56.次の作戦会議
ダンジョン配信事務所、『陰陽』の設立以降、会議室に使われている配信を準備するトラック。
ここに集まっているのは、『陰陽』のメンバー全員だ。
サクヤがホワイドボードの前に立ち、勢いよくバンッと叩いた。
その音にセンが背筋を伸ばす。
「や、やめい……心臓に悪いぞ。ビックリした」
「すまない」
カツさんがニコニコと笑う。
「サクヤさんはいつもやる気が凄いからね」
「カツさん、高校生を相手にさん付けはやめてくれと言っただろう。呼び捨てで良い」
「いやいや、尊敬できる人は、高校生であってもさん付けだよ」
困ったようにサクヤが肩をすくめた。
「あなたは全く、仕方ないな……」
サクヤは尊敬できるからなぁ。
カツさんも、きちんと相手を尊敬できる立派な大人だ。
やっぱりカツさんのことをカッコいいと思う。
「あれ、でもカツさん。俺はくん付けなのなんで?」
「ソラくんはソラくんだよ」
「え?」
なんでニコニコして誤魔化すの。
え、何その可愛い小学生を見るみたいな目……俺もサクヤと同じ高校生ですよ!
ほら、ちゃんとお財布にも千円札入ってて凄いでしょ。高校生じゃないと持てない金額だよ。
「ソラくんは可愛いねぇ~」
「そうだろう、ソラは可愛いんだ」
ふんふんっ! とカツさんをポコポコと叩くも、頑丈な身体には大して効かない。
それを見ていたヴァルが閃いたように呟いた。
「私もああいう風に叩けば可愛いと言われるのでしょうか……」
その隣にいるグラビトが、「お前がやると死人が出るぞ」と忠告する。
この狭い場所に、全員で七人もいる。
なんだか、最初の頃が懐かしいなぁ。
最初は俺とサクヤの二人で始めたことだったのに。
気付いたら、こんなに楽しい空間になっている。
サクヤが分かり易く、文章と言葉でまとめて説明していく。
「良いか、『陰陽』の配信者を増やしたことで、これからさらに視聴者や登録者数も増えていくだろう。だからこそ、作戦なしでやっていけるほど、楽な道ではない。そこで、各々の特徴を捉えた配信の作戦を立てる」
まずサクヤが提案してきたのは、俺たちの特徴を捉えた配信の方針だった。
・ヴァル
騎士ということで騎士道の精神を語り、戦い方で剣の使い方などを指南する配信。
たまにソロでダンジョンへ潜りボスVSボス戦を披露する。
誠実さと真面目がすごくあるから、ダンジョンの初心者向けとして配信をする。
「確かに……私は、私の騎士道を広めたいと思っています。ソラ様に恥じぬ騎士であらねばなりませぬから」
・グラビト
知識を司っていることと、狸の外見から子ども向けの配信が良いんじゃないか、ということで小学生~高校生までの理科実験的な配信。
および、魔物の生態を紹介する配信を主にすることになった。
「おいサクヤ、私も戦闘は出来るが?」
「それだと可愛いと言われるだけだぞ。それよりも、お前が最も得意とする知識方面を出していけば『頭がいい』と言われるようになる」
「……可愛いからは卒業できるわけか」
いや、それは可愛くて頭良いってなるだけだと思うけど……言わないでおこう。
「タイトルコールは、【グラタヌキの面白雑学】……みたいな感じで行こうと思っている」
「グラタヌッ……! それだとまた可愛いとか言われ──」
「次だ」
・アオ
そこで初めて、サクヤが言葉に詰まる。
「アオ……お前、何かしたいことあるか?」
「映画実況」
「配信だと少しやりづらいな」
「お腹空いた」
「ご飯にはまだ少し早いと思うぞ」
「鯉だから大丈夫」
「…………ソラ、翻訳してくれ」
助け船を求められたので、俺はアオの言葉を分かり易く伝える。
「たぶん、鯉を見る配信をしたいんじゃないかな」
「あぁ、なるほど鯉を見る……鯉を見る配信!?」
