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【3月1日発売】ダンジョン配信者を救って大バズりした転生陰陽師、うっかり超級呪物を配信したら伝説になった  作者: 昼行燈


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50.真の姿


 ソラが動いた。


「第二術式展開、呪層壁」


 指先の照準を天狗に合わせ、真っ直ぐ狙うと見せかけてから急に方向を変えた。


「水命糸」


”出た!”

”これマジで予測不能な動きするよな”

”この動きすこ”


 呪層壁を展開し、「水命糸」を放つ。

 直線的に水命糸を放っても風で防がれる。


 なら、風の影響を受けないよう糸を伸ばせばいい、とソラは理解していた。


 何度も反射し、洗練された軌道を描いて天狗へ糸が伸びる。


 ソラが名前を呼ぶ。


「アオ」

「うぃ」


 アオが姿勢を低くし、飛び出した。


 砂埃が舞う。


”はええwww”

”アオもやっぱ早いよな~”

”可愛いだけじゃない”


 天狗の攻撃で腕を飛ばされたアオだが、その眼に恐怖心はない。

 そうしてアオは思う。


(もしも僕一人なら、たぶんしょんぼりと落ち込んで逃げていた)


 飛び出したアオが、複雑な軌道を描く水命糸の跡を追う。

 

 ソラが放った水命糸の軌道は、天狗の死角になるように伸びていく。

 それは確実な一撃を入れるために。しかし、その本命は水命糸ではない。


 大本命はアオの一撃だった。


 御影アカリとの共闘で、ソラは他人を頼って戦うことを知った。


 ソラにとって他者は足手まといではない。

 守るだけの対象ではない。


 ソラに頼られている。

 

(僕が立ち向かえるのは、ひとえにソラが隣にいるから。ソラが隣にいるから、僕は怖くない)


 ソラとカツ。

 どちらが好きか聞かれたら、たぶんずっと悩んでる。


 どっちも好きだから。


 だから……ソラとカツのために、己の刀を振るう。


 

 水命糸が複雑な軌道からギュギュッ、と天狗に伸びる。そうして糸が絡まるも、天狗を両断するには至らない。


 ソラが呟く。


「……硬いな。風を腕に巻いてるのか?」


 天狗は今、自身の体に呪力の風を纏っていた。

 言うなれば、ヴァルのような強力な防具を付けている。


 水命糸では決定打にならない。

 

「捕まえたぞ、小童。このまま糸を引っ張ってやろう」


 ソラが不敵に笑う。


「いいよ、綱引きしようか?」


 すると、今度は影が天狗の横を通り過ぎる。

 天狗はその影を目で追った。


 カチャ……と音が鳴る。


 天狗の背後に両手で刀を握りしめ、低姿勢のアオが居た。


「後ろ。がら空き」


 アオが迷いなく一刀を叩き込む。


 洗練された一連の動作に、見ていた人々は思わず手が止まる。

 

 さきほどまで良いようにされていたアオが、天狗を倒すかもしれない。

 

 その瞬間を逃すまい、と瞬きをやめる。


 キィィンッ……! と火花が散った。


 アオが顔をあげた。

 手に来るはずの感触は、まるで石にぶつかったような痛みだった。

 

「……っ!」

「刀も効かぬぞ?」

「物理も効かない……こいつ、嫌い」


”アオ!”

”アオ下がれ!”

”逃げろ!”

”ヤバいッ!!”


 アオに大きな隙が出来た。

 その隙を天狗は見逃さない。


「さらばだ!」


 五枚羽の扇が振り下ろされる。


 ソラの声がした。


「複合術式────第四術式展開、第三術式展開」


 術式の同時発動。

 魂を司る術式と、収納するだけの術式の発動。


 ぱっと聞いた人は、みな首を傾げるだろう。


 そんな術式で何をするというのか。


 現代では、ソラの陰陽師としての本質を知っている者は誰も居ない。


 ソラが最も得意とする戦い方は、力押しではない。ましてや騙し討ちでもない。

 多くの手数や複雑な術式を使いこなすその天才的な技量にあった。 


「真命操作、陣地入替」


 かつて東京ビアドームで見せた真名操作。

 式神と呪力で繋がり、操作することができる能力。


 さらに、紙人形と場所を入れ替える陣地入替。


 シュンッ……! 


