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第六十三話  人馬の盾と建国の王

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 軍団将軍であるロビン・ドウデラはとにかく厳つい大男なのだが、

「おい!そこの命しらずの小僧!お前らの部隊はそのまま残れ!命令だ!」

 と、肉の盾を問答無用で道の端の方へと追いやられているダヴィド・ヴィテークに声をかけた。


 その間にも空いたスペースを利用してドラホスラフ率いる騎兵部隊はどんどんと前へ前へと進んでいく。彼は突然裏切ってこちら側に寝返った野砲の部隊や、燃え上がる天幕を気にするつもりもないらしい。


 それでもここが分岐点だったのは間違いない事実のようで、部隊の半分ほどがその場に残り、ロビン・ドウデラの指示の元、小休憩に入ったのだ。


 大砲を指揮していたパトリックは小休憩に入った部隊に食事を配給するように部下に指示を出すと、拳を握りしめながらロビン・ドウデラ軍団将軍の岩のような顔を睨み上げた。


「お前!お前―っ!一体どういうつもりなんだよー!」

「ああ・・すまんすまん、ここまで連絡する手段もなかったし、こんなことになるとは思いもしなかったんだ」


 軍団将軍という地位に就くロビンと中央派貴族としてオルシャンスカの麾下となったパトリックは、母同士が姉妹という間柄なのだ。だから子供の頃から馴染みがある仲であり、ドラホスラフが挙兵して以降は秘密裏に連絡を取り合っていたのだ。


「それで?殿下は一体何処に行ったんだ?」

 猪突猛進のドラホスラフは止まらなかった。止まらずに走り抜けて行ってしまった為、邪魔にならないようにパトリックは野砲を移動させていたのだ。


「令嬢が誘拐されちゃったんだよ」

「令嬢?」

「ほら、殿下の婚約者だったカロリーネ・エンゲルベルトという令嬢が居ただろう?」

 確かに、そんな令嬢が居たのはパトリックの記憶にもあるのだが・・

「殿下はカロリーネ嬢と結婚したいからこそ挙兵をされたわけでな、御令嬢の命が危ないとなれば、まずはそちらを助けに向かったというわけだよ」

「なんと呑気な・・」


 国をひっくり返すような騒ぎの中で、騒動の張本人が女を助けに行くと言うのだから、パトリックとしてはちょっと理解が追いつかない展開と言えるのだが・・

「まあ、あれだ、建国王の生まれ変わりだから」

 と、ロビンに言われると、そんなものかと思ってしまうのだからどうかしているのかもしれない。


 ドラホスラフ第三王子の顔は建国の王ヴォイチェスラフの顔に良く似ている。それこそ『生まれ変わり』だと言われるほど似ているし、性格が滅茶苦茶なところも良く似ているのだ。いつでも周りは振り回されることになるのだが、振り回されることに隠しきれない喜びのようなものも感じてしまう。年甲斐もなく自分が物語の登場人物にでもなったように感じてしまうのだ。


「あの〜、すみません・・どうやら余計なことをしてしまったようで〜」

 焦茶色の髪の毛を短く切った若者がこちらの方に来て、申し訳なさそうに声をかけてきた。先ほど、軍列から飛び出して人馬の壁を作り出した部隊長なのは間違いない。

「君、何処の部隊の出身なの?」

 思わずパトリックが声をかけると、若者は恥ずかしそうに短い髪の毛を掻きむしりながら言い出した。


「自分は中道派貴族のベドジフ・ヴィテーク伯爵が息子、ダヴィド・ヴィテークと申します。自領の軍をまとめているのが自分で、少年兵の時にはトウランの騒動で前線にまで駆り出されていました。ヴィテーク伯爵領の領主軍の頭領です」


 各領主は領地の自治を守るために兵士を雇い入れているのだが、その兵士たちをまとめるのは領主の血族の役目であり、その役目を担う者のことを統領と呼ぶ。


「君は何で前衛を追い抜かして飛び出したの?」

 パトリックの質問にダヴィドは真面目な顔で答えた。


「このクロムロフの森は中道派貴族である自分の伯父が所有する森なんです。伯父は今回の戦いでオルシャンスカ伯爵の麾下として付いたのですが、伯父が管理する森については野盗の討伐なんかで駆り出されて良く知っているんです。ですので、待ち伏せをするのならこの場所だろうなと思っていましたし、途中で火薬の匂いがしたので野砲を用意されたのだろうと判断し、殿下を守るためには自分が盾になろうと考えたのです」


「ダヴィド君、君は何故、横列の野砲隊そのものに攻撃をかけなかったのか?」

 軍団将軍の質問にダヴィドは瞳を伏せながら言い出した。


「大砲にはすでに点火をされた状態で、自分の部隊が突っ込めば、どんな被害を周囲にもたらすか分かりませんでしたので、盾となることを選びました」

「自分が死んでも良いと思ったの?」

 パトリックの問いに、

「自分が死んでも家名は歴史に残せます」

 そう答えると、ダヴィドは胸を張って言い出した。


「自分にとって建国の王は憧れの存在なのです!その建国の王の生まれ変わりと言われる殿下の盾となれるのなら、自分の命ぐらい安いものです!」


 その自分の命には部下の命も含まれていることになるのだが、

「「こいつ、ヤバい奴だわ〜」」

 と、ロビンとパトリックは揃って同じことを言い出した。


 実際問題、モラヴィアにはこんな人間が多いのだ。平民であっても子供の頃から建国の王の物語を聞いて育てられるので、建国の王は非常に身近な存在になっている。男の子であれば、猪突猛進で癖が強い王様に対して強い憧れを持つと共に、彼を支える仲間たちに憧れを抱くようになる。


 そうして、今、建国の王にそっくりの容姿の男が先頭になって走り出したのだ。




猛暑、猛暑と記録的夏日の報道がすごいです。本当に暑い日が続いてうんざりするのですが、少しでも気分転換となれば嬉しいです!!最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

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