サクヤが珍しく驚いた様子を見せた。
おぉ……サクヤが驚く姿を見せるのは珍しい。
いつもは何があっても冷静なのに。
「鯉は食べちゃダメ。でも見てるとお腹空く……だから、ずっと見てられる」
「あぁ、うん……うん? そうか、うん……分かった。うん? 鯉の配信だな」
混乱しつつもサクヤがメモを取っていく。
その隣で、我慢できないと言った様子でソワソワするセンが居た。
・セン
「次はセンだな」
「うむ! 儂じゃ!」
「ふがっ」
笑顔のまま、また俺に頭突きしてくる。
「正直、私はお前のことをあまり知らない。アオと同じでまだ新参だしな」
「そうか。じゃが、儂は何でもできるぞ! 任せい任せい!」
「算数はできるか?」
「さんすう?」
センが首をかしげる。
「国語は?」
「……わ、分かるわい! たぶん……ま、任せい!」
「お前はまずグラビト枠に放り込むか」
「ぬがー! 儂も配信やらせろ~!!」
抵抗虚しく、配信をする前にグラビトのところに参加することが決定した。
「どちらにせよ、グラビトの配信には反応する人間が必要なんだ。『なるほどな~』とか、『そういうことなのか!』とかの反応があれば、それだけ視聴者も楽しく見れる。お前が必要なんだ」
「儂が……必要……ふへっ、ふん! あっ、だ、騙されんぞ!」
「ソラはどう思うんだ?」
「うーん、俺もグラビトの方に参加してから配信した方が良いと思う。もしかしたら、センが賢い妖怪として有名になるかもしれないし」
センは実際、頭良いと思うし。
「儂が賢い妖怪……ふへへ、良いじゃろう! その話、乗ってやる!」
サクヤがニンマリと笑う。たまに見せる悪代官である。
「サクヤ、顔に『コイツチョロい』って出てるよ」
しかし、サクヤの提案はどれもアイデアとして凄く面白い。
ヴァルやグラビトの特徴を捉えて、それに合わせてそれぞれが向いている所に焦点を合わせる。
もしかして、前々から式神を配信者にすることをずっと考えていたのかもしれない。
「なんだ、『もしかしたら、前々から考えていたのか』って思っているのか?」
「サクヤ凄い、エスパーだ」
「お前のことは顔を見れば大抵分かる。まぁ、前々から考えてはいた。他にも多くの案がたくさんあるが……現状で最善の手を指したまでだ」
本気で『陰陽』のことを考えて動いてくれている。
俺も頑張ろう、と思わずには居られなかった。
「ソラくん、サクヤさんは凄いね」
「ですよね! 俺もサクヤがいなかったら、今頃どうなってたか」
ほのぼのとした空気で終わろうとしていた時、サクヤが指をさしてくる。
「ソラとカツさんにも、大きな仕事があるぞ」
サクヤから真剣な眼差しで、かつ悪代官の笑みが向けられている。
なんとなくヤバい予感がする、とは言わなくても察せられた。
「ソラ、お前は若手最強と言われる御影アカリを含めた高校冒険者五人の、六人目として認定されかけているのは知っているな?」
「う、うん……」
「カツさんは大ベテラン冒険者の中でも根強い人気があり、その経験値から底知れない安定感のある戦いをするだろう。安西ミホの奇跡でも、それは遺憾なく発揮されて証明された。いわば、深層冒険者の中でもトップクラスの実力があると言っても過言ではない」
「は、はい……サクヤさん」
サクヤがニヤリと笑う。
「若手最強候補のソラと、大ベテラン冒険者のカツ……どちらが強いか気にならないか?」
俺とカツさんは内心で(こ、これは……)と共鳴している気がした。
「メンバーも増えたんだ。そろそろやろうじゃないか……ダンジョン配信事務所、『陰陽』の身内対抗配信をな」
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