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❲寒ッ!
……は?…暗ッ………❳
意識の戻った俺は、気づくと真っ暗な空間の中を彷徨っていた…
❲糞っ…何なんだよ……ん…身体ッ…!?❳
触った感触が無い………というか…これ…手も有るのかどうかも分からないな……
❲いったいなにがどうなって……ッ!❳
俺は…そうか…結局間に合わなかったって事か……
なら、此処はあの吸い込まれた中の空間って事でいいのか?
…………感覚的に、どうやら少しずつ落下しているのは間違い無さそうだが………
❲駄目だな…考えてもさっぱり分からん。他の感覚が曖昧過ぎる…❳
真っ暗な空間の中で緩やかな落下感を感じながら、あれこれ試行錯誤する俺だったが、長い時間を掛け結局は自身ではどうすることも出来ないとの結論が出ると、自暴自棄になった俺はネガティブな思考に囚われたまま、❲どうしてこうなった…❳と自身の人生の反芻を始めるのだった……
それが起きたのは、俺の中で自責の念を怨嗟が上回り、時間の感覚が曖昧になって久しくなった時だった
❲んっ……光?…ッ……うオッ!❳
何処かに向かっているのか、遠方に突如として現れた光の群れが、俺を追い越し同じ方向へと流れていく。その際、近くを幾つかの光が通り過ぎたのだが、俺にはその光が発する感情の様なものをが感じ取れた
❲なんだ?……希望……愉悦……ちっ、気持ち悪いもん垂れ流しやがって。しかし…あそこに何か在るのか?❳
光の放つ、陽の感情の様なものを不快に感じながらも、特定の場所で光跡を残し消える光の群れを見て、そんな事を思った時だった
❲なんだ……光の糸?…❳
光の影響か、今迄認識出来なかった糸の様なものがぼんやりと光を放ち出した事で、自身に繋がった糸が光の群れが消えた方へと伸びているのが分かる様になった。
さらに、それを認識したからだろうか、糸に引かれる様に落下速度が上がった気がした……
❲やっと到着か……❳
アレからどれくらい経っただろうか?
薄っすらと輪郭のあらわになってきた惑星の様なものを見て、俺はやっとこの何時までも続くと思っていた虚無な空間に終わりがある事を実感する
❲……しかし、結局この糸はなんだったんだ?オタクっぽく考えれば、実体の無い俺の転生先にある依代?的なものとの繋がりなのかとも思ってたが…何故か俺を通り越して上?にも伸びてるんだよな…やっぱり線路みたいなものか?まぁどうでもいい…ッが!?❳
永い時間の中で、緩慢になっていた思考が終わりを意識した事で通常の思考へと復帰を遂げた時だった。急に引かれる速度が上がったと思うと、ある筈のない肉体の全身を切り裂かれた様な激痛が俺を襲い、その痛みに依って俺はこの状態になって初めて意識を失うのだった……
[肉体ノ致命的損傷ヲ確認……転生神(異)S丿加護再生ヲ発動シマス…………肉体ト魂魄トノ融合率不足ニヨリ肉体ノ再生ヲ放棄……融合マデ生命維持ヲ優先シマス…]
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「まだ産まれないのか!」
そんな言葉と共に、地下にある薄暗い部屋の扉が"バンッ"と音を立てて乱暴に開かれると、フード被った人物が入室してくる
その者は、部屋の中に簡素なベッドの上で股を開き必死に力んでいる妊婦と、ベッドの側でその様子を冷めた目で見つめる老人が居るのを確認し「チッ」と舌打ちしながらベッドの側の老人へと近付いていく
「で…どうなのだ、既に日を跨ぐ迄幾ばくもないが?」
虚ろな目で力んでいる妊婦を一瞥して落ち着いたのか、フードの男は荒らげた口調を収めて妊婦を見つめる老人へ問いかける
「ご覧の通りですな。残念ですが…、おそらく間に合いますまい」
「フンッ、ならば間に合わせれば良いだけだ…」
己の予想していた通り答えに、フードの男は、腰に佩く2本のサーベルのうち一刀を抜きさると、妊婦の腹を一刀のもとに斬り裂く
「チッ」剣先に僅かに付着した血に舌打ちしつつも男は老人を目で促す。
フードの男に促された老人は"ヤレヤレ"とばかりに溜息をつくと、腹を切り裂かれた痛みに泣き叫ぶ妊婦の腹へ徐ろに片手を突き入れると、胎内から血に塗れた胎児を引き抜く様に取り出してみせる。
「……何の反応も無いが?」
「フム…おかしいですな。では、少し視て見ますかッ!?」
「…必要ない」
片手でぞんざいに胎児を扱う老人は、胎児を視る為かその目に魔力の光を伴い始めるが、突如としてフードの男の剣に胎児ごと貫かれる
「グ……キサマぁ…なんのつも!?その剣ッ…ち…力が…オノレぇ……」
「フンっ…どの道貴様は用済みだったのだ……ほう…此れは此奴の力か……胡散臭い奴だったがこの剣の事は真であったか……ならば先に突いたコレは何も力を持っていないどころか加護無しの無能だったという事か…」
己の手に持つ剣が、黒く染まり崩れ落ちていく様を見ていたフードの男は顔をあげると「おい」と呟き扉へ向けて歩き始める
「ハッ……承知致しまた」
男の背後、室内から聞こえる声を無視して男はその場を後にするのだった
····························
[………丿融合率ガ既定値ニ到達、肉体丿再生ヲ行イマス]
(ん……なんだ?)
