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「ア〜ウ〜(うへぇ〜)」
あれからどのくらい経ったのか、体内に侵入してくる異物感に辟易とする新生児な俺は、❲自己診断❳の画面に欠損部の二の腕辺りまでが形成された自身の立体映像を見ていた
(……生物に浸食された機械…いや逆…機械に侵された生物の様な……でも、多分…素材はほぼ無機物な筈…やはり能力の基になったイメージのせいか?…っと)
鼻水が垂れる様な感覚と鉄臭い匂いに、能力を身に着けてからの何度目かの鼻血だと思い❲鉄男❳の出力を下げる
「アバぁ(いてぇ…この頭痛や鼻血も、おそらく能力を構築する際に俺が持ってたイメージどうりに構築されたからなんだろうな……今は都度〘再生〙が仕事してくれてるっぽいが……やっぱりやり過ぎるとアレになっちまうのか?)」
構築された能力の名前に、ご丁寧に俺のイメージどうりに付随されているデメリットにげんなりしつつも、自身が巨大な赤ちゃんになる想像をして、ブルッと身体を震わせた俺は無理やり嫌な想像を打ち切ると、とりあえず喫緊の課題として栄養?食事?をどうするべきか考え始める
(……っても、どうするかなぁ……現状視力が弱すぎて…というか首も座ってないからろくに見渡せないしな。となると……画面上で見えるこの干渉範囲を絞ると能力の強度?干渉力?が上がるのは確認できたけど…………なら、こう…形を…おお!出来そう……ふぅ…そしたらコレをこう円を書くように……良し!よしよし……)
脳に掛かる負荷を減らした為、1辺を1m程に絞っていた❲鉄男❳の干渉範囲が元の3m程に戻っているのを画面で確認した俺は、画面を見ながら干渉範囲の形を変化させようと一部を引っ張る様なイメージを持って画面に干渉する。と、干渉範囲がイメージに合わせて伸びていくのでそのまま周囲の干渉範囲が1m程になる迄伸ばした後、レーダーの要領で円を描く様にゆっくり回してみる
(ふぅ…何となく思っていたけど、此処は産廃場…なのか?まぁいい…どうするか…生物探知?どうやって?……まぁ無難に熱源探知っぽくやってみるか?結構融通がきく系の超能力のはず……なんたって題名になった少年を除けば作中最強だし…多分大丈夫…)
「アブっ!(良しっいける!)」
それから多少能力について試行錯誤した俺は、行使する能力のイメージをしっかり固めると、伸ばしたままの干渉範囲をゆっくりと回転させ始める
(ぐっ……画面、いや〘再生〙に探知結果を表示させて正解だったな。これならまだ我慢出来る…)
「んぐ……」と能力の試行錯誤による脳への負荷から盛大に吹き出した自身の鼻血を、自ら操って胃の中に押し込みながら画面に集中すること暫し、複数の対象へマーキングが施された
「けふっ(2…いや…3種類ぐらい居るのか?まぁいいか…次は、細く細く伸ばしてマーキングに……接続ッ)」
サーモグラフィーの様に体温っぽいものがマーキングされた輪郭の形に画面に表示され、その色の種類や形の違いから大体3種類の生物らしき物へのマーキングが成功したと判断したおれは、その中の比較的齧歯類に近しい形をした物へ干渉範囲の形を細く絞って接触させる事に成功する
(…次は、対象を包む様に干渉範囲を………そうしたら凝縮して強めるッ!…グゥぅぅ……)
俺は、対象を中心に50センチ角の干渉範囲で囲うと、鼻血が垂れる感覚と共に干渉範囲を対象の輪郭まで一気に縮め、更に内部にまで浸透させる
(ッつ……多少の抵抗はあったが以外とすんなり通ったな。ん?!)
「だぶ!(止まれ!)」
生き物へ初めて能力を使う為、もっと抵抗を受ける、最悪は通じ無い事も考えていた俺は、案外すんなりと能力が通った事に安堵する。
しかし、さすがに全身を浸食された事で違和感を感じたのか、対象が四肢の筋肉を収縮させるのを感じた俺は咄嗟に声を上げる。
俺が上げた声は言葉にはなっていなかったが、声に込めた思いが対象の動きを止めるという形で発揮されたのか、対象は時間が止まったかの様に動かなくなった
(とりあえず成功したか……次は干渉範囲を凝縮せずに……とっ…そんな事より……)
実験が成功したことで、本来の目的から外れた思考に陥りそうになった所で当初の目的を思い出し、自己診断の画面に❲鉄男❳によって支配した標的を映しだす
「あぶ〜(うぇ…ネズミじゃなく…なんだっけヌートリア?みたいな感じだな。思ったよりデケェし…………うしッ、やるか……キモイけど)」
支配したことで、獲物の情報をそれこそ内部情報まで詳細に画面へ表示すると、血液?体液が獲物の体内を循環しているのを確認した俺は、自身の肘の先ぐらいまで形成されていた作業を一旦中止すると、腕の中で仮想の血管に見立てていた管の複数を腕内から獲物へ向けて伸ばした
(例のジャイアントベビーの事を拡大解釈するならば、肥大化する時、自身の暴走だけじゃなく何らかのリソースを周囲から吸収した……とも、とれるよねぇ………イヤッ…やれる筈……やれるといいなぁ…)
獲物に絡み付いた管の先が、更に細く枝分かれすると獲物の体内へ浸食していく
(ふぅ…ふぅ……う〜気持ちわりぃ……余計な物は要らない…身体に有益な物だけ……有害な物は勿論はじく……せめて飢えないだけの栄養を……………)
ギチギチと管が獲物の中で増殖するのを感じながら俺は覚悟をきめる
「ダァー!(ヤレッ!)」
俺の気合の掛け声と共に、獲物の表皮を増殖した管が内部から引き裂き、その内側がベキベキとかグチャグチャとか聞こえそうな感じで蠢いた後、表面を血管が蠢く様ななかなかに毒々しいミートボールになった
(うっわぁ……あれ…大丈夫かなぁ……もしもの時でも〘再生〙があれば死にはしないよな?)
グロい肉塊が"ドクン"と波打つと、一回り小さくなった肉塊の表面を覆う管の中を俺に向かって何か(おそらく栄養らしき物だと思う)がゆっくりと送られて来るのを緊張と共にじっと待つ
(うぅぅん?…点滴みたいなもんか…ウゥ……一気に入れ過ぎたか?……気分が…………とりあえず空腹感は消えた、今のところ❲自己診断❳の画面でみても体調に変化なし……一旦止めて義手の方に集中するか……んっ…んんっ?!ポイントが1増えてる……)
作中的に、絶対零度で保存された内臓の標本みたいな物からでも人として復活出来る様な能力の一端を得たのだから、俺の大雑把なイメージでも問題無いとは思っていても、実際にこうやって今のところ身体に問題が起きていない事に安堵しつつ、今現在形成中の義手について試行錯誤しようとする俺は、確か元は100000だったポイントが100001になっている事に気付いた
(テンプレっぽいけど……タイミングが合わない様な……まぁ検証するにも先に義手をどうにかした方が効率的にもいいだろ……グフフ……どんなギミックを組み込もうか…………)
とりあえずの生命維持に目処が立った俺は、諸々の問題を効率良く熟すという言い訳を建前に、形成途中の義手を改造する事に集中していき、集中し過ぎた結果自分でも思わぬ程の時が流れていたのだった