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9.ソラマメ豆腐


 ダンジョン配信が大成功し、興奮しきったサクヤを宥め、俺達はお腹を膨らませることにした。


「ここの店のレビュー、全部星1しかないんだが……店主の態度が良くないとか、寝てるとか書いてあるな」


 スマホを弄りながら、サクヤが頬を引き攣らせる。

 六本木は高級店が多く、学生の身である俺は安いところを所望したのだ。


 その結果、とりあえず安そうってことで入ったお店の総合レビューは星1であった。


「へぇ~、いまどきの一つ星レストランって奴? 俺初めてきたよ」

「お前、本当に凄いな……今度、ちゃんとした良い所連れてってやるからな」


 ふむ、どういう意味なのだろうか。

 サクヤさん、その憐みの目を向けるのはやめてください。


「ふふん、俺だってちゃんと美味しいご飯は食べてます。回転ずしに行った時なんて感動したんだよ。すっごい美味しいのに、超安いんだ」


 一貫110円であのクオリティは凄すぎるだろ。

 あと牛丼も好き。つゆ多めにできるって知った時は最高だろ、と思ったね。つゆだけで白米何杯もいけるし。

 

「そうか……お前は可愛いな」


 サクヤから慈愛に満ちた瞳を向けられ、少々不満になる。

 あ、そっか。サクヤの家は金持ちだから、もっと高い物食べてるのか。 


「ご注文は~……?」


 眼の下にクマを作り、明らかに寝不足だと分かる店主が来る。


 それぞれ注文をしたけれど、味は美味しかったし、サクヤも「星1の割りに凄いうまいな……」と褒めていた。


「これ、うまい……ソラマメ豆腐」

「マジか、ソラ。これ、味がなんか薄くないか? 何も味がしないぞ」

「ううん、それが良いんだよ」


 店内を見渡すと、豆腐の宣伝が見える。


【代々平安時代から続くこの店限定のソラマメ豆腐!!】


「平安時代……」

「ん? お客さん気になる?」

「え、えぇ……」

「なんかご先祖様が、とある人に助けられてからずっと続けてるらしい。ほれ、その証拠があれ」


 店主が指さした先にある護符に気付く。


「信じられるか? 平安時代からずっと飾ってるんだと、捨てようとしたらぶん殴られたからまだ飾ってるのさ。どうせ偽物なのにな~」

「────ッ!! あれは……」

「まぁ、うちも代々飲食店を経営してるけど……俺の代で限界かなぁ。最近、夢で魘されてまともに寝れないし」


 店主の言葉を聞きながら、俺は目を見開く。

 サクヤが問いかけてくる。


「ソラ……?」


 あれは俺が作った護符だ。

 あっ、思い出した。


 ……

 …


 平安時代。


『うまい……』


 店内で呟くと、それを聞いた地獄耳店主が叫ぶ。


『えっ!? 大不評のソラマメ豆腐が美味しいと……言いましたか?』

『うん、この味は好きだ』

『あ、ありがとうございます! あの~……失礼だとは承知で申し訳ないのですが、一つお願いしても?』

『うん? なに?』


 俺の正装から、陰陽師であることは察しが付いていたようで、一つお願いをされてしまった。

 もちろん、仕事だから本当は報酬が必要だし、外部から勝手に受けてはいけない。


 でも、俺はこのソラマメ豆腐に惚れこんでしまっていた。


『俺の護符が欲しい?』


 このお店は山や雑木林に近く、妖怪や鬼に襲われることがあった。

 しかも悪霊が棲み着いているとかで、店は傾き、このままでは経営もままならない状況にあった。


 そのせいで娘が怪我をしたり、怖がって客も来ないと不幸続き。

 今の時代、どこでも助けを求める人はいる。珍しいことではない。


『このままなら、もう店も閉じるしかないんです………。祖父から継いだ大事なお店を、終わらせたくないんです』


 ふむ、そういうことか。


『……別に良いけど』

『ほ、本当ですか!? よっしゃ……! ありがとうございます!』

『その代わり、この味はちゃんと後世まで伝えてくれよ』

『はい! もちろんですとも……! 必ず……約束です!』

 

 それから、その店で妖怪の噂や怪我人が出ることは無くなった。

 お店も閉じることなく、大繁盛し安定した暮らしができていたそうだ。ソラマメ豆腐は相変わらず不評だったが。


 ……

 …


 毎年、俺のところに料理を届けてくれていたっけ。

 『護符をありがとうございます』と、何度もお礼を言われたことを鮮明に覚えている。まぁ代価はソラマメ豆腐だったけど。


 食べる手を置く。


 無意識に微笑んでしまう。


 約束、守ってくれたみたいだな。

 この味は変わっていない。

 

 あの護符は、『ちゃんと、約束を守っています』という証だ。

 

 少し、嬉しいな。

 心がポカポカと温かくなる。


「これ、良かったらどうぞ」


 俺は新しい護符を渡す。

 前に渡した物は、だいぶ風化しているし、効果も薄くなっている。

 

 これは守護の護符だ。悪霊や夢で現れる悪夢を消し去ってくれる。


「え……これって?」

「ただのお守りです。そこにある奴の横に。きっと、夜もぐっすり眠れると思います。あとお店も繁盛しますよ、潰すなんてもったいない」

「は、はぁ……」

「じゃ」


 俺はお礼を言って、店を後にする。

 こうして継がれている物もあるんだな……。


 *


 店主が首を傾げる。


「変なお客さんだなぁ……ソラマメ豆腐がうまいって言う人初めて会った」


 店主はそう思いながらも、飾ってある護符と入れ替える。


(ご先祖様がソラマメ豆腐が大好きな陰陽師様から貰ったとかなんとかって……ハハッ、馬鹿々々しい。信じられる訳ねーっての)


 すると、あることに気付く。


(この護符に書いてある文字、飾ってあるのと一緒だ……字が潰れて薄っすらとしか分からなかったけど、こんな文字だったんだ……え、なんでそう思ったんだ?)

 

 咄嗟に、店主がソラたちを呼び留める。


「あ、あの! お客さん……!」


 ソラが振り返る。

 何かが背中を押して、お礼を言わなければならない気がした。


(言わなくちゃ……言うんだ!)


「あ、ありがとうございます!」

 

 ソラは静かに微笑んで、手を振る。


「こちらこそ、約束を守ってくれて、ありがとう」

「え……」

 

 

 しかし、誰も知らなかった。

 

 神崎サクヤが、ソラと騎士王との戦いで興奮し、ステルス状態のドローンがソラを追尾したまま、ライブ配信を切り忘れていた。

 このやり取りが全て生配信されていたことなど。


 こうして、ソラマメ豆腐ブームが巻き起こることも……。

 



【とても大事なお願い】

 仕事をしながら合間で執筆をしています!

『面白い!』『楽しみ!』

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