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【3月1日発売】ダンジョン配信者を救って大バズりした転生陰陽師、うっかり超級呪物を配信したら伝説になった  作者: 昼行燈


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49.ククリ


 ソラが手印を構える。


「第九術式展開」


 前方から突撃している千年天狗は奥歯を強く噛む。


(ギリギリまで呪力を隠していたか。小癪な奴め)


 ソラへ向かっていく突風が、さらに強くなる。

 そうして、千年天狗は笑った。


(奴はミスを犯した。これから奴が放とうとしているのは、アオの腕を繋げた時に使った物と同じ)


 ソラが御影の蔵で拾った第九術式の腕輪は、術式を発動すれば光る特性があった。


 それを天狗は見抜き、さらに推測していく。

 陰陽師との戦い、それは単なる力比べや呪力による戦いではない。


 相手の手を潰し、こちらの有利な手を通す。


 今、ソラが第九術式を発動した時に道具が光った。


(小童はアオに近寄って術式を発動した。つまり、上野ソラの第九術式は近距離型!)


 上野ソラへ近寄らなければ良い、と結論を出す。


(術式を空振りさせて、意表を突く。そこを刺せば良い……!)


 ソラの目前まで迫ると、千年天狗は大きく扇を振った。


「逆風」


 ソラが僅かに眉を動かした。

 

「ん?」


 ソラとの間合いを見極め、術式圏内ギリギリのところで天狗は止まって見せた。


「ほう、術式を発動しないか」


 術式を空振りさせる、という狙いは誰の眼から見ても明らかだった。


”あの速度から止まれるのか!”

”すごっ……”

”ピタッ、と止まった!?”


 ソラは天狗の狙いに気付き、印を組んだまま動かない。


 今度はより近くでお互いに向き合う。

 そうして上から覗き込むように、天狗が煽る。


「どうした、術式を発動しないのか?」

「……」

「それとも届かないのかのぉ? 小童」


”めっちゃ煽るやん”

”こいつ、意外と考えて戦ってるのか?”

”煽ってくる魔物なんて聞いたことないんだけど……”

”なんか対人戦みたい……”

”ソラ、挑発に乗るなよ!”


 視聴者数の増加につれて、多くのコメントが流れていく。


 ソラのまだ見せたことのない第九術式の登場、それに未確認の魔物。

 それを見ている視聴者は数百万人にも上る。


 その誰もが、『ソラは出鼻を挫かれた』と思う。


 ソラの第九術式は近距離型の術式で、ここは他の術式を使うしかない。

 

 相手が第九術式を使え、と挑発していることは明白である。それにわざわざ乗ってやる必要はない。


”こうなったら、他の術式を使うしかないでしょ”

”アオと協力すれば余裕で勝てるんじゃね?”

”最強兄弟コンビ……!”

”ソラはなんで動かないんだ?”

”まぁ流石に第九術式は使わないな”

”ソラ、どうするんだ……?”


 刹那、ソラは続けた。


「第九術式」

「────ッ!?」


 第九術式の腕輪が光る。


”ファ!?”

”使えって誘われてるのに使うの!?”

”え、近距離型の術式じゃないの?”

”どういうこと!?”

”外したら隙を狙われるだろ!?”


 コメントと同じように、天狗も内心で驚く。


(近距離型の術式ではないのか? だから、儂が止まっても術式を発動しなかったのじゃろう?)


「距離をッ」


 天狗の予想は当たっていた。


 第九術式────それは、近距離向けの術式である。

 

 その道具の正式名称はククリ。

 過去、ソラが愛用した道具の一つである。


「────水命結糸」

 


 *


 千年天狗は距離を取り、眉間を寄せる。


「なにも起らんではないか」

「もう起こってるよ」

「抜かせ。術式を外したことを認め……」


 そこでようやく、天狗は違和感に気付いたようだ。


「足が……上がらない?」


 天狗の足は、まるで地面と足が糸で縫われたようにピクリとも動かない。


「第九術式は水命糸の進化系。水命糸ってさ、手から一本か二本程度しか出せないんだよね」


 自身の周りに水色の糸を纏わせる。


「威力や強度は十分、でも手数に欠ける。だから、俺は作ることにした。いっぱい糸が出せる術式をさ」


 威力や強度は落ちるが、細かく大量の水命糸だ。

 平安時代、陰陽師たちは第九術式のことをこう呼んでいた。


「……見えない糸か!!」

「そういうこと」

 

 「ムッフー! 凄いでしょ」と俺は鼻を高くする。


 これを作るのにどれほど苦労したか。

 細かすぎる糸を一本ずつ脳内処理なんかできない。その処理を道具に背負わせることにした。

 

 お陰で、消費の激しい術式になってしまった。道具もすぐ壊れるし。

 でも、さっきのアオの腕を繋げたように、人を治すこともできる。


 俺の中ではお気に入りの術式なのだ。


”なんか地味”

”見えない糸か、強そうだけど画面越しだと見えんな”

”もっと派手なのかと思ってた”

”でもドヤ顔可愛いからヨシ”

”ドヤ豆”


「あれ?」


 思ってた反応と違う。

 いや、でも画面越しだと実際見えないか。


 俺も目を凝らしても分からない事あるし。


 うーん、何か違う術式の方が良かったのかな……と悩んでいると、天狗が動きを見せた。

 

「この程度の術式で……!」

「でも、僕には十分」


 天狗の後ろに回り込み、アオが刀を振りに行った。


 ビュンッ、と風が吹く。


「……あれ、いない」


 天狗はアオの攻撃を回避し、俺たちの頭上に浮かんでいる。

 無数の糸を風で断ち切ったようだ。


「どの時代でも、陰陽師の戦い方は変わらぬな。小癪で小細工を使う。見えない糸など、晴明家そのものみたいではないか」

「俺、パワー型の陰陽師じゃないしね」


 俺の本質は手数にある。力だけのゴリ押しなら、俺の実力は晴明にすら及ばないだろう。

 アオが「やろうとすればできる癖に」と呟く。


「でも、パワーでゴリ押されるよりも、パワーもあって手数もあって、崩すことができないって嫌じゃない?」

「嫌。性格悪い」

「でしょでしょ」


 あれ、今性格悪いって言った?

 

「まぁ良いか……第三術式展開」


 懐の札を取り出し、収納していた刀を召喚する。


「そろそろ、終わらせに行こうか」


 隣にいるアオは、俺と同じように刀を持ち、片手で印を組む。

 もちろん、見ている相手は天狗だ。


 アオが呟いた。

 

「天狗料理チャンス……」


”まだ言ってるwww”

”天狗食うなwww”

”食えねえよwww”




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