58.騎士王ヴァルサルクは賢い
【騎士王・ヴァルサルク~初心者冒険者講座~】
そのタイトルコールから始まった、ヴァルを中心とした配信。
場所は渋谷の近くにある【中層アルミダンジョン】というダンジョンで、中層までしか存在せず、さらに上層~中層にかけての魔物の強さも緩やかな変化しかない。
例えイレギュラーが発生したところで、下層クラスの敵が出現する程度で、走って逃げれば逃げ切れる、というなんとも間抜けなダンジョンだった。
だがそのお陰もあってか、『冒険者まとめブログ、駆け出しの冒険者にオススメランキング』の上位に毎回食い込んでいるほど、ダンジョンへ潜ったばかりの初心者にとっては嬉しい所だった。
かつてはソラもこのダンジョンに潜ったことがあるが、あまり盛り上がらないかも、と違うダンジョンへ移動してそれ以降は通わなくなった。
そこに目を付けたのが神崎サクヤだった。
事前にこの場所で『騎士王・ヴァルサルクが剣の振り方を教える』と人を集めるよう募集をかけた。
集まった数は数十人程度、少ないと思うかもしれないが、それ以上は見切れないとサクヤの方で締め切ったのだった。
その大半は、駆け出しの冒険者である。
「お集まりいただいた冒険者の方々、今回は剣の振り方などをさせていただきたく……私もまだまだな身ではありますが、何卒よろしくお願いますぞ」
ヴァルが口上を述べたのち、各々に剣を抜かせる。
「では、剣を振ってくだされ」
”そういえば、意識したことなかったけど冒険者とかダンジョン配信者ってちゃんと剣の振り方とか知らない奴多いな”
”お前も知らないだろ”
”独自に流派とか作ってる奴もいるらしいぞ”
”確かに居た気がするわ”
”『旋風龍刃!』みたいな技名叫んでくるくる回ってる奴居たよな”
”wwwwwwwwwww”
”wwwwww”
比較的、グラビトやセンの配信と比べて人に教えている過程があるせいでコメント欄は自由に会話していた。
”ヴァルの話も面白いぞ”
”なんか俺と似てる特徴がある奴のいるな。あっ、話しかけた”
”身長低い人だな”
”すっげえ重そうに剣振るってるな”
ヴァルがその人へ声を掛けた。
「その剣でも良いのですが、あなたは小柄な体格をしていますから、剣よりも短剣の方が良いかもしれませぬな」
「え……? 短剣ですか?」
「ええ、ダンジョン内部では小回りの利く短剣の方が良い場合がありますぞ。私はパワーがありますから、ダンジョンの壁ごと切り裂けますが」
ヴァルの切り裂ける、という言葉にドン引きされる。
「相手が自分よりも大きい魔物に対して、剣ではあなたの利点が活かせませぬ」
「な、なるほど……利点……」
「ヒットアンドアウェイという戦法ですな。かなりの体力が要りますが、運が良いことにあなたは剣を振るっていましたから、すでに体力が出来ている。短剣でその戦法をやってみましょうか」
「は、はい!」
次に、ヴァルが大剣使いの初心者に声を掛けた。
「ほお、私と同じくらいの大剣ですな」
「おう! どうよ、俺も将来は凄い剣士になるぜ?」
”なんか自信満々”
”こいつ、体でけ~”
”初心者にしては確かに有望そう”
「ですが、この講座に参加したということは何か困っていることがあるのですな?」
「そうなんだよ。それがよ、でけえ剣なんだが、斬るのがどうも悪くてな。こうズバッと切れないんだよ。この大剣が悪いとは思うんだが、騎士王・ヴァルサルクの『断絶』みたいな技を教えて貰えねえもんかと思ってよ」
それを聞いてヴァルが悩む。
”大剣が悪いのか”
”あ~、なるほどなぁ”
”だから剣術を習おうってことか”
「なるほど……いえ、大剣は悪くありませぬぞ。なかなかに立派です」
「え?」
”え?”
”え?”
”どういうこと?”
「見ておりましたが、技がかなり力任せですな。金棒やこん棒などは使ったことはありますかな?」
「棒……? いやねえが」
「せっかくそれだけの筋肉があるのに、勿体ないですな。金棒を使ってみて、ダンジョンに潜ってみましょうぞ」
「お、おう……?」
”なんか的確なアドバイスばかりしてる……”
”人に合わせてアドバイスを変えてる?”
”ヴァル偉いな~”
ヴァルがそうしてドローンに視線を向けた。
「もちろん、合う合わないはありますから、まずはそれを探していくことが重要なのですぞ」
ヴァルのモノアイが赤く光る。
「視聴者殿たちも、家の中でも簡単にできる適性検査なるものがありますぞ。それこそ、剣の振り方から教えますぞ」
”俺もやってみよ!”
”これで訓練すれば誰でも冒険者が目指せるのか……!”
”俺、短剣の方が向いてるのかもしれないな”
「あと騎士道なるものも教えて行きますぞ! 人に迷惑を掛けず、欲張らず、命を大事に!」
ダンジョンに潜るための必要な知識と、命を大事にしていくこと。
人に迷惑を掛けないこと、冒険者や配信者同士で分け隔てなく助け合うこと。
「良いですか、それが騎士道に通ずる道ですぞ」
「「「はい!」」」
”はい!”
”コメントでも元気に返事してる奴居て草”
”素直かよw”
”俺は好き”
それからダンジョンへ潜り、ヴァルが指摘した通りに実践し、それを実感してく初心者冒険者たちであった。
「短剣いいかも……」
「金棒、振り抜いた時が気持ち良いじゃねえか……!」
それらを見ていた視聴者たちが各々にコメントしていく。
”ダンジョン配信事務所『陰陽』って良いな”
”確かこういう意見ってカツも教えられたよな”
「ご安心あれ、カツ殿も次から特別講師として招きますぞ!」
”カツとヴァルが講師の授業とか受けてみたいな
”あの二人からの意見とか羨ましすぎ”
”見てても勉強になりそう ”
”絶対参加するわ”
次の応募者数が数百人を超えたことは、いうまでもない。
配信終わりの余韻で、コメントが流れていく。
”陰陽って各々の役回りがすげえ良い感じで働いてて、役割分担がしっかりしてるよな”
”グラビトとセンちゃんは知識方面で視聴者にダンジョンや魔法教えて、ヴァルがダンジョン初心者向けで、実戦形式”
”言われてみればむちゃくちゃバランス良いじゃん……!”
”確かに!”
”グラビトの知識役立つからなぁ、知っててもおさらいになるし”
”冒険者なら絶対に見ておくべき、みたいな狙いを作ってるのかもしれないな”
”むちゃくちゃ需要あるからな”
”冒険者にならなくても面白いから見る”
そして、問題の配信が始まろうとしていた。
”あれ……アオの池を見る配信って、何するんだ?”
”何が始まるんだ……”
”なんか嫌な予感がする”
”もうすでにタイトルだけで爆笑するかもしれんわ”





