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『『『『ウ〜…アァ〜…』』』』
「ん〜頭痛ぇ」
この島の奴等が遺跡と呼ぶ幾つかの施設跡の一つ、その中の地下部分に何かの研究所っぽい場所を見つけた俺は、其処を当面の拠点と定め地上での活動を開始した。
その拠点の中で、諸々の作業へ一区切りつけた俺の居るこの部屋に並ぶ虚ろな生首や、標本の様に溶液に漬かった脳みそなんかは、まぁ…絵面は良く無いが、その活動による一種の成果だったりする。
「大体分かってきたかな。しかし、加護かぁ…なんか狡くない?」
此等から抜き出した記憶などから、この世界の事をある程度理解した俺は、この世界が加護と謂われる神から与えられた恩恵の様なものを軸に成り立っている事、そして、理由の如何に問わず、加護を持つ者は其れを持たないモノを憎悪する事が、この世界の理として在るのだと理解した。
「どおりで…庇った奴が背後からいきなり刺してくる訳だ…って、納得できるかっ、しかも此方の見た目は幼児だってのに…」
その時も、ただその後の話が円滑に進むかとの理由だけで、チンピラに殺されそうになっていた少女を助けたのだったのだが、何故かチンピラを締め上げている最中に背後から助けた筈の少女に刺された。まぁ、その後少女には報いを受けて貰った訳だが、そん様な出来事…という毎回、遭う奴遭う奴から親の仇の様に俺が襲い掛かられていた理由が、加護とかいうモノのせいという事に理不尽さは感じていた。
「しかし…まぁ……最初は生きるのに必死だったから、と思ってたんだけどなぁ……思考の差異に多少…思う事がなきにしもあらずって感じで、行動自体にはなんの罪悪感やらも感じないんだよなぁ…」
適当に並べられた生首を見ながら、ソレらを成して来た己の所業を振り返るも、どうにも此方に転生したからなのか、それともあの虚無な時間の影響か分からないが、どうやら俺は前と違い他人に対し興味…慈しみ?みたいなものが持てなく…いや、湧かなくなったらしかった。
「…フッ…詮無きこと…か……ププッ…厨二かっ…………さて…そんな事よりもだ…」
"ブンッ"と、俺が腕を振る動作に合わせ❲自己診断❳の画面が是迄とは違い身体から離れた位置に現れる。
「フフ…やっぱりSE付けた方がそれっぽいな……ちっ……やっぱり無理か……ポイント的にはカンストしててもおかしく無いっていうのに…何故だ?」
カイ (ヤマガタ) 6歳
〘自己中ナ幻想〙
346532 kp (使用可能kp 76332 kp)
(干渉力2%) (干渉範囲64㎥)
❲鉄男lv9❳ 270000/325000
❲ショット・ウェポン❳
〘再生〙〘器用貧乏〙
ステータスに表示される内容から、鉄男のレベル1つ上げるのに足るポイントを所持しているにも関わらず、どうやってもポイントを振ることが出来ない事に首を捻りつつも、最近になって気付いた、もう一つの気になる部分が目に入る。
「…くっ…もっと早く気付けよ俺……なんで鉄雄じゃなくて鉄男なんだよ?…まぁ、誰かに見られる訳でも無いからいいと言えばいいんだけど……なんか、こう…モヤモヤするッ」
❲鉄男❳その表記に、得も言われぬ様な羞恥心に似た感情を感じた俺が手でそれを隠そうとした時だった
「は?……マジか…」
❲鉄男❳の部分を隠した手の上にサブウィンドウの様なものが開く
「こんな機能があったのかよ……なになに…事故に因って超能力に覚醒した少年が能力のベース……まぁそうだよな……なるほど作中と同じ様に割と万能と……但し物理的な制約を受け無から有を生み出す事は出来ないか……なっ…世界に与える干渉力の大きさを抑える為、能力に呪縛付与……名称改変…レベル制へ、作中同様、能力の強化に伴い精神汚染ならびに能力行使時の脳への負荷増大……まぁ…レベル上げる度に頭痛の頻度が上がって、再生のログが頻繁に流れてれば予測はついてたけどな……でも1番の問題は……この、呪縛を受けた能力は昇華させる事で呪縛を解放出来るってとこだ……くぅぅ…なるほど……これは、俺に巨大な赤ちゃんになれと言ってるのか?……」
サブウィンドウに示された能力の詳細に、❲鉄男❳を得た時に感じた嫌な予感を想像して肩を竦めると、その予感に反応したかのように俺の義手がドクンと鼓動するとモコモコと蠢き出そうとするのを力で抑えるが、俺は昇華の意味を嫌でも理解させられた。
「これは……自覚したからか?任意でも解放出来る…のか……だが…いや…しかし…」
仕様を理解した事で条件が整ったのか、自らの意思で能力を昇華させる事が出来ると自覚し
「昇華?……暴走の間違いだろ……」
義手を眺めてそう呟く俺の目に、ふと、義足に成った両足が映る
「……そう…だった、あのスライム…takashi-kunを破壊し俺の足を持っていったアイツを倒すのが目的なんだから、今、一か八かに掛けるよりも…だ」
