37.座敷童②
まだ日本に妖怪がいたことに、俺は驚きを隠せずにいた。
座敷童か……彼らは子どもの姿をしており、能力からも俺が目視することはできない。
アカリに蔵まで案内してもらったのち、叫び声が屋敷に響いた。
アオが事情を話してくれて、気絶したグラビトと座敷童を引っ張って和室へと移動した。
「それで、私とソラは見えなくて、なんでアオとグラビトなら座敷童が見れる訳?」
俺はその理由に、なんとなく見当が付いていた。
「たぶんだけど、ヴァルだったら見えてないと思うよ」
その理由を、アカリやアオ達にも分かりやすく説明する。
アオとグラビトが座敷童を見えた理由。
・アオは子どもの心を持っているから。
・グラビトは過去に第四術式で呪力と交わり、さらには体を人形に移し替えたことで魔物としての性質が大きく変わり、その存在は妖怪に近いものになったから。
妖怪の能力はいわば、自分ルールを強制するようなものだ。
座敷童が見える条件は
・子どもの心であること
・同じ妖怪であること
どちらかを満たしていない限り、まず見えない。
「確かに……ソラの言う座敷童のルールがその通りなら、納得だわ」
懐から紙人形を取り出す。
「アオ、これを座敷童の頭に付けてくれ」
「あい」
ペタッと紙を張る動作をすると、みるみるうちに姿が現れてくる。
アオが呟いた。
「これが、キョンシー」
「座敷童だよ」
あれ、俺がツッコみに回るって相当じゃないか?
なんとなく、カツさんの気持ちを少し理解してしまった。
「ん……」
座敷童が起きる。
はっきりとお互いの眼が合い、固まる。
「……もしや、見えておるか?」
「見えてる」
「見えてるわね」
座敷童が自身の頭に張り付けられている紙に気付く。
「なんとっ! ん、なんだこの紙は……剥がれない。剥がれ、剥がれない! ムキーッ!」
アカリが耳打ちしてくる。
「あんた、まさか呪力って奴で剥がれないようにしてるの? 凄いわね」
「ううん、瞬間接着剤」
「鬼ね」
鬼とは失礼な。
呪力で剥がれないようになんてできないよ。昔は米粒を糊代わりにしていたこともあったし。
でもすぐ剥がれちゃうんだよねー……今はテープとかあって、凄く便利。
座敷童が紙を剝がすことを諦める。
そうして、姿が見られていることに焦るかと思ったが、アオとグラビトのこともあってか、落ち着いていた。
外見に反して、大人っぽい。
「……なんで姿が見えてるのだ」
「第三術式と第四術式の複合術式だよ。魂の形を見えるようにしたんだ」
妖怪の自分ルールは、あくまで見えないようにすることであっても、『そこにいる』ことは間違いないのだ。
あとはどう見えるようにするか、それは術者の技量にかかってくる。
妖怪との戦いは、魔物とは違って攻略しなければならないルールが多い。
だからこそ、妖怪のルールを無視できる能力を持っていた晴明を、俺は陰陽師の中で一番強くなると思っていた。
平安時代、過去に俺に致命傷を与えた妖怪が持っていたルールは……非常に厄介なものだった。あまり思い出したくないかも……。
「陰陽師か、本物に会うなど数百年ぶりじゃな」
「うん、俺も座敷童を見るのは久々だ」
「……?」
座敷童がまるで、『自分以外の座敷童を知っているのか?』というような面持ちをする。
屋敷に入った時から感じていた視線は、座敷童のものだったか。
危険なものではないと分かっていたが、妖怪が住み着いているとは思いも寄らなかった。
「君以外の妖怪って、もう日本にいないのかな」
「知らぬ。この屋敷からは出ぬ故、外の妖怪は数百年は見ておらぬ」
「そっか」
ふむ……少なくとも、俺が生きていた時代には数多くの妖怪がいた。そして、御影一族に座敷童がいたことは記憶にはない。
つまり、俺が亡くなってから入ってきたのかな。
「なぁ、もしかして君をこの屋敷に誘ったのは、赤髪で、アカリみたいな子か?」
「ッ────!? な、なぜ分かる……? 確かに、アカリに瓜二つであったが……」
あぁ……やっぱり、あの子か。
そうなると、晴明のことも知っているはずだ。詳しい話を聞きたいな。
すると、不機嫌そうなアカリが頬杖をする。
「ねぇ、妖怪の話とか、私みたいな子とか、全く話についていけないんですけど」
そう言われて、どこからどう説明しようか悩んでいると、音を立ててふすまが開いた。
サクヤだ。
「ソラ、配信の準備が整ったぞ」





