第六十四話 ただ羨ましかっただけ
ここからカロリーネの回になります!お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。
話は少し前へと遡る。
クラルヴァイン王国の王立学園に通っていたカロリーネは、王太子の婚約者であるカサンドラの右腕と呼ばれるほど側近くに仕え、それなりに忙しい学園生活を送ることになったのだが、
「ねえ、ねえ、あの方ったら」
「んまぁ!恥ずかしくないのかしら!」
「あんな格好で学園に来るなど、学園の品位を落とすようなものですわ!」
と、貧しい貴族家の娘が言われているのを見たことがあるし、
「嫌だ、あの方がいらっしゃるなんて聞いていなかったのだけれど・・」
「一緒に居るだけで仲間のように思われるのが嫌だわ」
「こっちの方に来ないで欲しいのだけれど」
と、容姿が凡庸と言える程度の令嬢をこき下ろすようにして言い合っている令嬢たちを見たこともある。
彼女たちは、相手のことを見た目と親の爵位で判断するようなところがあり、自分たちよりも明らかに劣ると判断した場合には、陰口を叩き続けるようなことをしていた。
家が傾いているとはいえ自分に誇りを持っているカロリーネとしては、誰かを落とすことで自分自身を底上げしたいと願う心理が全く理解出来なかったし、
「あなたたちは、自分よりも爵位が下の人間ばかりを捕まえて嘲笑うようなことをしているようだけれど、であるのなら、カサンドラ様と比べたら容姿は遥かに下、知能も遥かに下、爵位も、もちろん下ですわよね?でしたら、私たち三人であなたたちに対して今と同じようなことをしてやろうかしら?だって、そうしても良いということですものね?」
と、いうようなことを直接言ったこともある。
「私たちは・・そんなつもりはなかったのです・・」
と言って、令嬢たちはカロリーネの前では平身低頭謝ってはいたけれど、影に回っては、
「事業に失敗した落ち目の侯爵家のくせに!カサンドラ様という虎の威を借る狐とはカロリーネ様のことに違いないわ!」
と、言っているのも知っている。
カロリーネの後ろからカサンドラやドラホスラフが現れると、途端に黙り込むけれど、落ち目のカロリーネを自分たちよりも下だと判断する令嬢もそれなりに多かったのは間違いない。
多くの女性は上とか下とかランク付けをして、
「私こそが素晴らしいのよ!」
と言って、心の中で安心したいところがあるようだ。カロリーネは誰かを下に持ってくるとか、誰かを蔑みながら利用するとか、落っことすとか、そんなことを自分は絶対にやらないぞ!と心の中で誓っていたところがある。
だからこそ・・
「カロちゃん!ごめんなさ〜い!本当の本当に悪いのだけれど!しばらくの間、私に話しかけるのストップしてくれるかしら〜?」
と、ペトルお姉様に言われた時には、なんでお姉様がそんなことを言い出したのかが理解出来なかったのだ。
「なんかね、私の大好きなダーちゃんが、またまた自分が当て馬に利用されて、私とカロちゃんがラブラブでくっつく恋のアクシデントに使われているんじゃないかって妄想しているところがあるみたいなの〜!」
カロリーネは心の中で呟いた、お姉様?お姉様の言っている言葉の意味が理解出来ないのですけれど・・と。
「カロちゃんったら、私がダーちゃんと挨拶した時に、私が恋に落ちた〜とか何とか物凄く余計なことを言い出したじゃない?あの子、そういう当て付けをされて周りの人間から嫌な思いを散々されてきた娘だから、私のことを変な意味で勘ぐるようになっちゃったのよ〜」
カロリーネはペトルお姉様とはそれなりの付き合いなので、ペトルお姉様が物凄くお怒りになっていることには気が付いた。
「ダーちゃんはね、カロちゃんとカサンドラが二人でつるんでダーちゃんを虐めの対象にしたのだと思ったの。私がダーちゃんに惚れた〜とわざとらしく騒いで、ダーちゃんが私に対して何かしらのアクションを取ったら、醜い貴女が何を勘違いるんだと馬鹿にするつもりだったと思っていたのよ」
「ええ!私にそんなつもりは一切ないのに!」
「でもね、普通、あの場で私がダーちゃんに対して好意を向けているなんてことを口に出して言うのかしらって思うのよ?例え思ったとしても、普通の人間だったら心の中に収めておくものじゃないかしら?」
ペトルお姉様は物凄く怖い顔となって言い出した。
「申し訳ないのだけれど、世界はカロちゃん中心で回っているわけじゃないし、貴女が世界の主人公でもないの。周りの人間はそれぞれ思いを抱えて生きているのだから、お互いにリスペクトは必要じゃなくて?」
世界が自分を中心で回っている?