義足を見て、潰されて行くtakashi-kunのコックピットの中での出来事を思い出し顔を顰めた俺は、そう呟き暫く考え込んだ後、部屋を出るのだった…
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『墜ちた都』その島の中層には幾つもの遺跡が存在するが、その中でも中央の城壁に近い場所には通称『館』と言われる、当時島の中でも有力な者達が住んで居たであろう事を想わせる屋敷の遺跡が幾つか点在していた。
『館』の内の1つに、敷地内に森を1つ丸ごと内包するというよりも、森の中に大きな屋敷がポツンと存在する…という方がしっくりくる『館』があった。
そして拠点で決意してから暫く、改装したマギスアーマーに身を包んだ俺は、その『館』の敷地内……森の中を屋敷への侵入を目的にアーマーの機能インビジブルを使い潜んでいた。
『ドコニイッタ丿…エカテ…リ…チャン』
屋敷を遠目に潜む俺の目に、そんなマシンボイスを伴いながら、バキバキと草を掻き分けるかの様に木々を薙ぎ倒してそれは現れた
「おいおい…ジ・オかよ…」
ズングリとした体躯に、全体的に古い硬貨の様に鈍い金色を纏ったその異様に、思わずそんな呟きが漏れる
「……機械だけじゃないのか…生身っぽいのも見えるな……装甲…いや…融合してるのか?……それにあのシルエット………まさか元はドレスなのか?なんかもうモビルスーツ見たく成ってるけど……しかし、だとしたら素はかなりぽっちゃりさんだったんだな…」
一見、某モビルスーツを連想する様な見た目なソレだったが、よく観ると全身に装飾の名残りの様なものが散見でき、さらに外殻の薄い部分には生身と機械が一緒くたに成った物が見え隠れしていた事で、元はドレスの様な物を着た人が異形に変容したものなのかと推測する。
ソレは、何かを探しているのか、黄色く光る単眼のモノアイを左右に忙しなく動かし、辺りを暫く探っているようだった。
「けど、おそらくアレが元貴族のチンピラが言ってた貴族位って奴だろう……地下や中層の浅いとこにいた奴とは違って随分とメカメカしいのが特徴…なのか?……それに、喋る所を観ると知性も残ってそうだな……大体3mってところか…無力化できるかな……っ…来いッ」
そう呟き、貴族位の異形を観察する俺のアーマーの手が向けた大木に立て掛けるように、拠点の格納庫から転移させた金属の棒を複数出現させると、異形へ向ける集中を高めた
「マーカービートル……接触を確認……痛ぅ…浸食具合は………さすがっ、抵抗値が高い!……だがッ」
マギスアーマーに2機搭載しているサブのマギスブレインの内の1つが操る多数の虫型マーカーを、森への侵入と共に広範囲にばら撒いていた俺は、その内の幾つかが貴族位へ付着しているのを確認すると、マーカーが自身を基点に貴族位へ干渉力の浸食を行っているのを確かめると、マーカービートルから送られる貴族位に対し細く体内に浸食した干渉力のイメージを頭の中に投影させて集中を高める
「…チッ……い…けッ!」
拭えない鼻血に舌打ちを一つ吐きながらも、脳内のイメージに沿ってそれぞれのマーカーに紐づけされた金属棒に機体の手を添え、貴族位の体内へ一斉に転移させる
『…カシ…ラ……エッ……ナニガ……ギャッ』
「グッ……押し込む!」
貴族位は、突如として自身の下半身を中心に、斜めに貫く様に体内に出現した金属棒に動転したのか動きを停める。その隙に素早く貴族位に接近を始めた俺は、❲鉄男❳の能力を振り絞り金属棒を押し込み貴族位を地面へと固定に成功する。
『ナンデスノ!』
今だ自身に起きた事への理解が及ばな無いのか、貴族位の異形は俺の接近にも気づかず、モノアイを忙しなく動かし自身を貫く金属棒にあたふたしているように見えた。それ様子を幸いに貴族位を回り込む様に背後に回ると、俺は段取りを変え一気に無力化する為に動く事にし、背部ユニット以外をハイゴッグ風に改装したマギスアーマーの左クローを伸ばしてそのズングリとした巨体の臀部辺りに在る、生身と機械が融合した様な場所へ突き刺した。
『ギィィィ……!』
「うるせぇな……けど、直接接触しなきゃ出来ないんだから仕様が無いか…」
肉の部分には痛覚があるのか、耳障りな叫びを上げる貴族位を不快に思いながらも、伸ばしたクローの内部に義手から伸ばしたコードを発射口から直接貴族位へ接触させると、貴族位コーティングするように特殊なサイコフィールドを展開した。
『…ンッデスノ!コノフカイ…ナッ!』
「おっと、どうやら成功したか?」
貴族位は俺の展開したサイコフィールドに不快感を感じたのか、その発生源である自身に突き刺さるクローへ手を伸ばすが、サイコフィールドの効果でズンッとその巨体が地面に僅かに沈むと、クローに伸ばしかけられていた手も力なく垂れ下がってしまう。
「ヤレヤレ、上位種にも通用して良かった……恩恵の遮断」