54.【side大神リカ】/確かな一歩
大神リカはPooverの事務所で、次の企画を考えていた。
そこには大神リカ専属のプロデューサーや、マネージャーも席に座っている。
基本的にダンジョン配信者は多忙ということもあり、自分では企画を考えずプロデューサーから提案されたものを配信することが多い。
だが、大神リカは自分の力で視聴者へ喜びを届けたい、という信念の元、自分でアイデアを出して企画を立てていた。
もちろん、そのために必要な経費や準備などはプロデューサーに頼んだりしている。
プロデューサーはそんな大神リカへ一切の不快感などは示さず、逆に活発的にアイデアを出す姿に感銘すら受けていた。
配信において妥協は許さない、というプロ意識は、まだ高校生でありながらプロデューサーを畏怖させる時さえある。
そのプロ意識が、Poover内部で絶大な信頼を勝ち取っている理由でもある。
「と、こんな感じの企画を考えています」
私が考えた企画を告げると、プロデューサーが冷や汗をかいた。
「最近リカちゃん凄いね……面白いアイデアがたくさん出てくる」
「ありがとうございます。色々と、最近は体験することが多かったですから」
視聴回数に伸び悩み、深層へ潜ってソラに助けられ……ダンジョン配信事務所『陰陽』が設立されるまでを間近で見てきた。
自分も頑張らなきゃ、と思うのにこれ以上のことはない。
お陰で視聴者も徐々に増えてきている。
手ごたえは感じているんだ……!
いつまでも同じやり方をしていたら、あっという間にソラさんたちから置いて行かれてしまう。
特に、サクヤさんには負けたくない。
別に嫌っている訳じゃない。
どちらかといえば、サクヤさんのことは好きだ。
凄くしっかり者で、頭の回転も速い。
同い年で学生で、親近感が沸かないという方が嘘になる。
人付き合いが苦手そうな感じはするけど、そんなものは弱点にならないほど天才だ。
この世界で、ソラさんの隣に最も相応しい……。
ソラさんの隣……。
マネージャーが口を開いた。
「あっ、リカさんまたソラくんのこと考えてます?」
「へっ!? い、いえ! 違います!」
「暇さえあればソラさんの過去の配信とか見てますもんね~」
「ち、違うって言ってるじゃないですか~!」
否定しても、プロデューサーとマネージャーから苦笑いされる。
「前からリカさん、ソラくんたちに追い付こうと必死になってますからね」
「まぁ、同じ年であれだけ活躍してれば意識するのも分かるけど……ああいう天才たちには負けても仕方ないような気もするなぁ」
「だからこそです。天才に勝つには、努力で埋めるんです。地道に一歩ずつ、派手な一歩はないけれど、確かな一歩を。それがダンジョン配信者、大神リカでしょ?」
「「……っ!」」
マネージャーとプロデューサーが虚を突かれた面持ちをする。
パッと、少し恥ずかしいことを言ったと思う。
ソラさんの影響か、こういうことを最近言ってしまう。
「あっ……えっと、その、負けたくない、って頑張るのって変ですか?」
プロデューサーとマネージャーが目を合わせた。
「……いや、そんなことはないね」
「はい、私もそう思います」
その言葉を聞いて嬉しくなる。
自分だけ突っ走っている訳じゃない。
本気でちゃんと考えてくれる大人がいる。
「もう一度、企画を練り直しましょう! もっと面白いのができるかもしれませんし!」
ピロン……と通知が届く。
負けたくはないと言っても、命の恩人であるソラさんの大ファンでもあるから、配信は欠かさず見ている。
だから、ソラさんの配信通知音だけは特別なものにしていた。
「ソラさんの配信が始まった……?」
このタイミングで……?
あっ、もしかしてこの前戦ってた天狗ちゃんの紹介かな……!
あの子、可愛かったなぁ。
座敷童ちゃんと並べてなでなでしたい……ふへ、へへへっ。
「リカさん、よだれ」
「はっ!」
平静を装う。
プロデューサーが呟いた。
「凄い表情してたね……」
「ソラくんの配信見る時はいつもあれなんですよ……」
「ま、マジか……! ライバル視してる訳じゃないんだ……」
「ただのガチファンだと、俺は予想してます。ソラくんに追い付きたいのも、推しとコラボしたい説を俺は疑ってますよ」
「いや、いやいや……マジで?」
落ち着け私、プロデューサーがいるんだ平静を……。
でも、やっぱり小さくなった天狗ちゃん可愛いかったなぁ。
「ふへ、へへへっ。ソラさんに頼めば抱っこさせてくれるかな」
そう呑気にソラさんの配信を楽しみにしていた。
だが、予想とは裏腹な内容がそこにはあった。
「────ッ!?」
それを見て驚愕する。
悔しいが、笑ってしまう。
「ほんと、あの天才たちは……!!」
少しでも背中が見るかもしれない、と思ったら、すぐにまた遠くへ行く。
ダンジョン配信事務所『陰陽』のメンバー。
所属配信者2名 → 6名
彼ら『陰陽』のホームページにも、それがはっきりと反映されている。
同じように配信を見ていたプロデューサーとマネージャーが叫ぶ。
「よ、4名も増えた!?」
「一体誰が入ったんですか!?」
『陰陽』に新しいメンバー。
しかも、4名も。
一体誰が入った、とSNS上で大騒ぎになり、トレンドを独占していたことは言うまでもなかった。
*
「おはこんちゃろです~、ソラです~」