「私は世界は自分を中心にして回っていると思う時はあるわね」
相変わらずお仕着せ姿でフロリアン王子を背中におんぶしているカサンドラは、寝ぐずりしている自分の子をあやすように、その場で足踏みをしながら言い出した。
「本来、王太子妃が赤子をおんぶすることなど許されるはずもないのだけれど、世界は自分を中心に回っていると思っているからこそ、自分の考えをゴリ押ししたのよ。おんぶが子供の情操教育にどれほど良いかということを国王陛下にも王妃様にも直接説明をした上で、最終的には夫が責任を持つということで許されたわけだけれど、自分の勝手をゴリ押しして通す!まさに自分中心に考える王太子妃という感じよね」
カサンドラはそう言ってニヤリと笑ったのだが、カロリーネは首を激しく横に振るしかなかった。
「一番の問題は、揶揄するような発言をした私自身にありますの!ペトルお姉様がダーナ嬢に一目惚れした姿を見て、思わず口を開いた私が悪いのです!悪いってことは分かっているのですが、だって・・だって!羨ましかったんですもの〜!」
羨ましくて、羨ましくて、思わず言葉を漏らしてしまったのだ。
人が恋をする瞬間を見て、心の奥底から羨ましいと思ってしまった。
カロリーネがドラホスラフ王子との婚約を進めたのは、落ち目の侯爵家であっても隣国の第三王子くらいであれば、まだ可能性があると思ったから。一目見て恋に落ちたとかそういうことでは決してなく、一目見て、
「あ!この人だったら(ちょうど)良いかも!」
と、思ったから。
落ち目と言われるエンゲルベルト侯爵家だけれど、その娘が隣国の王族に嫁ぐとなれば、エンゲルベルト侯爵家に箔が付くのは間違いない。これで隣国との貿易に侯爵家が深く食い込むことが出来れば、起死回生のチャンスになるかもしれない。
だから、遥か大陸の東の方では植林事業が行われているのだと教えたのだ。無計画で伐採をし続けてきたモラヴィアは天災に見舞われて大変だと言われているけれど、それはあらかじめ予防が出来ることを知っていたから、その知識を餌にしてドラホスラフ王子を釣り上げた。
ペトルお姉様のように一目惚れをしたわけでもなく、ただ、ただ、打算で王子に近付いただけのことなのだ。そんな王子様に今は振り回され続けているけれど、所詮はヤリモク(やるのが目的)で付き合っているだけのことなので、いずれは捨てられることになるだろう。
そうしたらペトルお姉様と一緒に芸術の都ポアティエに行こうと思っていたのに、ペトルお姉様は恋をしてしまった。そのお相手は宰相ウラジミール・シュバンクマイエルの娘ダーナ嬢ということになるけれど、才女として有名なダーナ嬢はペトルお姉様にはピッタリだと思う。何しろ計算が苦手なペトルお姉様は、大事な帳簿の整理を有料でカロリーネに任せているほどなのだ。帳簿関連の仕事がとにかく苦手なお姉様をフォローするのならば、有能なダーナ嬢はちょうど良いと言えるだろう。
自分の代わりにダーナが見出されることになったことに激しい嫉妬を燃やしたとか、ペトルお姉様と一緒に居られるのは自分だと激しい怒りを感じたとか、そういうことでは決してなく、ただ、ただ、
「羨ましいな〜」
と、カロリーネは思っただけで、ついつい、言葉が漏れちゃっただけ。
周りは結婚ラッシュで一人だけ残されていく中、ただ、ただ、ダーナのことが羨ましかっただけで、まさか、自分がそんな誤解を受けているとは思いもしなかったのだ。
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