 アオと天狗が驚く。


「「────ッ⁉」」


 天狗の目の前にいるのは、大きな隙を見せていたアオではない。


 万全の状態で構えて待っているソラだった。


「なっ⁉」


 ソラはアオと呪力で繋がり、陣地入替で場所を交換した。


 されど、天狗に焦りはない。


 アオの一刀で確信していた。


「刀は効かぬぞ!」


 驚いたところで、迷わず扇を振り下ろせばいい事実は変わらない。

 逆に追い詰められたのはソラなのだ、と。


「五枚羽・風神!!」


 天狗が扇を振るう。

 しかし、天狗は大きな勘違いしていた。ソラはアオを救うために、飛び込んできたのだと。


 ソラが片手で印を組む。


「第九術式展開」


”あ……”

”あ”

”あ”

”あ…”


「水命蜘蛛糸」



 ────バァァァンッ!! と音が響いた。



 強風が吹き荒れ、またもアオの前髪がすべて逆立つ。


「風、強い……」


 ようやく場が落ち着くと、青色に光る陣がソラを中心に展開され、そこから無数の水命糸が飛び出していた。


 天狗の扇は、糸によって防がれソラの寸前のところで止まっていた。


「ここまで近づけば、第九術式もかなり強いでしょ?」

「こ、この……!!」


 全身を糸で縛られ、天狗は身動き一つとることができない。


 どれだけ強くとも、風を起こさなければ天狗は無力。

 ソラはその性質を知っていた。


 勝者、上野ソラ。


 そうはっきりさせるには、十分すぎるほどの状況だった。


”うおおおおおおおおおおおおおお!!”

”うおおおおおおお!”

”勝った!!”

”ソラが勝ったぞ!”

”やっぱこの兄弟だわ!”

”よしよしよしよし!”

”また式神チャンスか!?”


「うーん、どうしようかな」

「ソラ、天狗料理」

「いやダメだから……そもそも食べ物じゃないよ」


 アオがしゅん、とする。


”なんで落ち込むんだよwwwwww”

”落ち込んでて草”

”ちゃんと魔物してて可愛い”

”逆にカツが困るだろwww”


「な、なんじゃ!? 儂を食べるのか!?」

「食べないよ」

「じゃが、そっちの奴はずっと天狗料理天狗料理と……!」


 アオと天狗の目が合う。


「……じゅるり」

「食べる気じゃろうが!」


 ソラがどうしようか悩んでいると、すすり泣く声が聞こえ始めた。

 

「ひぐっ……」


”え?”

”え……誰か泣いてる?”


「嫌じゃ……嫌じゃ!」


 それは天狗から発せられていた。


「食べられるのは嫌じゃ~!」


 ポンッ!! と天狗から煙が出る。

 

”!?”

”まだなんかあるのか!?”

”形態変化的な奴!?”


 人々は驚愕しながら、身構えた。

 まだ何かしてくるかもしれない。


「うおおおお! 離せぇぇぇ! 儂は逃げるんじゃ~!」


 煙が晴れたかと思えば、そこには糸に縛られ身動きの取れない小さな少女の天狗がいた。


「嫌じゃ~……食べられとうない~……」


 ソラとアオが固まる。

 同様に、それを見ていた視聴者たちも固まった。


 千年天狗は自身の能力で、自分の姿を変えていた。


「……封印されてた理由、少し分かったかも」

 

 強力な力を持ち、陰陽師の大きな敵となりえる千年天狗。

 だが、祓われずにこうして封印されていたのは……本当はまだ、千年天狗が子どもだったからではないのか。


 そして、そんなことをする人物をソラは一人知っていた。


「……もしかして千年天狗を封印したの、晴明か?」

 

  

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