第六十八話 猫のようなカサンドラ
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猫は一日に14時間も寝ているという。宰相の娘ダーナの家でも猫を飼っているのだが、見かける度に寝ているし、起きていると思ったら大きなあくびをしていたりするのだ。
「ふわぁあああああああ」
見かける度に、ソファの上で寝転んでいるカサンドラは猫のような人だった。ダーナの前でカサンドラは大きなあくびを一つすると、書類の束をダーナに渡しながら言い出した。
「クルムロフの街に食糧支援を送ろうということだったけれど、こちらの領主一家はどっぷりオルシャスカ伯爵側についている上に、娘が麻薬中毒患者だというの。戦争による食糧の徴収を無理矢理行ったことで困窮者が山のように出ているような状況なのだけれど、ここは騒動を起こしたい場所だから、このまま困窮させて平民による暴動を引き起こしましょう」
暴動を起こしましょうと言って、簡単に引き起こせるものなのだろうかと、ダーナは疑問に思うのだ。それに、暴動を引き起こすために食料を送るのを止めるとなると、せっかくダーナが汗水垂らして用意した食糧の行き先が無くなることになる。食糧を運ぶルートも決定し、輜重隊の準備も出来ているという段階での中止発言に、ただでさえ寝不足状態のダーナに大きなダメージを与えた。
お仕着せ姿でソファに寝転がっていたカサンドラは、お付きの侍女にテーブルの上へ地図を広げるように指示をすると、朱色のインクに浸したペンで大きく丸を描きながら言い出した。
「南大陸人がモラヴィアを植民地とするために、あえて、内戦が大きくなるように仕向けている訳なのだけれど、この南大陸の人間との交流が多く、オピ(麻薬)に汚染されているような人間が治めている場所がこの複数の丸印のところだと覚えておいてちょうだい。中央貴族の中にもこちらの方へ転んでくれる人間も居るようなので、まずはそちらとの連携を強化して、オルシャンスカを裏切る貴族を増やしていくことにします」
ダーナは地図に記された丸印を眺めて思わずため息を吐き出してしまった。
「私の予想の中では麻薬に汚染されている貴族はもっと多いと思うのですが、この丸印で囲んでいる場所には特別な何かがあったということでしょうか?」
「麻薬の集積所があった場所なのよ」
カサンドラはホッとため息を吐き出しながら言い出した。
「その麻薬の集積所を燃やして歩いたので、奴ら、かなり困っている状態のようね」
「えーっと・・」
国内にこれだけの数の麻薬の集積所があったのかという驚きと同時に、それを燃やして歩いたとは・・まあ、カサンドラ妃が自分で燃やして歩いたわけではなく、誰かに燃やすように命令したということになるのだろうけれども。
「次の宰相だと言われるオルシャンスカ伯爵に顔を売るために、というだけでなく、侯王の命令で仕方なく出兵をした貴族たちもそれなりの数いるような状態なのだから、主人がいない領地で平民による暴動が起こったなどという情報が入ったら落ち着いてはいられなくなるでしょう。更には領主邸が焼き討ちにあったと聞けば、戦線に出ている貴族たちは自分たちの領地が心配になって気もそぞろとなるでしょう?」
「だからこそ、クロムロフには食料を送らないということですか?」
「ずーっと送らないというわけじゃないわ。領主邸が燃えて略奪があらかた終わった後に、物資をドラホスラフ殿下の名前で送り込むことと致しましょう」
そう言ってにっこりと笑うカサンドラを見て、ダーナは思わずため息を吐き出した。
「本当に、ドラホスラフ殿下に侯王の座を簒奪することなど出来るのでしょうか?」
「出来なければ困るわよ!うちがどれだけ殿下に投資していると思っているの?」
「でも、あのドラホスラフ殿下ですよ?」
ダーナの中ではドラホスラフ王子は根暗で影が薄い王子だったのだ。いつでもダーナの隣にいて、もしゃもしゃの髪の毛で顔半分が隠れていて、いつでも静かに本を読んでいるような王子様が王位を簒奪するなんて・・ダーナには絵空事のようにしか思えないのだが・・そのドラホスラフ殿下が辺境の地から兵を率いて出発し、負け無し状態で南下を続けているらしいのだ。
「それもこれも、愛の力って奴なんじゃないかしら?」
カサンドラがホウッとため息を吐き出しながらそんなことを言い出したため、ダーナは顔を顰めて目を瞑った。
父であるウラジミール・シュバンクマイエルを討伐しようとオルシャンスカ伯爵が何万という兵士を率いて侯都を出発することとなったのだが、これほど早い時間で出兵の準備が整ったのは裏で南大陸の商人が暗躍していたからに違いない。
モラヴィアを植民地にしたいと考える南大陸の人間からすれば、内戦は拗れれば拗れるほど良い。長引けば長引くだけ国力を削ぎ落とすことになり、征服するのに容易くなるからだと言える。
そんな訳で、大急ぎで食料と兵士をかき集めたオルシャンスカ軍は意気揚々とシュバンクマイエルの地に襲撃をかけたのだが、圧倒的劣勢である宰相の軍にクラルヴァインの砲撃部隊が参戦をした。
それでも数で押している状態だったオルシャンスカ軍に横腹を突くような形で襲いかかったのが無敵の将軍と言われるペトローニオ率いる侯国軍であり、この時点で中央貴族に加わっていた侯国軍が離反をしたということになる。
なにしろ怪しい南大陸の人間が軍の上層部が居る幕舎を出入りしているし、武器なども南大陸の人間が運んでくる訳なのだが、それが後の植民地のための布石なのだとすれば、今戦うことに異を唱える者も出てくることになる。
徴兵されて無理やり戦わさせられていた多くの兵士が騒ぎ出し、その動きが一つの渦となるところで、オルシャンスカ伯爵の肝煎りとなる貴族の領地で暴動が起こることになる。
さて、麻薬に頭がやられた人間にどれだけ正常な判断が出来るかどうかというところで、ドラホスラフ殿下が怒涛の勢いでそろそろ侯都入りをするのではないかという噂まで流れ込んできた。戦いは佳境といったところで、ダーナの忙しさもピークに達しているところでもあったのだが・・
「あの・・ダーナ様・・」
後ろを振り返ると、何やらモジモジしているカロリーネ嬢が上目遣いとなってダーナを呼び止めて来たのだった。
猛暑だ台風だと報道がすごい日々ですが、食中毒になりまして、更新出来たり、出来なかったりが続くかと思います。本当に暑い日が続いて、外食だから大丈夫でしょう!なんて思ってもですね、鳥刺しでカンピロバクターにうっかりやられてしまった訳です。みなさまも食中毒にはお気をつけて!そんなわけで、うんざりする日々が続いている今日この頃ですが、少しでも気分転換となれば嬉しいです!!最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
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