[…………
………………
……………………
……生命ヲ維持スル最低限丿臓器ハ再生可能……
左肩カラ左腕、左肺ハ融合前丿欠損ニヨリ再生不可デス………]
(欠損?……何を言って……)
[……………系接続、コレヨリ覚醒シ…]
「ケプッ(ッ!!)あぎゃぁぁぁ……!」
朦朧とする意識の中で、聞こえて来る機械的な声に気付いた俺が、ぼんやりと纏まらない思考でその声を聴いていると突然の痛みに叫び声を上げた
「あ"あ"ッ!(いってぇぇ!てぇ!?声?)」
耳に聞こえて来る己の叫び声に、是迄のような精神体では無く自身が生身の肉体になっていることを痛みを堪えながらも理解する
(ぐぅ……痛み……それに、血の味に匂いも……くっ……五感があるって事は肉体があるって事か?)
俺は、痛みを堪える事に苦労しながら五感を一つ一つ確認していく
(ッ……視覚がぼやけてやがる。クソっ!一体全体なにがどうなってんだ……なッ!!)
最後に視覚を確認しようと目を開いた時の視界に対し、そんなふうに俺が苛立っていた時だった、磨りガラスの様に靄のかかった視界に半透明な画面が現れる
[自己診断ヲアクティベート……発動シマシタ]
(へ?…マジか…ヒヒっ………………いやッ……いやいやいやいやッ、冷静になれ………どういう状況だ……)
画面の大半を占める赤子の立体映像と、その赤子の状態とでもいうべき文字と数値というゲームのステータス画面の様なものに痛みも忘れ、つい厨二病的妄想に陥りそうになった自分をなんとか押し留めると、画面に映る情報を精査していった
(…………これが今の俺か……生後10日、左半身の約二分の一の欠損……心臓やらが半分剥き出し……ただ欠損部は自身のアストラル体で保護と……良く生きてるな……グッ……しかも、なんか欠損部のアストラル体がナニかに浸食されてるっぽいし、どうしたら……おっ、意識すると………なになに……魔力に浸食されてて……最終的に魔物になる…ね。)
「アダぁ…(どうしろと…)」と愚痴を漏らすと、画面にあるアストラル体部分が拡大され詳細が表示される
(おぉ…そんな機能が……えぇと、加護〘再生〙?何だそれ…まぁいいか、に因って魔力に侵されたアストラル体部分を分解、再生する際に分解された魔力からのリソースで最低限の生命維持は可能。なおその間、分解時の痛み空腹による飢餓感ならびに外的要因による刺激を受け続ける事になるので早急に対処することを推奨する…………いや……新生児にどうしろと……ん?増えた……対処法、物質による欠損部の再生……ハッ、どこぞのデコ助野郎じゃあるまいしそんな事…)
[願望ヲ受諾、転生神(異)Mカラノ加護〘自己中ナ幻想〙ガ ❲鉄男(lv1)❳ ヲ構築………願望丿円滑化丿為、残リポイントデ❲鉄男❳丿Levelヲ5ヘ……更ニ転生神(異)L丿加護〘器用貧乏〙ヲアクティベート……………]
(何だ…………ぐっ!頭が割れ………って……おいおいおいおい…マジか…)
唐突に頭の中に響いた言葉とも意思ともいえるものに続き、酷い頭痛が俺を襲うが、眼の前の画面に映る自分の立体映像に起こり出した変化に驚愕する
(つぅ……鉄男って……そういう事か……確かにさっきはソレを想像したけど…………)
頭痛と共に自身の立体映像を中心に周囲を俯瞰する様に眼の前の画面が切り替わると、周りに映る何某かの残骸やらから様々な物が俺に向かい集まり始めた。
そして、どうやらそれ等が俺の欠損部へ向かい集まっているらしい事に気付くと、俺は映像を自身の立体映像へと意識してズームして集まるそれ等が欠損部を補う様にゆっくりと形作る様を確認して、これは俺が現状を解決するために想像したものの再現だと理解した…………
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ステータス
未設定 (ヤマガタ) 0歳(生後10日)
加護
〘自己中ナ幻想〙
100000 kp (使用可能kp 0 kp)
(干渉力1%) (干渉範囲27㎥)
❲鉄男lv5❳ 100000/135000
〘再生〙〘器用貧乏〙