39.第九術式/羽団扇
蔵の中は、思っていたよりも整理されており、酷いのは数百年も放置されていた埃や汚れである。
補修工事された部分もあるため、すべてがすべて昔のままという訳ではないようだ。
「あんた、マスクしなくていいの? 埃凄いけど」
「マスク苦手で……」
「ほんと現代人じゃないわね」
あれ、息できなくてなー。
アカリが、いくつかの箱を目の前に持ってきてくれる。
その中身を見ていくことにした。こっちの方が配信もしやすいしね。
”ほんま、ソラって怖いもの知らずだよな”
”この蔵の雰囲気、なんか嫌な感じするわ”
「御影一族の蔵はだいぶ良いですよ。きちんとした結界術と封印がなされているので、そんなに怖くないです。ちょっと怖いな、って思うのは夜中の神社とかですけど」
”夜中の神社は怖いわ”
”昔に肝試しで行ったことあるけど、すげー怖かったw”
”寺とか、トンネルじゃないんだ”
寺ってのは、供養されていることが多いからそこまで怖がる必要はなかったりする。
だらか余計に、手入れのされていない放置された神社が一番ヤバかったりもする。
”ソラが過去に見てきた場所で、一番ヤバかったのってどこですか?”
ふむ、俺が一番過去にヤバかった場所か……。
正直、いくつもあるから一番は決められないな。
「うーん、神代関連は基本ヤバかった印象があるけど」
”神代って、神様のことだよな”
”!?”
”なんか急に伝説みたいな話題が出てきて草”
コメントをたまに拾いながら、蔵の中にある呪物を確認していく。
思っていたよりも、危険な物はないな。
これは縄の呪物で、こっちは能面の呪物だ。
縄の呪物は相手を拘束し、自動で縛り上げる。
能面の呪物は、仮面を被った人間の感情を爆発させる。
ガサゴソと漁る。
「ん、なんだろこれ。源氏物語?」
青い表紙の本だ。
”ファ!?”
”!?!?”
”なんか、コメントが荒れ出したけど”
”ただの昔の本じゃん”
”いやいや! これヤバいから!”
「アカリ、何かこれ凄いの?」
「さぁ……私も知らないわよ」
”青表紙本だぞ!”
コメントが言うには、かなりのお宝らしい。
おぉ、さっそくお宝発見か。
よし、次。
そこからも、呪物や有名な人の初版本? とかが出てきた。
歴史的に価値のあるものばかりだったようで、違う意味で有識者のコメントが溢れかえっていた。
まぁ、御影一族の物だし、俺にはあまり関係ないかな。
「これで終わりかしら……あとは、奥に持ってこれないような大きな荷物があるくらいで」
「じゃあ、それを見ようか」
”な、なんかコメントしてる方が疲れてきた……”
”戦闘とは全く違う意味で衝撃で草”
”なんでこいつら平気なんだ……”
”無知って恐ろしい……”
アカリに案内され、蔵の最奥部に入った。
そこには、刀掛けのような物に、布がかぶせられている何かがあった。
その形状に、どこか俺は見覚えがあった。
過去に俺が使っていた道具は、全て消えたと思っていた。
一から作ることはまず不可能。
俺は自然と、手を伸ばしていた。
「ソラ?」
第七術式……その術式は炎を司る。
それはかつて、俺が御影一族の呪いから救った際に仲間にした、スメラギの力を術式へと転用したものだ。
第六術式も、似たようなものである。その後に続く術式も、すべて俺の式神から着想を得て開発した。
晴明の奴、粋な事してくれるじゃん。
布を取り払うと、そこには腕輪があった。
「懐かしいな……」
知っている。
俺はこの道具を知っている。
「────第九術式の、道具だ」
迷わず手首に嵌めて、久々の感覚に酔いしれる。
しかし、妙なことに気付いた。
「……ふんっ!」
呪力を流しても、反応がない。
「あれ?」
ペチペチ! と腕輪を叩く。
”何してんのwwwwwww”
”叩けば直るテレビでも使ってんの?”
”草”
”草”
「これ、壊れてる……」
そんな。
「ソラ、それも呪物って奴な訳?」
「まぁ、呪物じゃないんだけど、似たようなものだよ。かなり便利な代物だよ」
流石に、千年以上もの時が過ぎてしまえば、仕方のないことなのかもしれない。
「でも、直せるかなぁ……」
”なんかの道具っぽいな”
”ソラは新しい装備を手に入れた!”
”古い道具を使うって、なんかそれっぽい”
「アハハ……でもこれ、壊れてるので。直してみますけど」
現代にもちゃんと材料があればいいんだけど……術式道具は繊細だから、直すのも大変なのだ。
アカリが首を傾げた。
「どうやって直すのよ、そんな昔のもの」
「えーっとね、基盤の呪詛の輪は壊れてないから、緑柱石が必要なくらいかな」
「りょくちゅ……なにそれ」
”エメラルドだな”
”エメラルド”
”はい、速度負け”
”お前の勝ち、どうして勝ったのか明日まで考えてきてください”
”回線だろ”
サクヤに頼めば、用意してくれるかな。
当時の緑柱石ってむちゃくちゃ高級品だったんだよね。
そうそう手に入る代物じゃなかったから、作るのもかなり苦労した。
さて、蔵の捜索は大体終わったかな。
封印が解けかかっているものがあったけど、再封印は施したし、呪物も問題がありそうなものはなかった。
座敷童が守ってくれていたのは、第九術式のことだったのかな。
フル装備があるかもしれない、と思ったけど……あったのは第九術式だけか。他の術式は別々に保管してくれているのかもしれない。
でも、第九術式が見つかって良かった。
この術式は、最も人を救う術式だ。
まぁ、使うにしてもまずは直さなきゃね。
*
アオ、グラビト、座敷童の三人は蔵の中を探索していた。
アオが手を伸ばすたび、頭の上に乗っているグラビトが手で弾く。
ペシッ。
「こら。アオよ、変に触るな。何があるか分からんぞ」
「グラビト、厳しい」
「……こ奴ら、怖いのぉ」
アオとグラビトとの攻防戦が始まり、ぺしぺし合戦に座敷童が呆れていた。
「ん? グラビト、あれなに」
アオが頭上の棚にある、五枚羽でできた団扇を見つける。
「なんだ、どれのことだ」
「あの扇子みたいな奴」
グラビトもよく分からないようで、首を傾げる。
座敷童が教えてくれた。
「あれは平安時代に阿修羅天狗が使っておった羽団扇じゃ」
妖怪の武器である。
それはかつて、ソラが生きていた時代にいた日本三大妖怪の一人が持っていた武器である。
ソラは、阿修羅天狗を討伐していない。なんなら、日本三大妖怪はソラから逃げ回っていたのだ。
そして、千年以上もの月日が経ってから、莫大な呪力を持つ者が蔵に入った。
ソラとアオ。
この二人は呪力を制限する能力を身に着けている。しかし、自然と漏れ出してしまう呪力まで抑えることはできない。
その自然に漏れ出た呪力が、蔵の中を漂っていた。
そして、その行き場のない漂っている呪力は、阿修羅天狗が使っていた五枚羽でできた羽団扇に吸収されていた。





