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第六十六話  女はとかく話が長い

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 トウラン王国の姫君だったファナはモラヴィア侯国に求められる形で第一王子であるブジュチスラフの婚約者となったのだが、幼い時からブジュチスラフ王子はファナに夢中で、

「僕の大事な大事なお姫様」

 そう言って、ファナの頬に優しくキスを落としてくれたのだった。


 暴君による政治が長く続いたトウラン王国は徐々に衰え、遂にはクーデターで滅ぼされることになるのだが、モラヴィアに逃れて生き残ったファナを引き渡すように、再三の通告があったのにも関わらず、

「絶対に!絶対にファナをあんな奴らには渡さない!ファナは私の唯一の妻なのだ!」

 と、ブジュチスラフは宣言し、周囲の意見を抑える形でファナを自分の妃にしてしまったのだった。


 二人の結婚式こそがまさに幸せの絶頂であり、その後は転がり落ちるように地獄を味わうことになったのだ。とにかくお優しいブジュチスラフは誘われればどんな女とも寝るような男だったのだ。


「どうか!どうか私と離婚してください!」

 その言葉を何度言ったか分からないが、頑なにブジュチスラフは離婚をしようとはしない。それが何故かと言うのなら・・

「今更、どこかの姫君を妃として迎えても、今のように自由に振る舞うことなど出来ないだろうから、亡国の姫君は何の後ろ盾もなければ発言力もないのだから、非常に都合が良いことこの上ない」

 ということになるらしい。


 国王が馬鹿であれば、あっという間に滅びてしまうというのはトウランで経験済みなのだ。ファナの感覚としては、モラヴィアもそう長くはないと言えるだろう。だったら今度は国と共に滅びてしまおう。それこそが私の運命だったのかもしれない。


 そう考えていたファナの元に親梟を引き継いだブノワ・セルヴェがやって来て、ファナの手を両手で握り締めながら言い出したのだ。


「ファナ様、王族としての身分はもう十分に堪能されたでしょう?であるのなら、後の人生は私に下さいませんか?私と一緒にクラルヴァインに行きましょう」


 クラルヴァインには風光明媚な海辺の田舎町というものがあって、トウランの避暑地に良く似た場所なのだというのだ。そこに男爵身分で移り住み、領地経営をしながら生きていきませんか?と言われたのだが・・


「何それ!最高じゃない!」

 ファナはブノワの話に飛び付いた。

 小さな田舎町の経営に関わることが、幼い時からのファナの夢だったのだ。


 モラヴィアの王宮を抜け出して来たファナは幾つもの梟の拠点に顔を出しながら、今後の方針なども話し合った末に、クラルヴァイン王国から庇護を受けることを条件に梟の力をクラルヴァインに差し出す案を受け入れることにしたのだった。


 丁度、王太子夫妻がモラヴィア国内に居るということで、クロムロフの森にある別荘へと赴くことになったのだが、息抜きで散歩をしているファナは酷い顔色で落ち込んでいる様子のカロリーネを見つけることになったのだ。


「モラヴィアの男は、女を都合の良いように扱う習性みたいなものがあるのじゃないかしら?」

 都合よく使われながら、長年放置され続けてきた第一王子の妃がそう言うと、

「私なんて祖国から無理やりモラヴィアに連れて来た上でポイですし、自分がやりたい時だけやって来るヤリモクでしか接触されない、ザ・都合が良い女です」

 悲壮感たっぷりの様子でカロリーネは言い出した。


「私はモラヴィア訛りの男に碌な奴はいないのだと思うのです」

「まあ!奇遇ね!私も本当にそう思いますのよ!」


 二人はガッチリと両手を握り合うと、互いの話に夢中になってしまったのは言うまでもない。モラヴィア侯家の男が振り回すのがお家芸としているのなら、その最も近くで振り回され続けたのは彼らの伴侶ということになるだろう。


「ファナ様!ファナ様のお気持ち良くわかります!」

「カロリーネ様!貴女もよく今まで耐えられましたね!」


 散歩に行ったまま何処に行ったのか分からなくなってしまったファナを探していた親梟ブノワ・セルヴェは、ガゼボで手を握りながら話し続ける二人の姿を見て『同類愛憐れむ』『傷の舐め合い』『労わりあい』『支え合い』という言葉が頭の中に思い浮かんでは消えていった。


 モラヴィア侯国の建国の王ヴォイチェスラフは猪突猛進の王として数々のエピソードを残して来た王ということになるのだが、有名すぎる建国の王の話を聞きながら育って来たモラヴィアの人間は『侯王に振り回されるのは当たり前』という価値観みたいなものが出来上がっていることに驚いてしまうのだ。


『侯家が周囲を振り回すのは当たり前、何故なら建国の王ヴォイチェスラフの血を引いているのだから仕方がないことなのだ』


 この考え方が諸外国からやって来た人間には到底理解が出来ないし、何でも許される侯王の所為で国がしっちゃかめっちゃかになっているというのに『仕方がない』で終わらされることに解消しきれないモヤモヤを抱えることになるのだ。


 外側に居る人間ですらこう考えるのだから、第一王子の妃となったファナや、第三王子の婚約者になったカロリーネには、今まで口から吐き出すことが出来なかった色々な思いがあるのだろう。


 これは長くなるだろう・・そんなことをブノワ・セルヴェが考えていると、

「お茶をお二人にお持ち致しますね」

 と、言って、部下のマレーネがお仕着せ姿となって茶と茶菓子をガゼボへと運ぶ。そうして戻って来るかと思いきや、マレーネまでもが椅子に座り込んで二人の話に交ざり始めているではないか。


「ああ・・女は一度話し出したら止まらないとは言うけれど・・」


 モラヴィア侯国内で内戦が始まった。南大陸の商人たちはどう動くのか、隣国クラルヴァインや北辺の国アークレイリがどう動くのかを判断し、生き残るために動いていかなければならない今この時に、トウランの生き残りの姫は楽しそうに話に夢中になっている。

 


猛暑、猛暑と記録的夏日の報道がすごいです。本当に暑い日が続いてうんざりするのですが、少しでも気分転換となれば嬉しいです!!最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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