向いていたというのに、この格好はまずかったかもしれない。相手が毎日お仕着せ姿だから特に考えもしなかったのだが、今、眩しいばかりに美しいカロリーネを目の前にして『恥』という概念がダーナの中に蘇ってきた。


「あの・・ダーナ様・・私、ダーナ様とお話をしたくて・・」

「は・・話ですか?」


 カロリーネという女はとにかく細い、針金のように細く見える女だった。細いのに出るところは出ていて、儚げな笑みがとっても麗しい。新緑の髪の毛に琥珀色の瞳が神秘的にも見えて、さすがは隣国で『妖精姫』と呼ばれることも多い人だ。『樽女』と呼ばれるダーナとは生きている世界が違うとも言えるだろう。


「わ・・わ・・私・・今・・とっても忙しくて・・」


 後退りをしたダーナは動悸息切れを感じながら、カサンドラから渡された書類の束を力いっぱい握り締めていた。なにしろダーナは覚えている限りでここ三日程、着替えすら満足に行ってはいないのだ。


 ということは、臭い?臭いよね?デブの体臭、かなりのものだと自分でも自覚しておりますのよ?ヤバイ・・ヤバイですわ!脂汗が背中を流れているものだから、ますます悪臭が噴き出ている状態になっているかも・・


 おデブはとかく痩せるのは簡単なのですよ、途中まではという前提条件付きとはなりますけれどもね?とにかく、おデブは痩せるとシワが寄るのです。こう、肉がこそげ落ちて皮だけ余っちゃったみたいな感じ。


 それに脂分が汗と共に滲み出てくるので、匂いがアレなの。くっさいおじさんたちと至近距離で話すならまだしも、うら若き女性の前へ出てこの醜態を晒す?そんなこと、ちょっと出来そうにもありませんわ!


 いつの間にか輜重隊の調整室室長みたいなものになってしまったダーナは、数多のおじさんたちを部下として使って働いているのだが、自分も臭けりゃ周りも臭いので、

「今は戦時下だから仕方がないことなのよ!」

 と言って自分を無理やり納得させていたのだ。


 ペトローニオが置いていったフカフカクッションも今ではぺたんこクッションに変貌し、お尻の下に敷き過ぎていたがために、脂汗を吸い取って物凄い悪臭を放っているということにも気がついているし、自分の脇の下から物凄い悪臭が漂っていることにも気が付いている。だけど・・だけど・・本当の本当に、入浴する暇があるなら寝ていたかったのだもの!仕方ないと思うのよね!


「あの・・ダーナ様・・私はそこまで貴女を怒らせてしまったのでしょうか?」


 カロリーネが進む度に後ろにさがって行くダーナを見上げて、カロリーネの琥珀の瞳にもりもりと涙が盛り上がっていく。


「本当に、ダーナ様を傷つけるつもりなんてなかったのです!私の無配慮な発言が貴女様を傷つけることになったことを、深く後悔しているのです!」


 そう言って無理矢理両手を掴まれたダーナは、

『ヒィイイイイイイイイッ』

 と、心の中で叫びながら仰け反った。そんなダーナの姿を見てカロリーネの頬を涙が流れていく。ついに限界まで盛り上がった涙は決壊してしまったらしい。


 カサンドラが寝転んでいる部屋から仕事部屋まで続く廊下の途中で、カロリーネがポロポロと涙を流していることからダーナが虐めて泣かしているようにも見えるだろう。


 そういえば・・学生時代にもこんなことがあったのだ。

 あれもまた、

「ダーナ様!私はダーナ様に謝罪したいと思っているのです!」

 と言って、涙を流しながらダーナに対して縋り付いて来たのだが、一体何に対して謝罪をしているのか分からないまま呆然としているうちに、周りに集まった生徒たちが言い出した。

「ああ、またデブが無意味に人を謝らせているみたいだぞ」

「あいつ、親が宰相だからってやりたい放題だよな」

「なんで謝罪されているのに無視してんのか、わけ分かんねえんだよなあ」

 そこからダーナが悪いの一択状態となり、結局、泣いて謝って来た女は悲劇のヒロインとして慰められることになったのだ。

 

「深く後悔しているのなら、その手を離してくださいませんか?」

 何処にでもこういう女は居る。

「それに、突然、謝られても私は何について謝られているのかが分からないのです」

 ダーナが厳しい口調で、周りを通りかかった人間に聞こえるように声を上げると、カロリーネは慌てた様子で手を離す。


「とにかく、何が悪いのか、何についての謝罪か全く分からないので、きちんとお話をした方が良いとは思うのですけど、私にも色々と仕事があるのです」

「仕事ですか?」

 ぽかーんとしているカロリーネの首を絞めて殺したくなったのは仕方がないことだとダーナは思う。

「そう、とにかく忙しいのです。ですから2時間後にサロンでお話を聞くという形でも宜しいでしょうか?」

 ダーナは目の前のカロリーネを親の仇のように睨みつけながら言い出した。

「私、これでも忙しい身ですので!」

 ぽかーんと口をあけていたカロリーネは、慌てて自分の口を閉じて涙を拭うと、

「そうですよね!忙しいですよね!申し訳ありません!それでは2時間後にサロンでお待ちしております!」

 と、言って妖精のような顔に笑顔を浮かべた。


 自分が可愛らしいと思っている女は自信満々で笑顔を浮かべる。淑女として失礼にならない程度に調整しながらの笑顔には年季のようなものを感じるものの、

「チッ」

 寝不足で心の余裕など麦の粒一粒ほどもないダーナは舌打ちしながら仕事部屋ではなくちっとも帰っていない与えられた客間へと移動をすることにした。


 今から入浴をして髪を洗って、髪を乾かして、それなりに化粧をして・・いやその前に、カサンドラに言われたことを部下に報告して輜重の手配をストップしなければならない。

「クソーーーッ」

 ダーナが汗水垂らして集めた食料の分配は取りやめとなったのだから、努力が泡となって消えたような徒労感だけが残っていた。


台風が来る、まだ来ない、来る、まだ来ない、一体いつ来るの!!というか、どんな規模?とお悩みのあなた、少しでも気分転換となれば嬉しいです!!そして最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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