表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【3月1日発売】ダンジョン配信者を救って大バズりした転生陰陽師、うっかり超級呪物を配信したら伝説になった  作者: 昼行燈


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/63

38.開けました


 座敷童が言うには、安倍晴明から守れと言われた道具や、蔵にはとある大妖怪が使っていた物があるのだとか。

 悪しき心を持つ者が蔵へ侵入し、もしもそれが盗まれでもしたら、世の中にどんな悪影響をもたらすか分からない。

 そうならないように、座敷童は数百年もの間守り続けてきた。


「待たれよ。陰陽師は最盛期であった頃と比べ、大きく力を失っておるじゃろう。悪いことは言わぬ、蔵を開けるでない。御影一族でない者が中に入って、その身体にどんな影響がでるか……」


 心配してくれる座敷童の頭を軽く撫でる。


「大丈夫。たぶんだけど、封印が解けかかってるものもあるだろうしね。再封印しなくちゃ」


 俺は手首を押さえながら、僅かに微笑んだ。

 きっと、晴明が残した物は日記だけじゃない。


 平安時代で、俺は多くの課題を残したまま亡くなった。

 晴明はたくさんの苦労をしたはずだ。


 サクヤが手を振って叫ぶ。


「ソラ~! もういけるぞ~!」

「うん! 始めて良いよ!」


 晴明が蔵を守れ、と座敷童に命令したのには意味がある。この蔵に何を残したか見たい。

 まぁ、配信しながらになるけど。

 陰陽師には封印する仕事もあるんだよ、戦うだけじゃないんだよって、みんなに教えたいしね。

 

「蔵の処理は、俺がなんとかするよ」


 座敷童が、パッと瞳を開く。


「だから、任せて欲しいな」


 座敷童が呟いた。


「まるで、晴明と似たようなことを言うのじゃな……」


 そりゃ、晴明のことを育てたの俺ですもん。

 そう思い、懐かしい記憶を思い出して行く。


『靴下を脱ぎっ放しにしないで、とあれほど言ったじゃありませんか! 私がいつも片付けてるんですからね!!』

 

 あれ。


『苦手な野菜もちゃんと食べてください! お肉ばかり食べているではありませんか!』


 あれ?


『いつまで寝てるんですか! 仕事ですよ!』


 あれれ?

 ……うん! 晴明は俺が育てた!


「よし!」

「何を思って、よしと言ったのじゃ……?」

 

 もう良いじゃないですか。

 過去のことは水に流してさ。晴明もきっと笑って許してくれるよ。

 ほらほら、配信に集中しましょう!


 俺は人気配信者なのですから。

 

”配信きた~!”

”ソラマメの配信だ!”


「こんにちは~。どうもソラです~」


 本日行う企画を簡単に説明する。

 サクヤの技術はやはり一級品で、アカリの身バレ防止のために徹底した対策を取ってくれた。

 蔵と俺たち以外はすべてモザイクを掛け、外部の音も遮断している。


「今日はですね。御影アカリさんの家にある古い蔵を開けてみよう、って回なんです」

 

”将軍の!?”

”ここにきて一匹狼の将軍が、ソラに懐柔されたか”

”古い蔵なんか、何があるの?”

”将軍! 将軍! 将軍!”

”変なの湧いてて草”

 

 将軍のファンも来てくれたようで、視聴者数はどんどん上昇していく。

 当の本人であるアカリが慣れた様子で、鍵を見せる。

 

「まぁただの蔵よ。レアものが眠ってたらいいわね、くらいね。視聴者のみんなが期待しているようなものが出てくると良いけど」


”小判”

”日本刀とか”

”鎧とかかもしれないぞ”


 俺は正直、その様子に驚いていた。

 前々から、配信とかに抵抗感はないとは思って居たけど……随分と慣れてる様子だ。


 目を丸くして見ていると俺の心中を察することができたのか、アカリが答える。


「ん? あぁ、私は冒険者インタビューだったり、雑誌とかでたまに取材を受けてるから。何かに撮られるってのは慣れてるのよ」

「ほえ~! 高校生なのに凄いね!」

「あんたも高校生でしょうが……」


 そうでした。


”高校生にしちゃ、凄いよな”

”こいつら、高校生の枠に入り切ってないからな”

”どっちも億稼いでてもおかしくなさそう”

”ソラの雰囲気って有名人って感じしないよな~、そういうとこ凄い”


