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不定期更新です
男は…善良だった…
其れは、性分なのか、それとも親の刷り込みか…
はたまた、幼い頃憧れた物語の登場人物の影響なのか…
とにかく男は基本的に善良だった
しかして何時の時代も、そういう善良な者が善良な儘で生きて行けるほど人の世というのは成熟しておらず、男も歳を重ねると共に様々な経験を積むにつれ、自身と現実とのズレを否応なく理解させられていった……
そうして紆余曲折の末、対面でのコミュニケーションにほとほと嫌気がさした男は、仕事を辞め田舎に引き籠もった
(アレは…何時だったか…)
この日、趣味の工作の為の買い出しに、久しぶりに街迄繰り出していた男は、目的地へ向う途上で高校生の集団と出くわした
目的地へ向う男の前を歩くその集団の様子をぼんやり見つめるうちに記憶が刺激されたのか、男が自身と現実のずれを強く認識させられた出来事の数々を思い出していた
(そう…確か、中学の…………)
当時、仲の良い(そう男は思っていた)友達だった人物に散々利用された記憶を思い出し苦笑いを浮かべる
(自分に何かアレば、"友達だったら"此方が何か言えば、"友達なのに"って…ふざけるなよ……
はぁ…なのに、いまだに相手を選ばなかった俺が悪いと思える自分に笑える…)
更に記憶は進み、その過去のせいで今度は友達を選ぶ様になった男は、選ぶ事に因って逆により苦労するハメになる
自分が選んだという事実に、自身が縛られる様になったのだ
(なにが、何時かは解って貰えるだ…アホか…)
相手に都合よく使われるのは変わらず、加えて彼女を寝取られる等の酷い裏切りに合ったりしても、怒りはするが自分が選んだ友達、彼女なら何時かは解ってくれる筈と、苦言を呈するだけの男に周りは徐々に離れていった
もちもんそんな人ばかりが周りにいた訳では無いので、今も男には普通に友と言える存在はいるのだが、その数は決して多いとは言えなかった
(「彼は貴方と違って…………」俺に「束縛されるのは嫌」とか言ってたアイツが、目の前でベタベタと男とイチャつきながらそう言った時、全てが虚しくなったんだよな…)
前を歩く高校生の中の、腕でを組んでイチャつくカップルと、それを面白く無さそうに伺うこちらもカップルらしき男と女、女子二人から頼み込まれ満更でもなさそうに頷く男と仕方がなさそうに頷く女といった、一見仲良しグループに見える集団の多種多様な様子に刺激されたであろう回想に苦笑いを浮かべているうちに、いつの間にか先程まで周囲で聴こえていた雑多な音がしないことに気付いた男はその事に違和感を抱く
(ん…?なんだ…音が……っ?!
チッ、自分の声も聞こえないのかよッて…おいおいおいおい…マジか…)
呟いた筈の自分の声さえ消えていることに焦りを感じながらも、素早く周囲を確認した男が目にしたのは、地面から湧き出た何体もの死神の様なものが、手に持つ大鎌でもって周囲の人間へ襲い掛かる場面だった
それは、男の前方に居た高校生の集団へも襲い掛かり、二体の死神にが振り抜いた大鎌に因って五人の首が一瞬にして撥ね飛ばされる、残った三人の女生徒の内二人が後ろ…男の方へと逃げ出したが一人は恐怖で腰が抜けたのかその場でへたり込んでしまう
死神の一体が、直ぐさま座り込んだ女生徒の首を撥ね、もう一体が逃げた二人へ迫り大鎌を振るう
(クッ、間に合うかッ、せめて一人でも!)
逃げ出した二人を見て我に返った男は、咄嗟に二人に駆け寄り先行する女生徒が伸ばした手を掴むと自身へと引き寄せた
(すまんッ)
残念ながらもう一人の女生徒は肩ごと首を飛ばされてしまったが、男が手を引いた女生徒は髪の毛を少し斬られたぐらいで無事だった
(どうする…この子だけでも…)
背後に女生徒を庇う形で死神と対峙する男が、迫り来る死神を見て何とか活路を見出そうとしている時だった
(なッ?!)
突然背後から突き押された男は、咄嗟に前方に一歩踏み出し何とかバランスを取ろうと多々羅を踏むが、其処へ死神が首を狙って大鎌を振るってくる
(糞餓鬼がッ!)
死神が大鎌を引いたの見た男は、踏み止まるのを諦め死神に向い前転する要領で大鎌を躱すと、回転する勢いのまま踵をあびせ蹴りの要領で死神の顔へ叩き込んだ
(ラッキー!当たった!)
〘ギイイイイイイイ…〙
丁度カウンターの様な形で当たった踵が、"バキャ!"という音を立て何かを砕いた後、男を襲った死神は断末魔を上げながら消えていく
❲……×××××の加護が消滅します❳
「あのッガ…キ……!」
消えていく死神を無視して素早く立ち上がった男は、自分を突き飛ばしたで有ろう女生徒がどうしても許せず、逃げる前にどうなったのかだけは確認しようと振り返ると、その女生徒は背後に佇むもう一体の死神の大鎌の刃を心臓付近から生やし、憎悪の籠もった目で男を睨み付ける様にして事切れていた
「チッ…あと味の悪い…ん?!音が戻った?」
❲転生の儀 version ××××× を開始します❳
「終わったのか…って、転生…?何のことだ……おいおいおいおい……今度はなんだよ……ヤバッ!」
男が突然頭に響いた誰かの声に戸惑っていると、動きを止めていた死神達がドロドロと溶け出し、遺体を取り込み始めた。男はソレをさけ逃げようとするが、ある程度の距離を逃げた所で見えない壁に遮られそれ以上進む事が出来なくなる
「クソっ!どうする…何処かに……………ッ!どうする…えぇいままよ!」
体当たりしてもビクともしない壁に苛つきながらも、何とかこの場所から逃れる為男は必死に周囲を見渡し、50m程離れた場所に光る箇所を見つけると、僅かな可能性に掛け光に向かって走り出す
❲××××× の加護し魂魄の回収を確認、これよりフェイズ2 ××××× からの恩恵と祝福 へ移行します❳
「はっ?終わり?!助かったぁぁぁ…」
光まで半分程の距離を残した所で聴こえた声と共に、男を残して全ての遺体と死神だったドロドロが、地面へと染み込むようにして消え去ってしまった事で、緊張の途切れた男は足を止めその場で大の字になってへたり込んでしまう
❲地球からのリソースの充填を確認、最終フェイズ 受胎 為、空間を再構築します❳
「クックック……は?再構築…嘘だろッ」
結果的に自分だけが助かった事になった男だったが、この状況であれば今までの自分なら感じるであろう罪悪感や嫌悪感を全く感じることが無い自分を、複雑に感じながらも自然と口角の上がり満足気に思っている自分に戸惑っていると、再度聴こえた声の内容に急いで立ち上がり、慌て消えかけている光へと向かう
「俺のアホがッ!間にあッッッッッ……」
男は光に向け必死に手を伸ばすが、無情にも男の子が動き出して直ぐに光は消えてしまい、それと同時に、直径にして100mぐらいのこのドーム状の様な空間全て(もちもん男含む)が、この空間の中心の10m程上空に現れた黒点に向い吸い込まれ、その後この空間のあったであろう場所には、まるで空間事抉り取られたかの様に何も残っていなかった……………