 これまでやってきたことを思い返すと、たまに高校生であることを忘れてしまう。

 そろそろ夏休みかななどと呑気に思っていると、アカリが蔵の鍵を開けようとする。


 不安そうに見ていた座敷童が、一層眉を顰めた。


「おい、本当に開けてしまうのか」

「座敷童ちゃん、で良いのよね。うちを守ってくれてたのは嬉しいけど、怖がりすぎよ。ただの蔵じゃない」

「じゃがなぁ、アカリよ。晴明からも、『下手に開けてはいけない』と釘を刺されておったのじゃよ」


 座敷童の役割は、あくまで蔵を守ること。別に開けたり、掃除したりは対象外のはずだ。

 彼女のルール上には引っ掛からないはず……。

 

 呪物が封印されているのは間違いない。他に何か封印している……?

 

 でも、千年近くも前に封印を施された蔵ならば、どこかの封印が解けかかっていてもおかしくはない。

 

 見過ごすことはできないな。


”その子誰?”

”おかっぱ少女”

”唐突に出てきた可愛い子”

”のじゃロリか!?”


「うおっ、なんじゃ!? コメントがドッと……」

「えーっと、この子は座敷童です。御影一族の家で暮らしてて……」


 すると、雪崩のようにコメントが走る。


”座敷童!?”

”ってことは妖怪か!?”

”まじか!!”

”妖怪って実在したの!?”

”キョンシーじゃないか?”


 アオと同じこと言ってる人いる!

 即行で心の中でツッコんでしまう。

 

”キョンシーはないだろ”

”いやいや、キョンシーはない”

”どこからどう見ても座敷童”


 アオが呟く。


「キョンシー……」


 それをドローンのマイクが拾い、さらにコメントが論争を始める。


”これは座敷童”

”これはキョンシー”


 アオが「おぉ~! これが人の争い……」などとコメントに集中している間に、こちらはこちらで進めてしまう。


 座敷童が、俺の袖を引っ張る。


「おい、ソラとやら。お主が本当に陰陽師といえども、第何術式まで使えるのじゃ」

「え?」

「知っておるぞ、本物の陰陽師は術式を何個も使える。晴明は少なくとも……」

「第十四術式まで使えた、でしょ?」

「……ッ!!」


 だから、歴史に名を残せた。


「ちゃんと覚えてるよ。晴明は天才だったからね……」


 第十四術式? それだったら、ソラも使えるんじゃないか? と言われるかもしれない。

 でも、それは少々異なるのだ。


 晴明は、十四もの術式を()()()()で扱うことができた。

 

「俺なんて、晴明に比べたら凡人も良い所だよ」


 スッキリとした面持ちで告げる。

 だって俺は、素の能力で第七術式までしか使えない。


 俺は第七まで。

 晴明は十四まで。


 この差は、その人間が生まれ持った才能や器によって変わってしまう。

 大抵の人は第五術式まで、器がある人は第七術式まで。

 

 そして、才能がある人間ですら第九術式までが限度だ。


 それをはるかに超える晴明は、どれほど凄いか。


 道具がなければ戦えない、なんて恥ずかしいでしょ。

 

 もしも戦闘中に破壊されてしまったら、もしも道具が動作しなかったら。

 道具には、そんな危険が孕んでいる。

 

 道具が無くなったら戦えない、なんて陰陽師もいたしね。


「……凡人にしては、呪力量がかなり馬鹿げていると思うが……」

「アハハ。俺、別に呪力を見る目とか持ってないから、自分の呪力量とか知らないんだよね~」

 

 感覚で把握しているだけ。

 晴明はもっとあるんじゃないか? 俺、一応凡人枠だったし。


 『お前のような凡人がいるか!』って同僚に言われた記憶もあったような、なかったような……うーん。


 まぁ、いっか!


「本当に、何者じゃ……?」


 アカリの声がこちらに届く。


「開いたわよ~」


 蔵が開き、埃っぽい匂いが鼻につく。


”ワクワク!”

”こういうのすげー面白いわ!”

”楽しみすぎる”

”もう座敷童でもキョンシーでもどっちでもええわ!”

”蔵だ~!”

”何が入ってるんだ?”

”凄い物が入ってそう”


 俺は鼻歌交じりに、一歩を踏み出した。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ダンジョン配信者を救って大バズりした転生陰陽師、うっかり超級呪物を配信したら伝説になった
3月1日発売!!
クリックすれば購入ページへ飛ぶことができます
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